第二十五話 初めての味
メイドに促されて居間に戻ったアソートとサイリールはソファーに腰かけていた。
赤ちゃんをあやす道具があると教えられ、アソートからその記憶を貰い、サイリールは道具を作り出す。
小さな太鼓のようなものに棒が刺さっており、太鼓の左右には紐がついており、その先には丸い玉がついてる。
棒を左右にくるくる動かすと紐についた玉が太鼓の側面をてんてんと叩き音が出る仕組みだ。
サイリールに抱かれたままのファニーは食い入るようにそれを見つめ、時折声を出して手足をばたつかせてはしゃぐ。
そんな様子を二人でかわいいかわいいと言いながら見ていると、居間の扉が開き、メイドが失礼しますと言いながら入ってきた。
「紅茶と、簡単ではありますが、クッキーを作って参りました」
「わぁ!ありがとー!」
ソファーの前のテーブルにクッキーが置かれ、それぞれの前にティーポットから注いだばかりの紅茶カップが置かれた。
さっそく、とばかりにアソートが紅茶のカップを持ち上げ、香りを楽しむ。
「ああ、いい香りだ……」
そしてそっとソーサーの上に戻すと、蜂蜜をほんの少しティーカップの中に垂らした。
軽くかき混ぜ、再びカップを持ち上げたアソートは一口、紅茶を含む。
コクリを喉をならして紅茶を飲み込んだアソートは、ほぅ……とため息をついた。
「おいしい……。本当に、久しぶりに飲んだよ。だけど、今まで飲んだどの紅茶よりもおいしい。ありがとう」
「はい、喜んで頂けて私もとても嬉しいです」
そしてサイリールもファニーを揺り篭にそっと戻すと、アソートと同じように紅茶を楽しんでみた。
「ああ、ほんとうだ。ほんのりとばらのかおりがするんだね」
そして蜂蜜を垂らして紅茶を一口飲んでみる。
それが彼が生まれて初めて何かを自らの口にした瞬間だった。
「……すごい……。ちしきとしてあっても、じっさいにのんでみると……なんというか、ちがうんだね。これが、おいしいってかんかくなのか」
闇で吸収するのとはまったく違った。
闇で吸収する時は味など何もないからだ。
ただただ、栄養を吸収しているだけ。
「サイリール、クッキーも食べてみなよ。とってもおいしいよ!」
アソートの言葉に、彼はクッキーも手にし、一口かじってみる。
「わぁ……。ふんわりとしたあまさと、ほのかなにがみが、こうちゃによくあうね。おいしい」
「茶葉が少し混ぜ込んであるんだよ。とってもおいしいよね!メイドさん上手だねー」
「有難うございます。光栄です」
クッキーをぽりぽり齧っていたアソートがふとメイドに質問をした。
「そういえば、メイドさん名前は?」
アソートはメイドを作ったのがサイリールだと言う事をすっかり忘れていた。
あまりにも人間にしか見えないから。
「はい、私の名はエリル。エリル・サイバート。サイバート家の三女でした」
「でした?なぜ過去系なの?」
「もう過去の話しなのですが、サイバート家が没落致しまして、私は親戚の叔父の家に引き取られたのですよ」
さらりとそんな話しをしてから、メイドはハッとした顔になる。
「申し訳ございません、アソート様。今のは私ではありません。私の元となられた方のご記憶でございました」
アソートは意味がわからず首を傾げている。
「かのじょはぼくがつくったんだ」
彼の言葉を聞いて、アソートはあっと小さく声をあげ思い出した。
申し訳なさそうな顔でアソートは謝罪した。
「ご、ごめんね」
そんなアソートにメイドはニコリと笑いかけた。
「いいえ、私の失態でございました。ですが、マスターが私を作って下さった時、マスターが参考になさった方でございます。似て非なるモノではございますが、確かに私の中には彼女がおられます。ただ、名前は彼女だけのものでございますので、私の事は「エル」と、お呼び下さいませ」
「うん!エルさんよろしくね!」
「はい、アソート様。よろしくお願い致します」
そんなエルとアソートのやり取りを見ていた彼はひとつ頷いた。
「うん。エル。いいね。エル、これからもよろしくね」
彼の言葉にエルはぱっと顔を輝かせた。
「はい!マスター。宜しくお願い致します」
そうして賑やかな午後が過ぎていった。
お読み頂きありがとうございます。
もし宜しければ評価・ブクマを宜しくお願いします。




