第二十三話 彼女の記憶
居間についてからファニーの様子をじっと見ていた彼にメイドが声をかけた。
「マスター、家は完璧なのですが、調味料や茶葉などが欲しいのです」
彼がなぜ?と首を傾げているとメイドは真剣な顔で告げた。
「マスター、私はメイドです。いずれお嬢様も大きくなられます。お食事なども必要になります。という建前の元、私が料理をして食べてみたいのです。お客様にお出ししたいというのもありますが」
なるほど、と彼は思った。
「いいよ。ほしいものはいって。つくっておくから」
メイドは笑顔を浮かべて礼を言った。
メイドを見ていた彼は彼女の事を思い出していた。
檻の中で息を引き取った彼女の事を。
「あのね、きみのもととなったひとがいきていたんだ」
「まぁ。どんな方でしたか?私気になっていたのです。奥様の記憶の中の私だったので、できればご本人の記憶を知りたかったのです」
「うん、りっぱなひとだった。だけど、さいごはつらかった……とおもう」
「そう、なのですか。それでも私は彼女を、私を、知りたいです。私は作られたモノではありますが、知っておきたいのです」
メイドの言葉を聞いて、彼は彼女の記憶をすべて、メイドに渡した。
しばらくしてメイドは一筋の涙をこぼした。
「……マスター、有難うございました。彼女は、本当に最後は幸せだったと思います。辛いばかりじゃなかったと思います」
「そう……かな……。ぼくがもっとはやくあそこにいけば……」
「いいえ、いいえ、マスター。それは仕方のない事です。だけど、彼女は最後、奥様と会えました。それにお嬢様が無事な事も分かりました。それだけで幸せでございます」
「うん……。さいご、ファニーのははおやのたましいとからみあうようにのぼっていったんだ」
あの時の光景を思い出し、サイリールは目を閉じる。
「ずっと、ファニーがしんぱいだったのか、ははおやのたましいはファニーにくっついていたのに。いまはもうどこにもいない」
「きっと安心なされたのでしょう。マスターがいれば大丈夫だと」
「そう……なのかな。そうだと……いいな」
そんな会話をしていると、ふと彼が顔をあげた。
「アソートのめがさめたみたい」
「私がお迎えに行って参ります。マスターはお嬢様を見ていてあげて下さいませ」
「わかった。おねがいね」
そしてメイドが居間を出て行った。
しばらくして、メイドが少年を連れてやってきた。
「やぁ、アソート。どうだい?」
やや喋りにくそうに、少年、アソートは答えた。
「ん。んん。うん。まだ少し体がぎこちないけど、多分大丈夫だと思う。ありがとー、サイリール」
ニコリと、花が咲き誇るような笑顔を浮かべる。
その笑顔に、彼もニコリと笑う。闇夜に浮かぶ美しい月のような静かな笑顔であった。
そんな二人の笑顔を見て、彼女の記憶を受け継いだメイドは眼福眼福とよこしまな笑みを浮かべた。
サイリールが見た彼女の記憶は山賊に捕まってからの記憶だったので、本来の彼女の趣味や嗜好については知らないのである。
きっと知ったとしても理解は出来ないかもしれないが。
「アソート様、宜しければ鏡をご覧になりますか?まだお姿を見てはおられませんでしょう?」
メイドの提案にアソートは喜んで承諾した。
用意された鏡の前に立ったアソートは驚きに目を見開いていた。
それもそうだろう。鏡には絶世の美少年が映っているのだ。
「サ、サイリール……これ、ボクかい……?なんか、すごい美少年がいるんだけども……」
「うん、きおくのなかで、いちばんきれいだなっておもうすがたをまぜてつくった。それに、アソートのたましいにとてもあってるすがただとおもうよ?」
彼の言葉を聞いて、薔薇色の頬が更に濃くなる。
「そ……そう……?ありがとう……。なんか、照れるね」
そんなはにかむ少年を見て、メイドは心の中でもだえていた。
これは素晴らしい光景ですね!脳内に保存しておきましょう。
そんな事を考えていた。
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