第七十九話 おとぎ話
「パパとおにーちゃんおそいねぇ」
「ぱぱおしょい!」
「ぴぃ」
室内探検も飽きた二人はソファーに座ってぼーっとしていた。
「そろそろおやつの時間でございますね。お嬢様方、おやつに致しましょう」
エルの言葉に子供達から喜びの声があがった。
エル専用の鞄からは次々とおやつが現れた。
保存はどうなっているのか、なぜ腐敗しないのかはわからない。
サイリールが用意してくれた闇のカバンは食料を長期間いれておいてもいれた時そのままで取り出せるのだ。
エルはすでにそういう物として深く考える事はしていなかった。
サイリールの力にすごいなと思うだけである。
旅をする事が決まってからせっせと作ってあったおやつを数個取り出しテーブルの上に並べた。
一口サイズのクッキーや、小さなケーキなどが机の上に乗っている。
「あと、こちらはマスターがフォウの為にご用意なされた果実です。フォウはこちらをお食べ下さいませ」
そうしてフォウに出されたのは小さな赤いベリーのような果実だった。
実のところ、この果実はリトーフォウには必須の果実だったりする。
彼らの生息地周辺にはこの実をつける植物は非常に多いのだ。
それもそのはずで、大人のリトーフォウが実を食べた後、種をあちこちに植えているからである。
1年に一度彼らはこの実を採集して巣に大量に保存するのだ。
高地では生息できない植物なので、山を降りないといけないという危険はあるのだが、大人のリトーフォウが何度も山を下りては採集するのだ。
サイリールはそれに気づいてはいないが、記憶で食べているのを見たので用意していただけであった。
この実は子供の頃こそ非常に重要な働きをもたらすもので、この実が生る時期にメスは出産し、子育てを行う。
大体生後2週間くらいまでがこの実を毎日食べた母親の乳を摂取しないといけない時期で、それ以降は生後1ヶ月までは週に1~2回ほどこのベリーのような実を摂取する事になる。
母親の乳からも成分は摂取はできるのだが、生後2週間以降はそれでは足りないのだ。
生後1ヶ月以降は1年に数回で補給は十分になる。
実にある成分がどうも彼らの足りない物を補っているようなのだ。
大人になると年に1回数粒の摂取で問題はないのだが、一粒も食べないと2~3年で衰弱死してしまう。
これが人間に捕まったリトーフォウが短命な原因でもある。
「おいちー!ふぁにー、これすきー」
エルの作った小さなケーキを頬張りニコニコとしているファニー。
サーシャもクッキーを頬張って幸せそうにしている。
フォウも赤い実をもぐもぐと食べていた。
おやつも食べ終えまたする事がなくなった二人は暇そうに足をぶらつかせていた。
見かねたエルが子供たちに提案をした。
「お嬢様方、お暇でしたらひとつ物語りをお話し致しましょう」
物語と聞いて二人とも目をキラキラさせた。
フォウはさすがに複雑な言葉は分からないので、仕方なくサーシャの膝の上でくるりと体を丸めて寝てしまった。
「では、お話し致しましょう。これはお嬢様達が生まれるずっと昔のお話しでございます」
エルが語ったのはよくある物語だ。
ある村にいた両親をすでに失った白髪の青い目の少女、その白髪と、青い瞳のせいで、鬼の子だと言われ、村人から冷たくされていた所から始まる話し。
この話しは、かつてエルの元となったエリルが、ファニーの母親から聞いたお話しだった。
エリルもファニーの母親もとても好きだった物語。
「少女は村人から冷たくされてとても悲しい日々をすごしていました」
まだ序盤だというのに二人とも目をうるうるさせていた。
「そんなある日、少女の住んでいる小屋に1匹の足をケガした子犬がやってきました。かわいそうに思った少女は子犬のケガの手当てをしてあげました」
そうして話しは進んでいった。
