ランクD+の激弱ケット・シーが、勇者様に捨てられて魔王様に拾われるまで
私は、運命を改変する力という固有スキルを持っています。
それだけ聞くと大層なスキルに聞こえますが……残念ながら、変えられる運命はちょっとしたものなのです。
たとえば……カジノのスロットマシーンで大当たりを出すとか。
戦闘中に会心の一撃の確率を上昇させることもできるのですが、そのためにはランクD+の弱い攻撃力しか持たない私を戦闘パーティに入れて戦わなければならないため、必然的に勇者様方のお役に立てる機会も減っていきました。
いえ、最初はそれでも良かったのです。
だって勇者様は元はといえばただの村人でした。
レベル1の勇者様に、最初に出来たモンスターの仲間が私だったのです。
三つめの大きな街に向かうまでは、私も勇者様のお役に立てていたと思います。
けれど……人間のお仲間も勇者様も、どんどん強くなっていきました。
仲間になってくるモンスターも、ドラゴン族や高位悪魔族など、私が足元にも及ばない方々ばかり。
そしてついに、その日はやって来たのです。
「ごめん、ケット・シー。
今まで、楽しかった。
でも……これからは、俺達だけで旅を続けるから……だから、さよなら、ケット・シー!」
ドラゴンさん達のえさ代、大変ですもんね……。
悪魔族は、ちょっぴり嫉妬深いですもんね……。
人間のお仲間さん達も、弱いモンスターは要らないって仰ってましたもんね……。
「……はい。
今まで、楽しかったです。
ありがとう、ございました……っ!」
涙をこらえて頭を下げ、乗っていた馬車から降りて走り出しました。
……あ。
私、一文無しでした。
今夜のご飯、どうしましょう……。
――ぐぅぅぅ。
情けない音が山中に響き渡ります。
何も食べていないわけではないのですが、私の運命改変の力によって得られる食べ物は、数個の木の実とかです。
ケット・シーは本来、肉食なんです。
……お腹が空きました……。
「――さ、探してた猫が死んでる……!?」
んぅ?
男性の野太い声が、私に向かってかけられた……ように思います。
「……猫じゃないですぅ」
気のせいかもしれませんが……この声の持ち主、隠しているようですけど、ものすごい魔力の持ち主じゃあないでしょうか?
思わずびくついた私は――なんせランクD+の激弱モンスターですから――、恐る恐る顔を上げました。
「――っ!?」
え、やだ。
もういかにも、魔王が身をやつして人間のフリをしてるって感が満載です。
ハッ!?
なんてことでしょう。
ここは死んだふりをできる好機ではありませんか!
改めて顔を地につけ、いかにものたれ死んだ感をかもし出してみたのですが……。
「いやいやいや、さっき動いてたよな!?」
で、ですよね~!
さすがにバレバレですよね~!
のたれ死に姿勢から土下座姿勢にチェンジしました。
それほど動く必要はありませんでした。
「た、たたたたた、食べないでくださいぃぃぃっ!
骨張ってて皮しかないので、全っ然美味しくないですぅぅぅっ!」
いえ、本当はお肉もありますけどね?
特に胸元に。
……これだけお腹が空いているのに、どうしてお胸はへこまないんでしょうか?
やはり種族的なものでしょうか?
体質とか個人差とか、そんな言葉は認めませんよ?
「喰わねぇよ……」
ため息交じりに零れ落ちてきた声は……頭上でした。
しゅ、瞬間移動!?
「――腹減ってるのか?」
むむ!?
懐から出されたらしい物が私の頭上で香しい芳香を漂わせています。
肉です!
ステーキじゃありませんでしたが、干し肉ですが、それでもお肉ですっ!
「はいっ!」
顔を上げて愛しいお肉様を見上げます。
おぉぉ……なんと、分厚いステーキ肉ばりの干したお肉様が、頭上でフワリフワリと揺れてらっしゃいます!
匂いだけではなく、その視覚攻撃によって私の口内は唾でいっぱいになりました。
い、いけません、涎なんて。
ゴクンと飲み込んで、魔王様(推定)を見上げます。
待てをされた犬と同じ状態です。
猫科ですけど!
「く、喰うか……?」
「はいっ!!」
待ってました~!
私は大地を蹴り上げて土下座から宙に舞い上がり、パクリと干し肉ステーキを口で咥えました。
お、美味しいぃぃぃ!
