第九十八話 兄であり続ける事
騒ぐ弟達を落ち着かせる為にセイは声をかけた。
「はいはい、みんなおちつけって。いいもんもらってきたんだ、おとなしくすわってろ」
そんな言葉を聞いたみんなは目をキラキラさせて、素直にセイの言葉に従った。
「じつはな、にーちゃんのかぞくにでんごんがあって、あいにいったんだけどな。そこでかえりにおみやげだっつって、おいしいもんもらったんだ。」
「なにー!?セイにーちゃんなにー!?」
弟達が口々にセイに質問をする。
「おちつけって、いまからやるから、さわがない。いいな?むこうではにーちゃんがイーナのちりょうしてんだ。それにフォウがおおきいこえにおどろくだろ?」
セイの言葉に弟達はバっと口を押さえて静かになる。
「うん、よし。じゃあひとりずつわたすから、さわぐなよ」
そう言ってセイは袋の中にあるパンを1つずつ出して弟達に渡した。
みんな目をキラキラさせ、甘い香りに喉を鳴らしてセイの言葉を待っていた。
「いいぞ、ゆっくりあじわってくえよ!」
わっと軽く歓声が上がって皆それぞれに甘いパンを頬張った。
セイがそんな弟達を見て満足していると、一人パンを見つめて沈んでいるテトを見つけた。
セイは隅に座りパンを見つめて項垂れるテトの元へと向かい、そんなテトの隣に座った。
「テト、たべないのか?」
セイの声に押し黙っていたが、しばらくしてぽつりと声を漏らした。
「セイにーちゃん……イーナねぇちゃんが……ぼく、なにもできなかった」
「うん」
「ぼくが、ぼくが……このパンをたべていいのかな……」
そんなテトの言葉にセイは泣きそうになる自分をぐっと押さえ込んでテトの頭を優しく撫でた。
「あるにきまってんだろ。イーナだって、ぜったいいまいたらあたりまえだよって、だきついてあたまなでてるよ。だから、あれはきにすんな。それにきっとにーちゃんがイーナをなおしてくれる」
「うん……うん……」
「だからな、イーナがなおったとき、テトがおちこんでたらイーナもかなしんじゃうだろ。イーナのためにもげんきだそうぜ、テト」
そんな言葉と共にクシャクシャっとテトの髪をかき混ぜた。
テトはセイの言葉にぽろぽろと涙を流しながらもコクコクと頷いていた。
そうして、力なくはあるが、ニコっと笑いパンを食べ始めた。
そんなテトを確認してセイは立ち上がるとそっと家から出た。
家から少し離れた所まで歩き、この近辺で立派に育っている大きな木の根元まで行くとそこにしゃがみこみ、ヒザを抱えて頭をうずめた。
嗚咽を必死に押し殺しながらも、セイは涙を止める事が出来なかった。
テトにはあんな風に励ましたけども、セイだってずっと不安なのだ。
だけどセイは「おにいちゃん」だから、セイがしっかりしないといけない。
弟達はセイを頼るしかないのだから。
でも、だけど・・。
そうしたらセイは誰に頼ればいいのか?
いない。誰もいない。
誰にも頼れない。
そんなセイは時々抑えきれない不安や恐怖を抱える時がある、ここ最近は満足な食事も出来ずに緩やかな死へ向かっていた。
それをどうにも出来ない、大事な家族へ何もしてやれない不安や恐怖。
そして悔しさ。
家族を守る事すら出来ない己の不甲斐なさ。
「おにいちゃん」でいられなくなった時、セイはいつもこの木の根元へ行き一人静かに嗚咽を漏らしていたのだ。
「う……ううー……」
そこにはテトを励まし、弟達に笑顔を向ける頼れる「おにいちゃん」はどこにもいなかった。
年齢相応の、心に不安や恐怖を抱えた9歳の少年がそこにいるだけだった。
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