第十六話 後悔
他の檻には目もくれず、彼はまっすぐ彼女のいる檻へと向かった。
他の檻にいた女達は先ほどの悲鳴や怒号に怯えているのか部屋の隅で小さくなって震えていた。
彼が彼女のいる檻の扉を引くと、それは抵抗もなく開いた。
元々鍵はついていないようだった。
ギィと嫌な音をたてて扉は開く。
地面に体を横たえ、体中から饐えた匂いをさせる彼女の傍へと歩いて行く。
倒れこんだまま、ピクリとも反応を示さない彼女を眺め、なぜこんなに気になるのかと、その答えを求めるように、彼はそっと彼女に手を近づけた。
彼女の記憶を見た彼は彼女に闇を纏わせると、体中にこびりついた様々なモノを取り去り、闇で作ったきれいな布で彼女を包んだ。
乱雑に切られ、薄汚れていた彼女の髪はきれいな栗色を取り戻し、色々なもので汚れていた体もきれいになった。
きれいになって初めてわかったが、彼女の体はあちこち殴られ、蹴られていた。
強く蹴られたのだろう、腹がドス黒く変色しており、腫れあがっている。
彼は彼女を左手で抱え上げると右手からきれいな水を作り出し、彼女の口に流し込んだ。
しかし、もう水を飲む気力もないのか、口の端からこぼれていく。
そんな彼女に彼は声をかけた。
「ファニーはぶじだよ。げんきにしてる」
その言葉を聞いた彼女はピクリと動き、口の端からこぼしていた水を少しだけゴクリと飲み込んだ。
それを見た彼は水を出すのをやめる。
ひび割れた唇が微かに震え、囁くような小さな声が漏れ出した。
歯が抜かれているせいで少し聞き取りにくかったが彼女の言葉に耳を傾ける。
「お……ひょ……ひゃま……は……おく……ひゃま……」
「もう、だいじょうぶだよ。ファニーはげんきにしてる。ははおやはたすけてあげられなかった。ごめんね」
「ひょ……ひょう……れひゅ……か…………おひょ……ひゃ……あり……ありひゃ……と……ひゃいま…………おく……………………」
そうして眼球がある左目から、彼女は一筋の涙をこぼし、静かに息を止めた。
微かに微笑みを浮かべた彼女の顔はとてもきれいだった。
少し前から彼女のそばに淡い光りを放った魂が寄り添っていた。
その魂に導かれるように、彼女の魂は肉体から抜けて、そのまま光りを放つ魂と絡み合いながら上へ上とのぼっていった。
それを見て、彼は顔を歪め、静かに目を瞑った。
「ははおやも、きみも、たすけてあげられなくて、ごめんね……」
彼女はファニーの母を山賊の手から逃がしたあのメイドだった。
彼女はファニーの母を逃がした後、山賊に捕らえられていたのだ。
そして、山賊どものおもちゃにされていた。
どれだけの恐怖と屈辱と痛みだったのだろうか。
人間ではない彼には容易に想像は出来ない。
しばらく彼女を抱えていた彼だったが、彼女をそっと闇で包んだ。
「ぼくのなかでわるいけど、たましいもぬけたし、しずかにおやすみ」
彼女の弔いを終えた彼は、他の檻にいる女達について思いだした。
「たすけるのはさいごでいいかな。まもるのたいへんだし」
そうして彼は檻にいる女達はとりあえず置いといて、他の山賊を殺す為に移動を開始した。
残りの山賊はあと二十人ほどだ。
一人も生かしてはやらない。
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