ちょっと塩分きつめですが、その分お肉本来の味がしっかりとして、さらには歯ごたえもなかなかのもので、お肉を食べているという充足感でちょっぴり意識が飛びました。
気づいたら食べ終わっていました。
「――……ごちそうさまでした……」
お肉様……あんなに愛し合ったのに、あなたは今どこに……。
「おい、お前、勇者と旅してた猫だろ?」
太めの声をかけられて、私はハッとお肉の恩人様を見上げました。
「はい。でも、お役に立てないので馬車を降りました……」
思い出したら、やっぱりちょっと涙が滲みます。
だって、まだ勇者様がその辺の村人その1だった頃から一緒にいたのです。
「ケット・シー、僕たちが一緒なら、きっと魔王を倒せるよね!」
頬を紅潮させてゴブリンを倒した日々。
「ケット・シー、さっきの攻撃、スゴかったよね!?」
初めてメタリックなスライムを倒したあの日。
「やっぱりケット・シーがいないとダメなんだ……!」
はぐれのメタリックなスライムを倒すため、洞窟にご一緒したあの日の夕暮れ。
全部覚えています。
「ケット・シーのおかげで、高価な武器が買えたよ!」
酒場のカジノでは、必ず私が勇者様のお側に控えていました。
いつもなら、戦士様や魔法使い様や踊り子様やドラゴン族が一緒のパーティなのに、酒場でだけは必ず私。
カジノのスロットマシーンに座る勇者様の横にいるのは私と、決まっていました。
けれど……高価な武器防具を買い揃えられた勇者様はもう、カジノに用はなく。
従って私はなんのお役にも立てなくなってしまったのです。
私は慌てて目元を拭いました。
普通のケット・シーとは違う、白地に黒い斑のある毛並みが、目元を優しく撫でていきました。
「――俺んとこに、来るか?」
魔王様(推定)がしゃがみ込んで、私の顔をじっと見ています。
「……え……でも、私はたぶん、なんのお役にも立てないと思います……」
攻撃力も魔力もランクD+なんです。
はっきり言って戦闘の役には立てませんし、魔王様(推定)にカジノのスロットマシーンが必要とも思えません。
「……毎日、ステーキ10枚支給……」
ハッ!?
ステーキといえば、勇者様がカジノでボロ儲けした時にご褒美としてたまにくださったのを食べたことがあるのですが……そ、それが毎日……!?
「……先輩モンスターによる懇切丁寧な指導で、人化スキル獲得可能……」
あ、憧れの人化スキルが獲得できる!?
それがあったら私……一人でカジノに行けますよね!?
自分が欲しかったカジノの景品が、ゲットできるかもしれないってことですよね!?
「半年に一度、こんだけボーナスが出る。
もちろん有給も取得可能だ」
魔王様(推定)が立てた指は……六本。
「……えぇと、六百ゼニー?」
「アホか!
六十万ゼニーに決まっとるだろうが!
基本給はステーキと月に三十万ゼニーな」
こ、高給取り!?
魔王様(推定)って太っ腹過ぎる……!!
「無理な戦闘はない。
戦闘を見守ったり、戦場に同行したりするだけの簡単なお仕事だ」
「う~……ん……」
「もちろん、流れ弾には万全の注意を払う」
じゃあ……大丈夫、かな……?
「えぇと……よろしくお願いしますっ!」
「おう、よろしくな、ケット・シー!」
こうして、私と魔王様(推定)の雇用関係が成立したのでした。
「魔王様、グッジョブです!」
十二魔王のうちの『赤の魔王』ということが分かった魔王様には、やはりというか何というか、四天王様がいました。
魔王城に到着するなり、その水の四天王様が私達を出迎えてくれました。
青色の髪が眩しい、そこそこのイケメン様でした。
その……魔王様ほどではありませんが……。
「気配を探知したお前のおかげだ。
すぐに見つけて保護できて良かった」
……気配?
「白いケット・シーは運命を改変するスキル持ちのレアモンスターですからねぇ……。
はぐれを早急に捕獲できて何よりでした」
……捕獲?
「これで『青』との戦闘が格段に楽になるな」
「全くです」
はっはっは、と笑い合う、魔王様と水の四天王様。
……あの……何か誤解してらっしゃると思うんですが……。
「あの……」
「なんだ、ブランカ」
「はい!?」
なんですか、ブランカって!?
「お前の名前。白いからブランカ」
そ、そうですか……名付けまでしてくださって光栄です……。
「あの、私の運命を改変するスキルの力は……その、そんなに大したことはできないんですが……」
戦闘とか、戦場とかでそれほど活躍できるものでは……しかも、他の魔王との戦闘なんて、お役に立てるわけがないと思うのですが……。
「ん? 会心率上昇できるだろ?」
「それは……はい。
でも、そうなったら私をパーティに入れないとダメですよ?」
「あぁ。……なんか問題でも?
俺は軍隊の指揮執るんだから、お前ぐらい守れるぞ?」
……えぇと、じゃあ、問題ない、のかしら……?
「回復部隊も戦闘力は低いですが軍隊には必要ですからね。
ブランカ殿も必要不可欠というわけなのですよ」
し、四天王様に『殿』って言われるの、すんごい変な感じなんですけど!?
「え、でも……あの……」
なんか私のスキルを過大評価されている気がして、挙動不審気味に誤解を解こうとしたのですが……結局、無駄に終わりました。
「ま、お前はいるだけでいいから」
えぇぇ……いるだけでステーキを毎日10枚も食べてたら、ますますお胸にお肉がついちゃいますぅ……。
それから、私は発奮して人化スキルを覚え、せめて魔王様の夜伽でもしてお役に立とうとしたのですが、断固拒否されてしまいました……。
やっぱりこのお胸のお肉をどうにかしないとダメですよね、はい……。
「……猫耳娘の誘惑が辛い……っ!」
やっぱりこんなぷよぷよのお胸で迫ろうだなんて、魔王様には辛い仕打ちだったんだわっ!
「襲うぞこら!?」
「うぇぇぇ~ん、頑張ってダイエットしますぅぅぅ~!」
こうして、私は魔王城でダイエットに勤しみつつ、スキルの力を磨いて過ごすことになったのでした。
いつかは夜伽のできる穀潰しに進化したいと思いますっ!
そのうちとっ捕まって喰われます。
ざまぁされるのはケット・シーです♪