第九十七話 抱えきれない食材
セイは帰り道を急いでいた。
送ろうかとアソートに言われたのだが、セイでもそれは危険だと分かる。
アソートがもしスラム街に足を踏み入れれば、女に飢えた輩がきっと黙って見過ごしはしないだろう。
サイリールは大人の立派な体格をしているのでいくら綺麗な顔でも満足に飯も食ってないスラム街の大人では、かないはしない。
しかし、アソートの場合は線が細く、見た目はただの少年だ。
それにあの中性的な美しい顔、きっとスラム街の飢えた男が襲ってくる。
だからセイは全力で拒否した。
にーちゃんがスラム街に来たら危ないと。
アソートもその理由が分かったのか、苦笑しつつ、これでも強くなったんだけどなぁ。とぼやいていた。
それでも無理にセイに送る事をしつこく言わずに、その代わりにと少し大きい袋をくれた。
性能を聞いて遠慮したのだが、アソートにそこだけは押し切られてしまった。
この袋もサイリールが作ったもので、セイが腰につけている小袋と同じ仕組みだった。
驚いたのが、こっちの袋は中の時間が止まるのだそうだ。
自分の手も突っ込んだら時間が止まってしまうのではないか?と少し怯えたセイであったが、外と繋がってる物は止まらないとの事だった。
袋の中に完全にいれると止まるらしい。
ただ、生きた物は中に入れても袋の口から飛び出してくる仕様になっているのだそうだ。
だから、うっかりネズミが入り込んでも中の食べ物を荒らされる心配もない。
セイはありがたく袋をもらい、袋にはアソートに貰ったパンをいれた。
この為にくれたので入れないはずがないけども。
そうして感謝をして家に帰ろうとしたらきれいな女性に呼び止められた。
「もし宜しければこちらもお持ちくださいませ」
そう言ってくれたのはどこから出したのか、たくさんの食材だった。
どれもとても新鮮で瑞々しい上に様々な肉まであるのだ。
やはり貰えないと遠慮しようとしたのだが、女性もぐいぐいと押してくる、押しの強い人だった。
セイは苦笑しながらも、目尻に涙を溜めつつ感謝の言葉を述べた。
「にーちゃんたちのかぞくはおしがつえーな!えへへ、ありがとな」
そうしてサイリールの家族と笑顔で別れたセイは急いで家へと向かった。
弟達に任せてきたが、フォウの事が気になっていたのと、やはり甘いパンを早く皆に分けてあげたかった。
最後の別れ際、あのきれいな女性に言われた言葉はどういう意味なんだろう?
『食材が減ったなと思ったら足しておきますのでご安心下さいませ』
本当にどういう意味なのだろうか。
またいずれ会いに来るという意味なのだろうか。
いずれにしても、考えても仕方ない事だ。
また会えるならそれはそれで嬉しいのだから。
今は弟達の元へ急ごう。
走って走って、やっと家が見えてきた。
家が見えたセイは走る速度を緩め、息を整えつつそれでも少し早く歩いた。
アソートに貰った袋をぎゅっと抱きしめて。
「ただいまー。かえったぜー」
セイの明るい声に家の中からは次々とおかえりーおかえりーと声がした。
その声にじんわりと心を暖めつつ、セイは全員いるか確認をした。
皆部屋の真ん中で車座になっていた。
中心にはフォウがいる。
ちゃんと弟達はフォウに言葉を教えていてくれたようだ。
「みんなありがとな。ちゃんとやってくれてたんだな」
「うん!セイにーちゃん、フォウすごいんだよ!もうほとんどぼくらがはなすことばわかってるの!」
セイの言葉に返事をしたのはセイの実の弟のラリーだった。
ラリーの言葉を切っ掛けに、次々と子供達がセイに話しかける。
内容はラリーと大して変わらないけれど、セイに教えたくて仕方ないのだろう。
そんな弟達の様子に苦笑しながら、テトも笑顔な事に少しほっとした。
テトはあの事件の後からずっと暗い顔をしていたのだ。
テトは内気なのもあるが、心がとても優しいヤツなのだ。
だから、イーナの姿を見て意味はわからなくとも、とてもショックを受けていた。
更にはあんなに殴られた事もテトには初めての経験だった。
そのせいでテトは恐怖で外へ出れなくなりセイ一人に負担をかける事にさらに落ち込みずっと沈んでいたのだ。
だからそんなテトが笑顔を浮かべている事に少し安心した。
テトの心の傷は時間が経てば癒えていくだろう。
それまではセイが頑張ればいいだけの話しだ。
ただ、イーナに関する記憶だけは一部消してもらった方がいいかもしれない。
これについては後でにーちゃんに相談しようと強く思った。
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