第五十二話 悪意
五十一話の一部を修正しました。
幌馬車購入の部分を貴族⇒少し裕福な商人に変えました。
最初のうちはファニーもサーシャも機嫌よく手を繋いで歩いていたが、さすがにまだ幼いので1時間もしないうちにファニーが疲れて足が止まってしまった。
手荷物をアソートに預け、エルがファニーを抱き上げる。
そのすぐ後にサーシャも疲れたのか歩く速度が鈍くなった。
手を繋いでいたアソートがすぐに気づき、サイリールに伝える。
サーシャをサイリールが抱き上げると、ファニーと同じくすぐに眠り始めた。
そんな二人を微笑ましく思いながら、三人と抱き上げた眠る幼子二人は町へと足を進めた。
町へ着く少し前に二人共目が覚め、また仲良く手を繋いで歩き出した。
そうしてしばらく歩いていると町の入り口が見えてきた。
この時サーシャを救い出して2年がたっており、救ってから一度も町へは連れてきていなかった。
それにこの町は小さく、闇の住人がほぼいない。
だからうっかりしていた。
サーシャが闇の住人で、闇の住人は人間扱いされない事を。
当然町の入り口に立っている衛兵はサイリールらを見る。
だから、気づいてしまう。
サーシャの右目に咲く大輪の花とファニーと繋いでない方の右手が蔓である事を。
そして運が悪かった、今日いたのはサイリールを嫌っている衛兵だった。
なぜ嫌っているかというと、衛兵の好きな女性がサイリールに熱をあげているせいだった。
そして、サイリールの顔がとても綺麗で美形なせいだろう。
だから、サーシャを見た衛兵は嫌な笑い方をした。
サイリールを侮辱できるモノがいたからだ。
入り口を通り過ぎようとしていた一行に、衛兵が声をかけた。
「やぁ、これはサイリールさん。今日はご家族とペットで町へおいでですか」
ペットを連れていないサイリールは当然意味がわからない。
「?ペットは連れていないが……」
「え?そこの小さいお嬢さんが連れているじゃないですか。顔に花を咲かせたペットを。さすがサイリールさんはお金持っていますねぇ。あ、それとも育てて性奴隷ですかな?いいですなぁ」
衛兵がそこまで言った時、サイリールは衛兵の喉に剣を突きつけていた。
「おまえ、それ以上喋るな。一言でも喋ったら殺す」
衛兵はいつ剣が抜かれたのかも分からなかった。
そして、サイリールの目を見て恐怖した。
光がない、深い深い闇、そこに引きずり込まれそうな恐怖。
衛兵は足の力が抜け、その場に座り込んでしまう。
それを見たサイリールは、剣をしまうと後ろを振り返った。
そこには冷たい目をした男などはどこにもいない。
小さな娘達の心を思う父親の顔だった。
振り返るとすでにサーシャとファニーはそれぞれ耳をふさがれており、きょとんとした顔をしていた。
それを見たサイリールはエルとアソートに笑顔を向ける。
「ありがとう、エル、アソート」
二人共柔らかく微笑んだ。
「さぁ行こうサイリール、今日はこの町に泊まるんだろう?」
「うん。でも、まずはお昼ご飯だね。二人共お腹すいたろう?」
すでに耳はふさがれていなかったので小さなお姫様達はサイリールの言葉に顔を輝かせる。
「おなかすいたー!」
「すいちゃー!」
二人が何も聞いていない事に安堵したサイリール達は子供達を抱き上げよく行く屋台へと足を向けた。
衛兵はへたり込んだまま、サイリール達が過ぎ去るのを見ていた。
抱き上げられ連れられるサーシャは悲しそうにその衛兵を見ていた。
そう、サーシャは耳がよかった。
耳を押さえたくらいでは衛兵の言葉を遮断できないくらいには。
そしてサーシャは色々と学んでいた。
だから、闇の住人の扱いについても、言葉の意味についてもよく理解できていた。
自分の母親からの仕打ちも、母親の屋敷にいた使用人からの投げられていた言葉の意味だって、今ではよくわかっている。
自分が侮辱されるのは慣れている。
慣れているから平気というわけではない、だが、平気なフリはできる。
だけど、そんな自分のせいで他の人が、家族が侮辱されるのはとても辛いのだ。
サーシャは表面上はニコニコと笑いながら、家族と楽しく過ごした。
まだたったの6年しか生きていない少女は、自分の体を、見た目をどうするべきかと小さな心で必死に考えていた。
家族がどうすれば自分のせいで侮辱されずにすむのか。
その日サーシャは宿のベッドの中で眠れない夜を過ごしたのである。
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