子犬と仲良くなった少女、1年が経ち、立派に育った犬、しかし普通の犬とはどこか違った。
大きさも普通よりも大きい。
結局どちらも普通とは違った為に益々村人は避けるようになった。
そんな中、少女は村を旅立つ決心をする。
犬と少女は一緒に旅立ち、とくに行くあてもなくさ迷い続ける。
いつしか少女は娘へと育ち、犬はさらに体を大きくさせ、常に娘を守り続けた。
そんな日々の中、ある道を進んでいると黒い獣に襲われている一団がいた。
それを見た娘と犬は一団に加勢して、黒い獣を見事撃退した。
そんな一団から一人の若者が進み出て娘と犬に感謝を告げた。
娘は自分の姿に自信もなく、犬が怯えられる事も多くあり、そそくさと立ち去ろうとした。
しかし、若者が礼をしたいからと娘を引き止める。
若者は娘の容姿にも犬の大きさにも何も言わず、ただただお礼がしたいと告げてきた。
訝しく思いつつも無碍に出来ずに娘は一団についていく事になった。
とある街についた時に若者の正体が判明した。
なんとある国の王子様だったのだ。
あれよあれよと話しは進み、娘は王子に用意されたドレスに身を包み、王子が主催するパーティに参加する事になった。
もちろん犬も綺麗に洗いあげられ、首元に蝶ネクタイをつけて。
娘が王子が手配した侍女達にピカピカに磨き上げられ、美しく髪を結われ、綺麗に着飾らされて、なれぬ踵の高い靴を履いてそのパーティ会場に足を踏み入れると、ざわりと声があがった。
娘がなれない靴に苦労しつつ進むと先ほどまでの人の声がしない事にふと気づいた。
周りを見るとみんなが娘を見ていた。
中にはヒソヒソと会話している者もいた。
それを見た娘は自分の容姿がそんなに醜いのだろうか、やはり断れば良かったと、俯いてしまう。
そんな中、王子が入場した。
王子が入場した事により、視線は王子へと向かう。
それにほっとした娘は人目が少なそうな場所へと移動していった。
とはいえ、大きな犬が一緒なので目立つのではあるが。
そうしてるうちに娘をこのパーティへ招待した王子が娘の場所を聞いて近づいてきた。
招待客は王子の向かう先を見ている。
また注目された事に俯く娘だったが、王子が来ているので無視するわけにもいかない。
王子がすぐそばまで来たので顔を上げ、挨拶をする娘。
そんな娘を見た王子は固まってしまった。
王子も私の醜い容姿に驚いているのかと俯く娘。
しかし、そうではなかった。
王子は娘に感謝を告げにきたのだが、娘があまりにも美しく、驚きで固まってしまっていたのだ。
王子達を助けた時の娘は長旅で薄汚れており、その容姿は取り立てて美しくもなかったせいだった。
侍女達に磨き上げられた娘は、髪は銀色かと思うような美しさでまるで絹糸のようにサラリとしており、肌はまるで白磁のようで透き通るような美しさ、瞳は深い青色をしており長い睫がその瞳に影を落としている、その唇は小さく、ほんのりと紅色に色づいていた。
白銀の髪に添えられた赤い薔薇の髪飾りが、まるで最初から娘の為に用意された物のように揺れていた。
薄い青色のドレスはまるで娘の為に存在するかのごとく、娘によく似合っていた。
王子は一目で恋に落ち、その場で膝をついて娘に求婚をした。
娘は驚き、戸惑ったが、王子の熱心な求愛に負け、その求愛に答えた。
「そうして、王子と娘は結婚をし、その後も仲睦まじく、幸せに過ごしたのでございます」
夢中になって話しを聞いていた二人はそうしてエルが締めくくるとほぅとため息をこぼし、サーシャは自分の髪飾りに手を置き、ファニーもうっとりした顔で娘の幸せを喜んでいた。
そうして、エルの話しを聞いてるうちに外の日は傾き、夕方になっていた。
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