第百七話 一緒に暮らそう
夜も更け、晩御飯も終えたアソート達は部屋でゆっくりしていた。
ただ、ソファーに座るファニーはずっとご機嫌が斜めであった。
そんなファニーにサーシャが声をかける。
「ファニー、おこらないのー。パパはきっとやることがあったんだよー」
「や!」
終始こんな感じでファニーのほっぺはぷくぷくに膨らんでいる。
さすがに寝る時間も迫っているのでサーシャをエルに任せ、アソートはファニーの隣に座った。
「ファニー。パパがいなくて寂しいよね」
そっと柔らかいファニーの髪を優しくなでる。
ぷくぷくに膨らんだほっぺはそのままに、ずっと我慢していたのだろう、ファニーの目に涙が盛り上がった。
アソートに、優しく撫でられ、声をかけられたファニーは寂しさが決壊したのか、ぼろぼろと涙を零してアソートにしがみついた。
わんわんと泣いて、パパが帰って来ないと訴えるファニーを抱きとめ、落ち着くまでぽんぽんと背を叩き髪を優しくなでた。
まだ3歳のファニーに理解できるかは分からないが、アソートはなぜサイリールがいないのかをゆっくりと分かりやすく伝えた。
「だからね、ファニー。パパがいないのは子供を助けているからなんだ。でもファニーが寂しい思いをしているのはよくわかるよ。ごめんね。明日はパパはファニー達と一緒にいてくれるから、少しだけ我慢しようね」
ファニーは目に涙を溜め、唇を尖らせながらもコクリと頷いてくれた。
「いい子、いい子だねファニー。いい子」
そうしてしばらくファニーを抱きしめながら撫で続けていると泣きつかれたのか、もう寝ている時間なせいか、ファニーはスヤスヤと寝息をたてはじめた。
そんなファニーを見て少しほっと息を吐き出すとファニーを優しく抱き上げて寝室へと連れていった。
寝室へ入るとすでに寝かしつけられたサーシャとその傍にはエルがいた。
すでに眠っているファニーを抱えたアソートにエルはニコリと微笑みかけてきた。
アソートもエルに笑いかけてそっとファニーをベッドに寝かしつけた。
エルはいつも通り子供達の傍にいるようなのでアソートはその場を任せて部屋を出た。
子供達は寝る時間だが、アソートにはまだ少し早い、そんな時間帯だった。
ソファーに腰掛けたアソートは手の平から闇を生み出すと暇つぶしも兼ねて少し形の複雑な使い魔を作り始めた。
その頃、サイリールは子供達が板の間で布に包まって寝ているというのを聞き、せめて少しでも暖かく過ごせるようにと、少し厚みのある敷き布団を人数分出してそこに寝かしつけていた。
お腹がいっぱいになっていた子供達はふかふかの布団に横になると一瞬で眠りに落ちていった。
そんな子供達を優しく見つめるサイリールと弟達の幸せそうな顔に満足と少し複雑な面持ちで眺めるセイ。
そんなセイを見たサイリールはセイを誘って少し外へ出た。
スラム街はすでに明かりはなく、シンとしていた。
夜空の月や星の明かりだけが柔らかく地面を照らしている。
そんな中をセイと歩いていた。
「ねぇセイ。イーナも明日には目が覚めると思う」
「……?うん」
「君達に相談もしてないんだけどさ、僕達と暮らさないか?」
「え……?くらすって、どういう……?」
あまりに突然の提案にセイの思考は止まってしまい、意味が理解できなかった。
「急でごめんね、でも、ここまで関わって、セイ達をそのままに出来ないんだ。嫌……かな?」
「そんな!ッ……そんなことない。でも、にーちゃんのかぞくは……?」
「一緒に暮らすっていう提案をしてくれたのが、アソートなんだ」
「ちいさいにいちゃんが?」
「うん。僕がセイ達を見捨てたくないって話しをしたら、アソートも同じ気持ちだったみたいでね、一緒に暮らす提案をしてくれたんだ。明日には家を見に行ってくれる予定になってる。僕は娘達の面倒を見るように言われてるけどね」
「そっか……、わるいからいいよなんていってもきっとにーちゃんたちは、ほっとかないんだろ?」
「あはは。うん、きっと説得するね。もしくは、こっそりお金と食材の支援を続けるかな。エルなんかは食材の支援をずっと続けるつもりだったみたいだしね」
「えっでもどうやって……。」
サイリールはエルの言葉の意味や、どうやって支援をするつもりだったのか、笑いを交えながらも説明していった。
セイはその話しを聞きながら、ほろほろと涙を零しながら頷いていた。
「にーちゃん、ありがとう……。おれ、ずっとふあんだった。もうあいつらを、くわしてやれるだけのかねをかせげなくて……。いずれみんなよわってしんでいくきがしてて……。わかってるのに、どうにもできなくて……ずっと、ずっとだれかにたすけてほしかった。おれも、だれかをたよりたかった。たすけてほしかったんだ……」
「うん、分かってる。セイは一人で、ずっと頑張っていたよね。誰にも頼れなくて、でもずっと頼られて、お兄ちゃんだからって、気持ちを押し殺してきたんだろう?」
「……う゛ん」
「もう、いいんだ。頑張らなくても。これからは僕達がセイ達を守ってあげるから。不安になったら、悩みがあったら、僕達に相談すればいい。セイ達が独り立ちするまで、ずっと守ってあげるから」
セイはもう涙を抑える事も声を抑える事もしなかった。
9歳の子供らしく、サイリールに抱きつき、わんわんと泣いた。
母親に捨てられてから、ずっと、ずっと我慢してきた。
別に嫌だったわけではない、家族は大事だったし好きだったから。
だからこれまで頑張れたし、やってこられた。
きっとこれからもサイリール達に守ってもらうとしても、セイは兄として頑張るだろう。
だけど、時には不安を覚える事だってあるし、悩む事もある。
そんな時、相談したり、甘えたり出来る相手がいる、それだけでセイは嬉しかったし、安堵したのだ。
そうしてサイリールとセイは今後について話し合いをした。
まだ旅の途中である事も、その為に、旅に行ってる間、セイ達と一緒に暮らす人物についても。
セイは笑顔ですべてを受け入れていた。
やっと救われる、やっと皆で幸せになれると、心からの笑顔だった。
サイリールはそんな笑顔を必ず守ると心から誓うのであった。
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