第六十話 覚悟を決めよう
翌朝、馬車を進めていると町が見えてきた。
「パパ!おにいちゃん!まちー!」
アソートとサイリールの間に座っていたサーシャが前方を指さして声をあげた。
「ああ、ほんとだね。町だ」
「まち~?」
サーシャの声で目が覚めたのか、馬車の中からファニーの声が聞こえた。
「ファニー!まちだよー!」
サーシャが御者席から馬車内へ入る入り口の布をあげて中へ声をかけた。
寝ぼけた顔のファニーがサーシャを見て、首をコテリと横にかしげた。
「ねーね、おはな?」
昨日の事を知らないファニーはサーシャの顔に花がない事に頭の中は疑問符でいっぱいだった。
「おはなねー、はずしてちいさくして、ほらこれ!かみかざりになったの!」
「わー!きえー!ねーねおはなー!」
目をキラキラさせてサーシャの髪飾りを褒めるファニー。
それを聞いて頬を薔薇色にして喜ぶサーシャ。
そんな子供達を見て三人とも、心が温かくなった。
しばらくして町についた一行は、馬車をとめておける場所へと向かった。
馬車停めへつき、馬車を置いた一行はそのまま町をぶらついてみた。
彼らが歩くと人が振り向く、そしてヒソヒソと声が聞こえてくる。
『なんて綺麗な人かしら……』『あの殿方はどこのお人かしら』
『あの男の子、すごくかわいいわね』
そんな声があちこちから聞こえてくる。
エルも美人の部類には入るのだが、さすがにサイリールやアソートの美貌の前では霞んでしまう。
ファニーとサーシャは仲良く手を繋いで歩いている。
最初サーシャは馬車から出るのを少し怯えていた。
見た目を変えたとはいえ、やはりエドンの町での出来事が少しトラウマなのだろう。
しかし、馬車停めにいた管理員に『ようこそ、お嬢ちゃん』とニコリと笑いかけられた時、サーシャは少し涙目になりながらも管理員に元気に挨拶を返していた。
その後はファニーと手を繋いで歩き出し、今に至っている。
ファニーとサーシャの後ろをエルが歩き、その後ろを少し離れてアソートとサイリールが並んで歩いていた。
「ねぇサイリール。いつ頃あの子達に話すんだい?」
「まだ……決めてないんだ……。早く話して心構えをさせるのもいいと思うし、ギリギリまで黙って楽しい思い出を作らせるのもいいと思うし、どうすればいいんだろう」
「難しいね、ボクもどっちがいいのか、なんとも言えない。でも、早く伝えるにしろ遅くに伝えるにしろ、あの子達には楽しい時間を過ごして欲しいね」
「そうだね……。いい加減僕も覚悟をしないと」
「頑張ってよ、パパ」
少しからかい気味にアソートが彼の腰部分を叩いた。
そんなアソートに、彼は苦笑しつつ答える。
「やめてくれよ、アソート」
「あはは。ごめんごめん。でも、そうだね。サイリール、どうしても自分で決めきれない時は僕らを頼ってよ」
「うん、そうするよ。でも暫くは自分で考えてみる」
彼の言葉にニコリと微笑むアソート。
「うん!ボクは全力であの子達と遊ぶよ!」
「はは。頼むよ、アソート」
そしてアソートは少し早足になると子供達の元へと向かった。
そんなアソートの後ろ姿を見つつサイリールは気づいてしまった。
分かってはいたのだ。
だけど、考えないようにしていた。
子供達の為ではない、ただ単に自分が臆病なだけなのだ。
子供達に伝えたら、もう本当にファニーを帰すというのが現実になってしまう。
それが怖くて、逃げていた。
覚悟をして旅を始めたつもりだった、でも覚悟しきれていなかった。
そんな情けない自分に溜息をついてしまう。
「うん……。覚悟を決めよう……。そうだな……、あと1週間。1週間したらあの子達に話そう」
そんなサイリールの呟きが町の雑踏に消えていった。
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