第九十話 封印された記憶
軽い擦り傷を治した彼は、骨盤へと取り掛かった。
骨盤の歪みを正す為に、腰周りの闇を内部へと浸透させていく。
数分程して歪みが治り、骨盤は正しい位置へと戻った。
続いて裂傷の治癒と再生を施していく。
かなりの大きさで裂けていたが無事に元に戻す事が出来た。
何もされてない状態へと戻せたので一安心だ。
次が一番の難関となるだろう。
記憶の消去だ。
体の傷は治せたが、心の傷を治さないとイーナはこのままずっと意識を閉ざしたままだろう。
だが、記憶の消去などした事がない。
試行錯誤にはなってしまうが、まずはイーナの記憶にアクセスしないといけない。
彼は手の平から闇を伸ばし、イーナの額と繋いだ。
額から内部へと闇を溶かしていき、彼女の脳と深く繋がっていく。
深く・・深く・・・
サイリールが目を開くと、真っ暗な世界の中心でぽつんと座り込むイーナがいた。
「イーナ。君かい?」
膝を抱えて座っていたイーナが顔をあげてこちらを見る。
「だぁれ?すがたがみえない」
「僕だよ、昨日君達に案内してもらった、背の高い方」
「あ、おおきいおにいさん?」
イーナが認識するとサイリールの体が生まれた。
「おにいさんどうしたの?ここはまっくらなのよ。あたしここからうごけないの」
あの事については完全に封印し、心を守る為に閉じこもっているようだ。
「そうなのかい?隣に座ってもいいかな?」
「いいよ!ここはまっくらでさみしかったから、うれしい。きょうはあのひとはいっしょじゃないの?」
「ああ、アソートは用事があって今日は来れないんだ。ごめんね」
「そうなの、ざんねん。でもひとりぼっちだったから、おにいさんがきてくれてうれしい!」
ニコニコ笑うイーナの頭を撫でようとして手を伸ばしたが、見えない何かに阻まれてイーナに触れる事が出来なかった。
それを見たイーナが不思議そうに自分の頭周辺を触っていた。
「なにかなぁ?へんなのー?」
それを見た彼はイーナを見つつも周辺を探っていた。
しかしイーナの封印された記憶にはたどり着けない。
どうも、今見えている彼女自身の内に封印してそれを思い出さないように守っているようだ。
「イーナ、手を出してみて?」
これは直接触れて彼女の封印している部分を丸ごと奪うしかないなと思い、イーナに手を出すようにお願いしてみた。
しかし、イーナは少し困った顔になる。
「おにいさんごめんね、なぜかきゅうにてもあしもうごかなくなったの」
これは困った。先ほどまでは動かせていた手が動かなくなった。
多分人に触れる、触れられるというのに拒否反応を起こしているのだろう。
それも無自覚に。
「そうか、いいよ。動かせるようになったら僕に触れてみて。きっとイーナを救ってあげるから」
「うん、わかった」
わかりたくない、けれど分かっている、そんな顔でイーナは頷いた。
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