第五十一話 出発
話し合いから1週間後、ファニーを家へ帰す為の準備が終わりを迎えようとしていた。
「サイリール、子供達の服は闇にしまっておいてくれた?」
「うん、閉まってあるよ」
「ありがとう!あとはボク達の服を入れれば終わりかな」
なぜ準備に1週間もかかったかというと、移動手段として馬車の用意をしていたからである。
田舎の小さな町では個人で幌付きの馬車を買う人は少し裕福な商人くらいなもので、購入するのに少し時間がかかったのだ。
もちろん、自宅の森の中に馬車を連れてくるのは不可能なので、購入した商人に預かってもらっている。
ちょうどサイリール達の服を闇にしまい終え、居間に下りた所で、エルと子供達がやってきた。
「お待たせ致しました。お嬢様達のご仕度が整いました。」
サーシャはきれいなお洋服を着れて嬉しそうにスキップしながら居間に入ってきたが、ファニーはエルのスカートの裾を掴みもじもじとしていた。
「ぱぱ、おにーちゃん!みてー!さーしゃかわいい?かわいい?」
「すっごい可愛いよー!」
「うん、可愛いね、とても似合ってるよ」
「わーい!さーしゃかわいいー!」
くるくると回るサーシャを見て皆の顔が緩む。
そしてエルのスカートの裾を掴んだままずっともじもじしているファニーを見て、サイリールは微笑んだ。
「ファニーもとても可愛いよ。よく似合ってる」
「うんうん!ファニーもサーシャもお姫様みたいだ!」
サイリールらの言葉を聞いてぱっと頬を朱に染め嬉しそうにはにかむファニー。
そんな可愛らしい娘達を見て目を細めた。
「それじゃあ行こうか。町までは歩くけど、エルと僕で子供達が疲れたら抱き上げていこう」
「はい、マスター。承知致しました」
「ほんとはボクが抱っこしたいけどなぁ。さすがにこの見た目じゃ難しいものね」
「あはは。そうだね。じゃ、とりあえず森を出る所までは皆、闇の中で待っててね。森を抜ける少し前に出すから」
「うん、わかった。じゃ、二人共闇の中で待ってようねー」
「はぁーい。ファニーいこっ」
「うん、ねーね、てーつないでー」
そうしてサイリール以外の全員が闇に入ったのを確認して、サイリールは走り出した。
サイリールの発音や言葉遣いについては旅に出るにあたって色々と問題が出そうだったので、エルによって直すように言われた為である。
サイリール自身さして気にはしていなかったのだが、ちょうどよい機会なので記憶を掘り返して修正したのだ。
突然話し方が滑らかになったので、最初は子供達も驚いていたが、それもすぐに慣れたので、サイリールもほっとしていた。
森を抜けるにはサイリールが走っても2時間程かかる。
最近はファニーが闇を少し怖がるようになったので、闇の中へはランタンも持ち込んでいる。
走りながらもサイリールは悩んでいた。
というのも、まだ子供達に何をしに行くのかを伝えていないのだ。
ただ、遠出するとしか言っていない。
エルが伝えようかと言ったのだが、こればっかりは自分が伝えないといけないと思っていたので断っている。
アソートも、君が伝えないと、君が後悔してしまう、と言って今回の件には触れないと言っていた。
いつ、あの子達に伝えるか、早いうちがいいのだろう、心構えも出来るだろうし。
そうは思うのだが、ギリギリまで二人には楽しい思い出を作って欲しいとも思ってしまい、いつ伝えるべきか、とまた再び悩んでしまうというループに陥っていた。
そうして悩みつつも走っているといつのまにか森の終わりが見えてきていた。
左右を軽く見て人通りがない事を確認したサイリールは、闇の中にいる皆に声をかけ、闇の出口を作った。
最初にアソートが出てきて、次に子供達、そしてエルが出てきた。
エルの手にはカモフラージュの為の手荷物が持たれている。
中身は空っぽなので重くはないのだ。
とはいえ、エルも普通の人間ではないので中身があったとしても問題はないのだが。
一番前をサイリールが歩き、その後ろをアソートと子供達が、そして最後尾にはさりげなくエルがついた。
町までは数時間かかるが、まだ朝の8時なので昼過ぎには着く事だろう。
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修正箇所
個人で買う人は貴族⇒個人で幌付きの馬車を買う人は少し裕福な商人




