第十三話 心の乱れ
ようやく山賊の塒近くまで移動した時にはすでに夜が近づいていた。
太陽が沈みかけ空はオレンジ色に染まっている。
彼はアソートを安全な闇に匿うと、森の木陰で目を瞑り山賊の塒に置きっぱなしだった闇に意識を向けた。
意識を開くと、闇の周囲はざわざわとしていた。
周りを見回すと、歩いてる人間の男や、他にもたくさんの人間の気配がした。
どうやら今朝見た時は山賊達は出払っていたようだ。
再度穴の中を見て回るべきかとも思ったが、まずは見ていない所を見ようと思い、そのまま奥へと進んでいった。
入り口からたくさんの部屋がある通路を抜けた先はT字路になっていた。
左側の方が人の気配が多く、右は少なかった。
まずは右から見る方が少なくていいかと、右側へと進んでいった。
右側の通路を少し行くと、また左右に穴が開いている。
だがここは布のようなものは入り口にかかっていなかった。
中を覗くと、木箱が乱雑に置かれている。
木箱の中身には食料品などが入っているようだ。
人はいないので次へ向かった。
入り口に布がかかっていない穴は合計で6つあった。
すべて木箱や瓶だった。
ここは山賊達の食料品置き場なのだろう。
さらに奥へ進むと少し広い広場のような場所があった。
そこにも木箱があったが、きれいに置かれていた。
中を少し見ると、キラキラした石や、装飾がたくさんついた短剣や、きれいな食器などが入っていた。
彼は興味がないのでまだ道がある奥へと向かっていった。
広場を抜けて通路に入り、しばらく進むとまた左右に穴があいており、入り口には鉄の檻がはまっている。
最初の右側の檻を覗いてみると中には人間の女がいた。
部屋の隅で身を寄せ合う親子だろうか?
子供と母親のような人間がいる。
左の檻には誰もいなかった。
2個目の右側の檻をみると、若い女だろうか、服はボロボロで部屋の隅で膝を抱えて丸くなっている。
左の檻には誰もいない。
次の檻で終わりだ。右側を見るが誰もいなかった。
左側を見たら人がいた。
背中を壁に預け右肘から先がなく、両足を投げ出した格好で座っており、ボロきれがかろうじて肌に引っかかっている状態のほぼ裸の女がいた。
顔は、殴られた痕だろうか、左の頬が青黒くなっている。
右目は空洞のようになっており、どうやら眼球はなくなっているようだ。
唇はカサカサに乾いており、歯も抜かれたのかなくなっている。
息はしているようで、胸が少し上下している。
なんとなく、彼女の表層の記憶を見る為に闇を飛ばそうとした時、こちらに歩いてくる人の気配がした。
闇を飛ばすのをやめて少し様子を見ていると、通路の向こうから男が二人やってきた。
檻がある所まで来ると、男の一人が親子がいる檻を足で蹴る。親子は怯え、ヒッと小さく悲鳴をあげた。
「余計な事すんなよ。さっさと行こうぜ」
「へっいいじゃねーか怯える女は最高だぜ?最近あの女反応しねぇからつまんねぇんだよ」
「確かになぁ、最近は反応すらしねぇ。まぁでもいつでもヤレる女がいるのはお頭に感謝しねぇとな。売らずに置いといてくれるんだしよ」
「でもあの女そろそろダメになんじゃねぇか?最近はメシもくわねぇみたいだしよ」
「こないだお頭が、そろそろ新しいペットに交換するかって言ってたから、もうすぐ新しいのになんじゃねぇか?」
「ほう、そりゃー楽しみだな。次のはもっと長くよく鳴いてくれるといいんだがなー」
そんな会話をしながら、男達が彼が記憶を見ようとしていた女の檻の前まで来ると檻の扉を開けて中へ入っていった。
檻を蹴っていた男が彼女を殴りつける。
彼女は特に声も出さずにそのまま倒れた。
男はそんな彼女を見てつまらなそうにしながらも、一緒に来た男と共に彼女をもてあそび始めた。
彼はそれを見て、なぜかとても不愉快な気分になっていた。
昨日助けた女を見た時は特にそんな感情は沸かなかった。
不思議ではあったが、とにかくとても不愉快なのでその場を移動していった。
この小さな闇の塊ではあの男達に対し何も出来ないからだ。
それでも、あの二人は許せないと、そう思っていた。
そのまま最初のT字路まで戻ると最初とは逆の左側、人の気配が多い方へと移動していった。
しばらく進んでいると、左に大きな穴があいていた。
入り口には男が一人立っている。
中を覗き込むと女が四人せっせと料理を作っている。
竈の上には小さな子供なら通れそうな穴が開いていた。
どうやら換気の為の穴のようだ。
煙がその穴に吸い込まれるように上っていっている。
そこを通過して更に奥へと進んで行くと大きな広間に出た。
中にはたくさんの男がおり、飯や酒を飲んでいる。
一番奥には毛皮の上に座り、自分のそばに一人の女を侍らせた体格のいい男がいた。
そこに、一緒に座っている男がいた。
彼が探していた強い男だ。
スルスルと彼は闇をすべらせて近づいて行く。
彼は男に近づくとそっと闇を伸ばし、男の記憶を盗んだ。
盗んだといっても、男の記憶がなくなるわけではないのだが。
そして彼の用事は半分終わった。
役目を終えた闇はシュルシュルと彼の元に向かって戻り始めた。
彼は盗みとった記憶から剣術に関してを自分の体に薄めて伸ばした。
とは言っても小さな闇では表面的なモノしか見れなかったので、本格的に深く剣術を理解するならば、もっと濃い闇で触れるしかないだろう。
手から闇の剣を生み出し、一通り型に沿って動いて見る。
まるで昔から習っていたかのごとく剣をふるい、流麗に舞う。
「うん。もんだいなく、からだがおぼえたな」
最初は山賊の塒近くから濃い闇を飛ばして詳しく記憶を探るつもりだった。
でも、助けた女を町に送る約束をしたので偵察に小さな闇を飛ばしたのだ。
だから今から濃い闇を放って再度あの男の記憶を見ればいいだけだ。
「……けれど、かのじょのことがきになる。それに、さんぞくはわるいやつだ。わるいやつはたいじしないといけない」
今までした事のない言い訳を彼はしていた。
自分でも不思議だったが、どうしてもあの彼女が気になったのだ。
それに、あの彼女を犯していた山賊達がなぜか許せないと思うのだ。
だからこそ、どうして自分がこんな思いになるのかを知りたかった。
直接彼女に会って深く記憶を見てみたかった。
そんな思いを抱きつつ、彼は洞窟に向けて足を進めて行くのであった。
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