第三十九話 初めて
食堂に入る前にアソートは足を止めた。
振り向くサイリールに先に行っててと促し、サーシャが落ち着くまで頭を撫で続けた。
数分もするとサーシャの静かな嗚咽も止まり落ち着いたようなので食堂へと入る。
すでにサイリールとファニーは席についている。
いつものアソートの席の隣にはファニーよりも少し大きい子供用の椅子があった。
サイリールが作っておいてくれたのだろう。
感謝しつつ、サーシャを席に座らせる。
席について食事、という経験がないのか、何をすればいいのか分からず、戸惑うサーシャの頭を優しく撫でて、料理が出てくるまで待とうねと声をかけた。
しばらくして、エルがカートに乗せた料理を運んでくる。
「簡単ではありますが、サンドイッチとなります」
そうして各自の前に配膳していく。
ファニーやサーシャの分は小さく作られていた。
「いただきます」
「いたーきま!」
サイリールとファニーが手を合わせて食前の挨拶をすると、サーシャは首をかしげていた。
そんなサーシャにアソートが声をかけた。
「サーシャ、ご飯を食べる前に、頂きますって言うんだよ」
「いただきます?」
「そう、ご飯を作ってくれた人への労いと感謝を込めて手を合わせて言うんだ」
そうアソートが教えると、サーシャは真剣な顔で頷いた。
小さな手を合わせるサーシャに皆ほっこりする。
「いただきます」
そうして全員でエルが作ってくれたサンドイッチを食べた。
食後のデザートとしてリンゴを食べながら、サーシャの喉について話し合った。
「うん、だからすこしのどをいじれば、ふつうにはなせるようになるとおもう」
「そうなんだ!よかったね、サーシャ。サイリールがサーシャの喉なおしてくれるって!普通に会話ができるよ」
頬を薔薇色に染めて、かすれた声でサーシャが嬉しそうにお礼を言った。
「ありがとー!うれしい。さーしゃもみんなといっしょ!」
ニコニコ笑うサーシャの頭をアソートが優しくなでる。
「ねぇ、サイリール。足はどうだろう?後で見れる?」
「うん、のどをなおしたらみてみるね」
二人の会話を聞いたサーシャが目をまるくする。
「さーしゃ、あしもよくなる?みんなとおなじ、あるける?」
「見てもらわないと、なんともいえないけど、サイリールならきっと治してくれるよ。治ったら一緒にお散歩に行こうね」
「うん!あそーとといっしょにおさんぽ!」
そんな二人を他の二人は微笑ましく眺めていた。
食事を終え、居間へと移動し、サーシャの治療を始める事にした。
ファニーはエルに抱っこされて家の外に散歩に出かけ、サーシャはアソートの膝の上に抱っこされている。
「じゃあはじめようか。のどをいじるから、すこしいわかんあるかもしれない。アソートはサーシャをしっかりだいていてあげて。」
「うん。分かった。サーシャ、大丈夫だからね。怖かったら目をつむっているといいよ」
不安気にアソートを見上げていたサーシャは頷くとぎゅっと目をつむった。
それを確認したサイリールは手のひらから闇を作り出すとそのままサーシャの喉へと闇を伸ばしていく。
サーシャの喉が闇で覆われ、しばらくすると闇がぐにぐにと動き出した。
くすぐったいのか、違和感があるのか、サーシャは少しだけ身じろぎをする。
そのたびにアソートが優しくサーシャの髪を撫でる。
少しして、動いていた闇が止まり、サーシャの喉から離れていった。
「うん、おわった。たぶんもうだいじょうぶ。サーシャ、しゃべってごらん」
「サーシャ、どう?痛いとか何かある?」
「ううん、ないよー。ッ!」
自分の声の大きさに、喋っても苦しくない事にサーシャ自身が驚く。
生まれて初めて、喋るのが辛くないのだ。
生まれて初めて、大きな声が出せたのだ。
「こえがおっきい!くるしくない!くるしくないよ!わぁ!」
「良かった、良かったねぇ、サーシャ」
アソートが笑顔でサーシャの頭をなでる。
満面の笑みでサーシャがアソートを見上げ、そしてサイリールを見た。
「もうくるしくないの!ありがとう!」
「うん、よかった」
ニコリとサイリールも微笑んだ。
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