第八話 助けた女
パチッパチッと薪がはじける音がする。
彼女はまだ眠っていた。
彼は自分達の周囲に薄く闇を張りながら、山賊達の記憶を吟味していた。
ただやはり、山賊達はろくな剣の扱いではなく、振り回すようなもので彼が求めるようなものではなかった。
ただ、山賊の記憶の中の仲間に、一人戦闘がうまいのがいた。
どうやらその男は何か剣術を習っていたようだ。
だが記憶の元である山賊はその男に興味がないせいか詳しい話しはしておらずあまりはっきりとはわからなかった。
「ふむ。このおとこからきおくをもらいにいこうかな?ぼくひとりならもんだいないし」
そう呟きつつもまだ眠る彼女をみやる。
「とはいえ、やはりほっていけないよね。どうしようかな?」
そんな風に悩みつつも彼女が目覚めるのを待つ。
それから少しして彼女の睫毛がかすかに揺れた。
少しずつ彼女の瞼が持ち上がる。
目が覚めた彼女はぼーっとした頭で起き上がろうとした。
「いたっ……」
彼女は自分の体のあちこちが痛い事に気づいた。
そして自分が何をされたのかを思い出した。
「あ…………ああ……うぐっ……ゲッゲェェェ……」
生娘ではないが、やはり襲われたショックと、恐怖、すえた男の臭いを思いだした彼女は吐き気を抑え切れなかった。
そうしてからっぽの胃の中をさらにからっぽにした彼女がふと自分にかけられている清潔できれいな布に気づき、疑問を覚えた。
「あれ……これ……」
パチンッパチッ
薪のはじける音にハッと彼女は顔をあげた。
彼女の向かい側には一人の男が座って彼女を見ていた。
襲われた事を思い出した彼女はヒッと悲鳴をあげかけたが、この男は襲ってきた山賊とは違い、きれいな身なりをしていた。
何より彼しかいない。もしかして救われたのだろうか?と彼女は思い悲鳴を飲み込んだ。
「もうだいじょうぶだよ」
彼は彼女にそう告げた。
「さんぞくはもういない。ぼくはさんぞくじゃない」
彼の言葉を聞いた彼女は安堵の息をもらした。
「あなたが……助けてくれたの?」
彼女は彼をまじまじと見た。
よく見るととてもきれいな人だった。
真っ黒だけど艶やかな短めの髪の毛、瞳は黒曜石のよう。
服の隙間から覗く肉体はとても引き締まっており、浅黒い肌色と相まって濃艶な印象を受ける。
喋り方は少し幼いというか、舌足らずな感じがした。
「うん。ぼくはやることがあるんだけど、きみはどうする?」
そこで彼女はハッとした。今自分がいる場所や状況に思い至った。
彼女は申し訳なさそうな顔をして、彼に尋ねた。
「あの……できれば町の近くまででいいから護衛してもらえないかしら……。助けてもらった上にお願いするのは申し訳ないのだけど……」
彼女は断られてしまったらどうしようと少し不安になっていたが、彼はあっさりとそれに頷いた。
「いいよ」
「え、でもやる事があるのでは……?」
「あ。そうだね。うーん。どうしよう?」
まさかの疑問で返された。どうしたらいいのだろう。
「えっと……やる事ってなんなの?」
「さんぞくにね、ひとりつよいのがいるんだ。ぼくはそいつにようがある」
「えっ……危ないわよ?山賊よ?たくさんいるのよ?」
彼女は彼を心配したが彼は特に気にした風もなくニコリと微笑んだ。
「だいじょうぶだよ。ぼくはしなないから」
その言葉を聞いた彼女は、彼がすごく強いのかな?と思った。
実際彼女はあまり覚えてはいないが、二人も山賊がいたのに彼は彼女を助けてくれたのだ。
もしかしたらすごく強いのかもしれない。
「あ、いいことをおもいついた。ねぇきみ、すこしここでまっててくれないかな?」
「えっ どこか行くの?」
「うん。さきに、さんぞくからちしきをもらってくる。そのあとできみをおくってあげるよ」
ここに一人でいるのは不安だった。
それにすごく強いとしても彼一人で山賊に立ち向かうのは危険だ。
「ここに一人で待ってるのは不安だわ……。それに一人で山賊に立ち向かうなんて危険よ」
「ふむ。そうか。じゃあさきにきみをおくろう」
彼女は正直ほっとした。彼の事が心配なのもある。
だけどやっぱり今は自分の不安の方が大きかったのだ。
「あさになったらおくってあげるからそれまでねむるといいよ」
その言葉を聞いた彼女は安堵の為か、疲れのせいか瞼が落ちてきている事に気づいた。
「ありがとう……。少し……少しだけ眠るわ……」
そして彼女は目を瞑ると意識を落とした。
それを彼は見やり、更に深く眠るように眠りを邪魔しないように、薄くした闇を彼女の周りに広げた。
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