第八十一話 苦悩
宿の食堂に移動した一行は奥の席についた。
さすがにいい宿なだけあって、子供用の椅子もあったので持っていく。
サーシャとファニーを子供用の椅子に座らせるとタイミングよく来た店員が今日提供出来る料理名を告げてきた。
名前だけではよくわからない物については質問をし、小さい子供向けの料理はあるか確認し、よさそうなのがあったので頼んだ。
子供達にはふわふわの卵のオムライスを頼んだ。
大人はそれぞれ好きなものを注文。
しばし待った後に料理が提供された。
やはりいい宿なだけあり、料理はどれもおいしく満足できた。
子供達もとても気に入ったようでエルに今度作ってとせがんでいた。
エルも一口もらって味などを覚えたようで子供達の望みを了承していた。
食事も終わり、全員で部屋に戻るとしばし子供達と遊び、よい時間になったので子供達を寝かしつけた。
サーシャはまだ眠くないようでエルにお話しをせがんでいたが。
「ふう。子供達は元気だねぇ。ボクはもう年だからちょっと疲れちゃったよー」
ぽすんとソファーに体ごと倒れこんだアソートがぽつりと呟いた。
そんなアソートにサイリールが少しからかい気味に声を返した。
「見た目はアソートも子供なのにね」
サイリールの言葉にアソートがぷくりと頬を膨らませて抗議をした。
「ぶー。ボクはサイリールよりも50歳も年上なんだよー」
「あはは。ごめんごめん。」
「ま、疲れたと言っても体自体は元気いっぱいなんだけどねぇ。あはは」
しばらく目を瞑ってじっとしていたアソートだったがゆっくりと目を開けるとサイリールに声をかけた。
「じゃあ、この謎の疲れを癒す為にボクはサーシャと久々に一緒に寝るよ」
「ああ、きっとまだ起きてると思うよ」
「あはは、エルにお話しせがんでいたからねぇ。じゃあおやすみー」
そう言ってアソートは子供達が寝ている部屋へと向かっていった。
きっとアソートが一緒に寝ようと言ったらサーシャはとても喜ぶ事だろう。
アソートが子供達がいる部屋へ入ってすぐにフォウがぴぃと鳴いてサイリールに甘えだした。
どうやらお腹が空いてきたようだ。
「お腹が空いたかい?フォウ」
「ぴぃ」
そう鳴いて頷くフォウを優しい笑顔で見ながら指先からフォウの為に細い管を作り出す。
それを見たフォウはすぐに乳房に吸い付くとちゅっちゅと音をたてて飲み始めた。
両の前足でサイリールの手をふにふにと押しながら。
そんなフォウの様子を優しく見つめながらサイリールは2日後の事に思いを馳せていた。
どう切り出そうか。
あの子達が泣いてしまったらどうしよう。
ファニーに嫌だと泣いて懇願されたらどうしよう、自分はそれを振り切れるのか。
愛しい愛しいファニー。
出来るならば、己の手元に置いておきたい。
大事でかわいい愛しい子。
それでも、彼女には血の繋がった、何よりも人間の父親がいる。
あの子は年をとっていく。
僕よりも、先に死んでしまう。
一緒に暮らせば、死なない僕は年老いたファニーを看取らなければいけない時が来る。
それが僕に耐えられるだろうか。
そうか、僕は僕が辛いからファニーを手放すのか。
いや、それだけじゃない、人間の父親がいいというのも事実だ。
いずれあの子だって年頃になるんだ。
そして好きな相手と結婚して、子供を生んで、年をとっていく。
年をとらない僕と一緒だとあの子はきっと幸せになれない。
きっと相手はいずれ年をとらない僕に不信感を持つ。
そして、僕が闇の住人だとばれてしまう。
そうなったらきっと普通の人間は僕に怯えるだろう。
そうしたらあの子はきっと傷ついてしまう。
下手をすればあの子も闇の住人だと疑われてしまう。
だから、だからこそ、あの子は人間の世界で生きる方がいいのだ。
愛しているからこそ、あの子を手放すのだ。
僕では、あの子を本当の意味で幸せにはしてあげられないから……。
お腹がいっぱいになって丸くなって眠るフォウを優しくなでながら、サイリールはそんな思いに耽っていた。
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