第百十一話 屋敷へ
セイ達の家についたサイリールは扉を軽くノックして中へ声をかけた。
「セイ、僕だよ。入ってもいいかな?」
サイリールの問いかけに家の中から元気な声が響いた。
「あ、にーちゃんだ!とびらはあいてるからはいってくれていいぜ!」
扉を開けて中に入ると、イーナは目を覚ましていたようでセイの傍にいた。
サイリール達を見たイーナはセイの傍から離れ、トテトテと小走りで近寄るともじもじとしながらサイリールらに告げた。
「あ、あの……おにいさんたち、ありがとう。あのこたちにパンやおいしいごはんをくれて。あたしもきのうみんなといっしょに、しろくてとってもおいしいスープと、そのあとにあまいパンをたべたの。とっても、とっても、おいしかった」
セイ達に晩御飯を作った日の夜のうちにシチューを用意してあったのだ。
とはいえ、そのまま長時間外に置いてると傷んでしまう可能性があったので、時間停止箱を作りそこにいれておいた。
後は食べる時間にセイが箱から取り出し皆に配ったのだ。
シチューは子供達皆が喜んでくれたようだ。
作り方は少し手間がかかるが、小麦粉と牛などの乳から作られた乳脂を混ぜ、そこに乳を加えてドロリとしたソースを作る。
そこに別の鍋で煮込んだたくさんの野菜や肉を煮汁と共にいれたのだ。
これもファニー達が大好きな料理だったので、きっとセイ達も喜ぶだろうと思い作った。
当然乳自体が貴重で高い為セイ達は口にした事がないものだった。
その日の夜や今日の朝の分についてはセイには調味料や食材は一切遠慮しなくていいと伝えたのできっとお腹いっぱい食べれた事だろう。
そして、イーナがとても自然体なのには理由がある。
イーナの精神世界での出来事は、イーナ自身はほとんど記憶に残っていない。
あったとしても夢を見たかのように断片的なのだ。
イーナ自身は不思議な夢を見たと思っているだけである。
だから、あの世界でセイが語った内容もイーナは覚えてはいないのだ。
それでも、あの時セイを抱きしめた事はなんとなくは覚えているのだろう。
セイの姿を追いかけるイーナの目にはとても優しい光が灯っていた。
「それで、セイ。どうだった?皆僕と来てくれるのかな?」
サイリールの言葉にセイはニカッと笑った。
「もちろんだぜ、にーちゃん!みんないやっていうはずねーさ!」
セイの返事に他の子供達も次々に同意していく。
「そっか。良かった」
「うん、良かったー。きっと皆気に入ってくれると思うよ」
そうしてサイリールとアソートは顔を合わせお互いニコリと微笑みあった。
「じゃあ、皆で家に行こうか。もうこの家に戻る事はないから、思い出の品とかあったらちゃんと持ってくるんだよ。」
サイリールの言葉に皆思い出の品なのだろう、掲げて見せてくれる。
「にーちゃんたちがくるまでに、ちゃんとじゅんびしたから、だいじょうぶだぜ。みんな、このいえにさいごのあいさつをすませろよ。これからはあたらしいうちでくらすんだからな!」
セイの言葉に、子供達は皆それぞれ目をつぶったり、壁に手をついたりしている。
数分程して全員の準備が整ったので新しい屋敷へ移動する事にした。
年長組みはそれぞれ年下の子としっかりと手を繋いで歩き始めた。
アソートを先頭に、最後尾をサイリールが歩く。
移動中の子供達は皆笑顔だった。
もうひもじい思いをする事なんてないのだ。
硬い床に布にくるまって眠る事もない。
何より、セイがとても幸せそうなのだ。
いつも笑顔だったけど、どこか辛そうだったセイ。
皆、幼いなりにそんなセイの様子には気づいていた。
だから、心から笑っている兄の笑顔を見ると、皆とても幸せな気分になれたのだ。
しかしそんな子供達のはしゃぐ声も少し前から静かになっている。
子供達の目の前には立派な門が開かれ、中にはメイドや執事が立っているのだ。
そして何よりも見上げる程に大きい屋敷。
全員が口を開け、ぽかんとしている。
そんな子供達にサイリールが声をかけた。
「ここが、今日から皆で住む家だよ。おかえり、我が家へ」
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