第八十九話 怯えない理由
それはとても簡単な理由だった。
彼らが住んでいるスラムの浅瀬にはよくガラの悪いやつが住み着く。
だけど、そんな悪さをするヤツを倒してくれるのは衛兵ではなくいつもスラムの奥に住む闇の住人達なのだ。
もちろん、彼らの領域にそいつらが侵入するから殺されているのだが、セイ達にとってはそれでも十分にありがたい事なのだ。
子供だけでスラムで暮らすというのはそれだけ大変なのである。
多少の間はそういったガラの悪いのが浅瀬で悪さをするが、いずれ必ず奥に踏み込んで行く。
そうなれば二度と戻ってこないのだ。
だから、セイ達にとって闇の住人は恐怖の対象ではなく、感謝の対象なのだ。
だからといって無闇に近づかないし、彼らの領域には決して足を踏み入れたりはしないのだが。
「だから、おれらはべつにやみのじゅうにんだからってわるいいめーじはねぇんだ」
「そ……っか……うん、ありがとう。でも中には危険なヤツもいるから気をつけてね」
「わかってるよ、にんげんだっていいヤツとわるいヤツがいるんだ、やみのじゅうにんだって、そういうのあるだろうしな」
セイのように考えてくれる人が多ければ、もう少し世界は生きやすくなるのにな……と思いつつ、まずはセイの体から見ようと声をかけた。
「セイ、イーナの前にまずはセイのお腹を見ていいかい?以前僕の知ってる人が、お腹を蹴られて亡くなったんだ、だから先に見させて欲しいんだ」
彼の言葉にセイも素直に頷いた。
「わかったよ、たのむぜ、にーちゃん」
そう言ってセイは自分の上着をたくし上げた。
「うん、じゃあちょっとみるね」
そう言って手の平から生み出した闇をセイのお腹にまとわりつかせた。
しばらくお腹にまとわりついていた闇だったが、ふわりと離れて彼の元へ戻っていった。
「うん、よかった、内臓には特に影響はないみたいだ、安心したよ」
ほっと息を吐きながらセイの頭を優しく撫でた。
セイはこんなに優しくされた記憶がないのでえへへと照れ笑いをしていた。
「じゃあイーナを見るよ、悪いけど少し部屋から出ててもらえるかな?集中したいから」
そう言いはしたが実際は全身、特に下半身も調べる為であった。
やはり大事な妹のデリケートな部分を知らない男に見られるというのは抵抗があるだろうし。
直接視認するわけではなく、闇で見るのだが、見るというのに違いはない。
「……うん、にーちゃんたのむな……」
そう返事をしたセイにフォウがぴょんと飛び移った。
いきなり飛んできた動物にセイがびっくりする。
「あ、すまない。その子はフォウと言ってね、とても賢くていい子なんだ。待ってる間その子と遊んでいてくれるかな?」
「う、うん。えへへ、かわいいなこいつ。フォウか、フォウ、おれたちとあそぼうぜ!」
「ぴぃ!」
どうやらフォウは最初からそのつもりで着いてきていたようだ。
フォウに感謝しつつ、セイが部屋を出て行くのを見送った。
閉まった扉の向こうからは子供達の喜ぶ声が聞こえてきた。
そんな様子に彼もニコリと微笑んだ。
「よし、イーナをみようか、イーナいい子だね、きっと僕が治してあげるからね」
手から生み出した闇でイーナの全身を包み込んで行く。
体の汚れは顔以外はそれなりに残っていたので内部含めて丁寧に除去していった。
除去が終わった所で、傷口の細かいチェックを始めた。
丹念に調べた結果は多少の外的擦り傷と、殴られた内出血はあるが、一番大きいのは下半身の裂傷だろう。
出血自体はすでにだいぶ治まってはいるが、まだ多少の出血がある。
さらに無理やりされた事で骨盤にも歪みが出ている。
このまま放置するといずれ歩けなくなってしまうだろう。
まずは全身の擦り傷や内出血を治し、そして骨盤の歪みを正し、その後裂傷の治癒と再生をしよう。
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