第五十六話 さあ、始めよう
夜、さすがに町中でサーシャの見た目を変えてしまうのはどこで何があるかわからないし、またサーシャが傷ついてしまう可能性もあるので、野宿をする事にした。
本来は野宿など危険な行為でしかないが、サイリールが闇で防御しているので何も心配はない。
ついでに周りの視線も遮れるのでちょうどよかったのだ。
ファニーは昼寝後ずっと御者席ではしゃいでいたので夕食を食べている最中からすでにうつらうつらしていた。
食べ終えた後、歯磨きの最中にはもう半分以上眠っていたのでエルに抱きかかえられて馬車の中へ運ばれている。
サーシャは逆にほとんど日中寝ていたせいでまったく眠くなかった。
とはいえ、基本は闇の住人なので2日くらい寝なくても問題はなかった。
それでも成長期の子供なのでやはり寝かせるのがいいのだが。
「よし、それじゃあ、サーシャの右目と右手を変えようか」
サイリールの言葉にサーシャがぱっと顔を輝かせた。
「うん!みんなとおなじ!」
「ねぇ、そういえばサイリール。僕らとか肉体が年をとらないけど、サーシャはどうなるんだい?」
アソートの疑問にそういえば説明していなかったと答えを返した。
「ああ、説明してなかったね。エルは置いといて、アソートの場合は元の肉体が少なすぎたんだ。今の見た目と同じくらいだったら普通に成長していったと思う。元が少なすぎて僕やエルと同じになってしまったけどね」
「なるほど。じゃあサーシャの場合は一部を同じ大きさにするから大丈夫なんだね」
「そう、同じだけ使うから、サーシャの他の肉体部分と変わりなく成長していくよ」
「そっかそっか。安心したよ。邪魔してごめんね、サイリール」
そんな風に謝るアソートに笑顔で問題ないと答えた。
サーシャには聞こえないようにしたのでサーシャはアソートやエルが作られた姿だとは気づいていない。
「それじゃ、サーシャはそこに座って、あまり動かないでね」
その言葉に若干不安になったのか、サーシャはアソートを見て声をかけた。
「おにーちゃん、いっしょにいて!」
サーシャはずっと傍にいてくれたアソートにかなり懐いており、お兄ちゃん子になっていた。
呼ばれたアソートはチラリとサイリールを見た。
彼がコクリと頷いたのでサーシャがいる所まで行って座り込んだ。
「はいはい、おいで、膝の上にお座り」
「うん!」
元気に返事したサーシャはアソートの膝の上に座るとご機嫌になった。
正確には胡坐なので、膝の上ではないのだが。
「うん、じゃあサーシャは目を瞑ってじっとしているんだよ」
「わかった!」
ぎゅっとサーシャが目を瞑ったのを確認した彼が手の平からコポリと闇を吐き出した。
闇はするするとサーシャに近づくと右手全体を覆っていく。
しばらくして右手全体がぐにゃりと歪む。
闇と蔓が混ざっていく。
黒と緑色がぐるぐる、ぐるぐると。
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