第五十三話 築いてきた信頼
翌朝、一行は馬車を購入した商人の元へと移動しつつ、途中で屋台から食べ物を購入したり、道中必要そうな物を適当に購入していた。
ファニーは元気いっぱいでアソートと手を繋いで歩いていたが、昨日眠れなかったサーシャはエルに抱かれてこっくりこっくりと船を漕いでいた。
本来は無理すれば3日は寝なくてもいけるのだが、今回は習慣となっていた睡眠が取れなかった事と、精神的な疲れからサーシャは強い眠気に襲われていたのだ。
昨日のような言葉は聞かせたくないのでサーシャが眠そうにしていた為、サーシャには薄い布をかけている。
屋台通りを過ぎ、商人が店を構える場所までやってきた。
「こんにちは、ボルドさん、馬車を受け取りに来ました」
「え?あ、ああ、これはこれは、サイリールさん。裏手に用意しておりますよ。馬を繋ぐのはどうしましょうか?こちらでしましょうか?」
「ああ、いいえ。こちらでやるので大丈夫です」
さすがに小さい町とはいえ、商人なだけあり、これまで丁寧な喋り方をしなかったサイリールが突然滑らかな発音で、丁寧に話した為最初は驚いていたが、すぐに切り替えている。
そうして裏手に回り、荷台に道中買って来た荷物を積むとサイリールとアソートで馬を馬車に繋ぎ始めた。
簡素な馬車ではあるがきちんと幌もついているので雨風はしのげる。
しかし馬車の荷台は硬い板なので予め用意してあったふかふかのクッションと柔らかい敷き布を出し、子供達が痛い思いをしないように工夫をこらした。
そんな今はファニーは馬車にはしゃぎ、柔らかいクッションに顔をうずめて寝ているのはサーシャであった。
しばらくして馬を繋ぎ終え、商人に再度声をかけて挨拶をすますと、ゆっくりと馬車を町の出口へと向けて進ませ始めた。
御者はサイリールが行い、その隣にはアソートが腰かけ、膝にはファニーが座っている。
エルは馬車内で眠るサーシャと一緒だ。
町の出口へと近づくと見知った顔がいた。
そんな知り合いの少し後ろには昨日の衛兵がニヤニヤと笑いながら立っていた。
笑う衛兵は無視して、その人の近くでサイリールは馬車を止め挨拶する。
「隊長さん、こんにちは」
「こんにちは、サイリールさん。今日出立でしたね」
「ええ、のんびり旅をするつもりですので、しばらくは帰って来ません」
「そうですか、ではお気をつけて。お帰りを待っています」
「はい、いってきます。隊長さん達もお体にお気をつけて。では」
和やかに隊長との会話を終え馬車を動かすサイリール。
隊長の後ろではニヤニヤしていた男がぽかんと口を開けていた。
後ろから、なぜですか隊長!という叫びが聞こえる。
しかし隊長の言葉にサイリールは少し口元を緩める事になった。
「どうせおまえがいらん事を言ったのだろう。彼はとても礼儀正しい方だ。いい加減好いた女が彼に熱をあげてるくらいで妬むのはやめろ。」
当然アソートも聞こえていたので、サイリールにニコリと微笑みかける。
そんな一幕がありつつも、ファニーを帰す旅は始まった。
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