第八十六話 心を閉ざしたイーナ
殴り飛ばされて意識を失っていたが、しばらくして意識を取り戻したセイがすぐ近くで意識を失っているテトを見つけた。
起き上がろうとしてズキリと脇腹と顔が痛む。
それでも必死にテトに近づき揺さぶった。
「テト!テト!だいじょうぶか!おい!」
セイの呼びかけに目の覚めたテトは痛みに顔を歪め泣き出してしまう。
「セイにーちゃん、いたいよーいたいよー」
「ごめんな、テト、まもってやれなくて、にーちゃんなのに」
そうしてテトに謝っていたセイだったが、そこに大事な妹の姿がない事にハッとする。
最後に見たイーナの恐怖する顔とこちらへ必死に伸ばした手を思い出した。
「……イーナ!」
セイが叫び痛む体に鞭打ってイーナが連れ去られた方へと駆けていく。
セイの叫びにテトもハッとして涙をぐっと我慢してセイの後を追った。
裏路地を少し進むとイーナをすぐに見つける事が出来た。
だけど、その惨状を見て、セイは膝をついてしまう。
「イ……イーナ…………」
セイの声にも反応をしない。
イーナはその顔を涙と何かの液体で汚し、服は破り去られ、下半身からは血を流していた。
幼くても、その状態が何を意味しているのか、セイには理解できた。
それはかつて、自分と弟のラリーを捨てた母親がいつも連れ込んだ男としていた行為だから。
震える膝に力を入れ、イーナのそばに近寄った。
イーナの瞳には力なく、虚ろでどこを見ているのかも分からない。
声をかけて呼んでも一切の反応をしなかった。
セイはそんなイーナを見て絶望してしまった。
もうイーナは戻ってこれない。心が壊れてしまった。
イーナをぎゅっと抱きしめセイは大声を上げて泣いた。
テトは何があったのかは分からなかったが、イーナがおかしいのは分かった。
そしてそんなイーナを抱きしめて泣くセイを見て、テトも再び泣いてしまった。
ひとしきり泣いたセイは自分の服を脱いでイーナに着せるとそのままイーナを背負って家へと戻って行った。
テトはそんなセイの後を俯いてついて行った。
家に戻ると、弟や妹達が元気に迎えてくれた。
しかし、セイ達のケガや様子がおかしい事に気づき、口を噤んだ。
セイはそのままイーナを粗末なベッドへと運び、寝かしつけた。
しかし、イーナは虚ろなままで何も反応をしない。
ぐっと眉根を寄せて泣くのを堪え、弟達へ簡単な説明をしなくてはいけない。
そんなセイにおずおずとラリーが声をかけた。
「セイにいちゃん、イーナねぇちゃん、どうしたの……?そのケガは……?」
「きょうな、にーちゃんたち、すっごいいいひとにであって、たくさんおかねもらえたんだ」
「?……うん」
「でも、にーちゃんバカでな、おかねのことはなしながらかえってきちゃったんだ。だから、わるいやつにからまれて、なぐられて、イーナをこわされた、おれのせいだ、おれのせいでイーナが……」
そこまで言ってセイは再び泣いてしまう。
そんなセイの様子に幼い子供達もつられて泣いてしまった。
静かで、人の気配がないスラム街の、あるぼろぼろの家から、子供達の泣く声だけがしばらくの間響いていた。
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