第九十六話 甘いパン
店員がセイを怒鳴ろうと声を出した。
「おまえ!早くどこかへ……」
そこまで店員が言った所で店員が目を丸くした。
なぜならその客が転んでいる少年の前にかがみこみ、手を差し出し、優しく声をかけていたのだ。
「やぁ、どうしたの?ケガはない?」
セイが何か言おうとした時、店員が慌てて声をかけてきた。
慈悲深くも声をかけているが、きっとこの小汚い子供は客の財布などを盗むだろうと、そう思ったのだ。
そうでなくとも、服を汚したりケガをさせたりなどされては、店に苦情が来る可能性もある。
「お、お客様、そんな小汚い子供などかまっては危ないですよ!」
セイからは見えなかったけれども、その店員の声に店員に振り向いた客の少年は険しい表情を浮かべ、店員を見た。
「悪いんだけど、黙ってくれないかな?この子は僕の大事な友達なんだ。そんな友達に暴言を吐かれるのはボクは非常に不愉快だ」
そんな言葉と客の表情に、店員は慌てて謝罪をした。
まさかこんな小汚い子供とこの客が知り合いだとは思わなかったから。
そのすぐ後に、小さな子供と手を繋いだきれいな女性と、少女が出てきた。
「アソート様、どうされましたか?」
「ああ、エル。ここではもう買い物はしない。別の店へ行こう」
「はい、畏まりました」
アソートの声が聞こえていたエルはすぐに了承をした。
しかし、客である少年の言葉に、上客を怒らせた店員は愕然として慌ててさらに謝罪をした。
下手すればこの少年の親が難癖をつけてくる可能性だってあるのだから。
そんな事はありえないのだが、店員には分からない。
しかし客である少年はその言葉が聞こえていないかのように、まだ尻餅をついていたセイに優しく手を伸ばし立たせるとセイに移動を促してその場を離れて行った。
「にーちゃん、よかったのか?かいものちゅうだったんじゃ……」
「気にしないで。買い物はいつだって出来るからね」
そうして一行はベンチが置いてある休憩用の広場へと移動した。
エルと子供達は少し離れた所に座り、どこから出したのか飲み物を子供達に渡している。
アソートとセイも近くのベンチに座った。
これまたどこから出したのか、アソートがセイに果実の汁を冷たい水で割ったジュースを渡してくれた。
「はい、どうぞ。遠慮しないで飲んで」
「あ、ありがと、にーちゃん」
ジュースを少し飲んだセイは冷たくて果物の味がするジュースに感動しつつも依頼をこなすべくアソートに向かって用件を伝えた。
「だから、おおきいにーちゃんはしばらくもどれないっていってた。あと、もしとちゅうであえたらこのくろいことり、わたしてくれって。」
そう言ってセイは腰の小袋から黒い小鳥を取り出すと、アソートに渡した。
「そっか、伝えてくれてありがとう。……ねぇ、その小鳥について聞いてる?」
アソートの言葉にセイは頷いた。
「うん、おおきいにーちゃんからきいてる。おおきいにーちゃんも、にーちゃんもにんげんじゃねぇってことも」
「こわく……ないの?」
アソートの言葉にセイは首を振って怖くない理由を話した。
その理由を聞いたアソートは胸があったかくなるのを感じた。
「そっか……。うん、なんだろう……ありがとうって言うのがいいのかな。そんな風に考えてくれて、ボクはすごく嬉しい。でも、危ないのがいるのも事実だから、気をつけてね?」
そんなアソートの言葉にセイは少し笑った。
なぜ笑われたのか分からないアソートは首を傾げた。
そんなアソートを見たセイは笑った理由を話した。
「わらってごめん、おおきいにーちゃんもおなじようにきをつけろっていってて、おなじこといってるなぁって」
「あはは。そっかそっか」
「にーちゃん、じゅーすありがとな!おれはそろそろかえんねーと」
「うん、あ、待って。これ、持って帰って」
そう言ってアソートが渡して来た袋からは甘い香りがした。
「あ、これ……きのうの……?」
「うん、そう。君達に渡そうと思って買っておいたんだ」
その言葉にセイの目には涙が盛り上がる。
イーナはパンを必死守ろうとしていた、弟達にあげたくて。
そんなイーナが守ろうとしたパンは全て、踏みにじられていたのだ。
結局弟達にはパンをあげれなかった。
そのパンを改めてしかも人数分以上にたくさん詰まった袋を持たせてくれたのだ。
「あ、ありがと……にーちゃん」
涙が流れる目をこすりつつ、ニカっと笑顔をアソートに向けた。
アソートもそんなセイの頭を優しく撫でた。
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