第九十二話 子供達の為の理由
部屋へ入ったセイに現状を簡単に伝えたサイリールはこれからの方針を話した。
「だから、5時間程これから僕はイーナとの対話に集中する。それでもイーナの心を掴めなかった場合はセイに協力して欲しい」
「そっか……イーナ……。うん、わかったぜにーちゃん」
「ああ、それと、今日はまだ何も食べていないんだろう?銅貨をこの袋に大体100枚くらい入れてある。これをあげるから、食べ物を買っておいで」
「え、でも……イーナもみてもらってるのに、おれたちにーちゃんになにもかえせないよ……」
俯いてしまったセイの頭を優しく撫でる。
「セイ、聞いて、僕がしたいからしているんだ。だから君達に何かして欲しいわけでも、何か返して欲しいわけでもない。わかるかい?」
納得がいかないのか、セイは押し黙る。
「じゃあセイ、こうしよう。フォウに言葉をたくさん教えてあげて欲しい。あの子は今言葉を覚えてる最中なんだ。だから、たくさん話しかけて、出来れば物を指してそれが何かを告げるというのを繰り返してくれ。そうすればフォウはすぐに覚えるから。その依頼としてこのお金を渡すよ」
彼の言葉に、セイはぱっと顔をあげて彼に感謝した。
「ありがとう、にーちゃん……。おれがんばってフォウにことばおしえるよ、ありがとう」
そう言ったセイは涙を零した。
依頼なんて形にしてまでセイ達を助けようとしてくれる。
実際セイ達は朝から何も食べていなかった。
今日なんとか少しでもお金を稼いで弟達にだけでも何か食べ物を、と思っていたのだ。
子供達だけなら銅貨数枚でお腹いっぱいとはいかなくても一人にパンをひとかけら、それに薄い野菜スープを作れる。
20枚もあればお腹いっぱいになれる。
お肉も少しならスープにいれる事が出来るだろう。
イーナはもちろん、テトが怯えてしまって外に稼ぎにいけない分、セイ一人で支えなくてはいけない現状だったのだ。
だから、ここで彼からもらったお金はとても大きいのである。
「ああ、そうだ。それとこの袋について説明しておくよ」
彼から袋の説明をされたセイは目を丸くしていた。
袋は上下に振っても何か物が入ってる感じがしないのだ。
その理由を説明された。
この袋は彼自身が作った物で、中は不思議な空間となっている。
袋の中を覗くと底がなくひたすら真っ暗だった。
だけど手を入れるとすぐに銅貨に触れるのだ。
こんなすごい袋もらっていいのかとセイが尋ねると、人には絶対中を見せない喋らないようにと言われた。
なぜかと問うと、セイに危険が及ぶからだと。
こんな物はどう見てもセイのような子供が持っているのは不自然なのだ。
ダンジョンで手に入る場合もあるが、普通の平民が買えるような値段ではない。
それが誰かに知られたらきっと大変な事になる。
それを聞いたセイは確かに、と納得し、弟達にも言わない事に決めた。
なぜ普通の袋ではないのかと問うと、今回の件があったせいだった。
たくさんのお金を持っているとお金同士のこすれる音でチャリチャリと音がなってしまう。
またあの輩のようなヤツに絡まれないとも限らない。
それなら音がせず、ただの小さな袋の方がいいだろうという事だった。
その為に、少し傷んだ古ぼけた袋に仕上げたと彼が言う。
確かに小さな袋はセイが元々腰につけていた袋と変わりないくらい古ぼけていた。
セイはそんな小袋を大事そうに抱え、改めて彼に感謝をした。
ニコリと彼は微笑み、そんなセイの頭を優しく撫でた。
そうしてセイが部屋を出て行ったのを見送ってから、彼はイーナに向き直った。
イーナに向けて再度闇を伸ばしていった。
イーナの額に闇がたどり着くとじわりと内部へと浸透していく。
彼はすっと目を閉じて、イーナの奥深くへと意識を飛ばしていった。
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一部修正
こんな物はどう見ても闇の住人が作った物である。
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こんな物はどう見てもセイのような子供が持っているのは不自然なのだ。
ダンジョンで手に入る場合もあるが、普通の平民が買えるような値段ではない。




