第百六話 オムライス
倒れこんだイーナの様子にセイがおろおろしていると声がかかった。
「落ち着いて。セイ驚かせてごめんね、今しかないと思って、イーナの封印されてた記憶をはぎとったんだ。初めてだったから少し時間がかかったけど、うまくいったよ」
サイリールの言葉の意味をしばらく頭の中で反芻させたセイが意味を理解したのかほっと息を吐いた。
「あ……そっか……よかった。にーちゃん、イーナはもうだいじょうぶなのか?」
「うん、もう大丈夫。今はただ眠っているだけ。僕らも戻ろう、イーナの意識が溶け始めた。ここにこのままいたら危険だ」
抱えたイーナを見ると、イーナの輪郭がぼやけはじめていた。
驚いたセイだったが、サイリールに再度促され、そっとその場にイーナを横たえた。
そうして、セイとサイリールは手を繋ぎ、もと来た道を戻っていった。
「ううん……」
目を開くと目の前には目を閉じて静かな寝息をたてるイーナとそんなイーナの額に手を置いて何かをしている様子のサイリールが見えた。
セイが目を覚ましたのに気づいたサイリールがセイの方を見てニコリと微笑んだ。
「目が覚めたかい?」
優しく、そう問いかけるサイリールに、セイはコクリと頷いた。
「にーちゃん、イーナは?」
少し不安気に問いかけてきたセイにサイリールは説明をした。
現状イーナはただ寝ているだけなのでそのうち目を覚ますという事。
体の各所の傷はきれいに治してある事。
記憶については、はぎとった部分の記憶の補填をしてあるという事。
単純に裏路地に連れていかれて、ポケットのお金をとられ、投げ飛ばされた時に泥水に突っ込み、そのまま気を失ってしまったという様にしてあるという事だった。
「そこでなんだけど、セイはその記憶の部分をどうする?セイのも消そうか?」
サイリールの言葉にセイは首を横にふった。
「ううん、おれはこのままでいい。だけど、テトのきおくはイーナとおなじようにイーナをみたとこのきおくをかえてほしい」
セトの言葉にサイリールは頷いた。
その後、セイがテトを呼んで、テトの傷を見るという口実で眠らせた後、記憶も軽く変えておいた。
やはりテト自身もイーナの状態については意味は理解していなかったが心に大きな負担となっていたようだった。
テト自身の記憶は泥水にまみれて意識を失っているイーナをセイが慌てて抱き起こし、セイの服を着せて家に戻った、という記憶に変わっている。
セイが絶望の声をあげた事や、イーナが裸で倒れていたという記憶は完全に消えている。
さらにはセイの希望でイーナを連れ帰った時のセイの「イーナを壊された」という発言部分もセイ以外の全員の記憶を消す事となった。
あまり記憶をいじりたくはなかったが、こうしないと記憶の齟齬が出てしまいよくないからだ。
時間はかかったが、全員の健康診断という口実で記憶の変更と消去を行った。
口実とは言ったが、実際サイリールは記憶の消去をするついでに全員の体内状態のチェックもしている。
中には内臓の機能が弱っている子もいたのできちんと治療をすませている。
もちろん闇の住人とばれるわけにもいかないので、わからないようにしたのだが。
そうしてすべての事が終わった時には、すでにもう外は暗くなっていた。
子供達のおなかは盛大にぐーぐーと合唱をしていた。
そんな様子を見たセイは苦笑しながらもご飯を作ろうと台所へと移動しようとした。
「セイ、待って。僕が作るから、ここで皆と待ってて」
セイは驚いていたが、サイリールに優しく説得されて弟達の相手をしつつ待つ事にした。
台所に移動したサイリールは闇の回線をエルと繋げた。
エルの全てはサイリールが作り出したのでアソートととは少し違う。
これ自体はサイリールが発見したわけではなく、エルが見つけた回線である。
サイリールが子供達の記憶を変えている時に突然頭の中に何かが繋がるような感じがしたかと思うと、エルの声が聞こえたのだ。
エル曰く、闇同士は分けて独立していても本質的には繋がっているのだから、自分もマスターと繋がっているのではないかと思って意識を繋げてみたら出来た、という事だった。
これもどうなっているのか、原理など考えても分からないので、出来るから出来るで納得している。
アソートもほとんどはサイリールの闇で出来ているから、一応後で試そうとは思っている。
そうして台所についたサイリールはエルと回線を繋げて、エルの記憶から知識を貰い、子供達が好きそうで、かつお腹がいっぱいになりそうな料理を作り始めた。
食材自体はサイリールが簡単に生み出せるので、どんどん出していく。
鶏肉に玉ねぎ、そしてピーマンに人参と卵、米である。
と言っても、米はすでに炊き上がった状態だ。
竈が一つしかなかったゆえである。
手早く多めの鶏肉と玉ねぎ、ピーマン、人参を刻み、火をつけた竈の上に底が深い鍋を置いて、塩や胡椒をかけてしっかりと炒める。
鶏肉を炒めた時のジュウっという音や香りに釣られて、子供達が覗きにきていた。
鶏肉の焼ける香りに料理を作るサイリールの後ろからグーグーと大合唱が聞こえる。
そんな大合唱を聞きながら、最近エルが見つけた、オムライスを作って行く。
甘みと少し酸味のあるトマトベースのソースが鍋の熱にあぶられてなんともいえない食欲をそそられる香りを漂わせる。
そんなトマトのソースの中に炒めた鶏肉や野菜、そしてご飯を混ぜていく。
混ぜ終えた鍋を脇において、新しい底の浅い鍋を竈においた。
温まった鍋に、油を敷いて、割りほぐした卵を放り込み適度に箸で混ぜる。
半熟の卵の上にトマトのソースと混ぜた具の多いご飯をのせて、鍋を軽くゆすればご飯が卵に包まれていった。
そうして人数分のオムライスを完成させた。
それを子供達がキラキラした目で各自受け取り、地べたやちょっとした台の上に置いてセイに向けて熱い視線を送った。
視線を送られたセイも初めて見る食べ物にドキドキしていた。
卵なんて高くて買えない食材なのだ。
そんな今すぐかぶりつきたい気持ちを押さえ込んでサイリールを見た。
「にーちゃん、ありがとな!すげーうまそーだ!いーか、おまえら。にーちゃんにかんしゃしてくえよ!」
そう言ったセイの言葉に一斉にあちこちからありがとー!と声があがり皆オムライスにかぶりついた。
スプーンなどはその辺の木材で作ったらしく木のスプーンではあったが、皆おいしいおいしいと食べていた。
セイも子供らしくおいしそうに他の兄弟と言葉を交わしながら食べていた。
そんな様子を見てサイリールもニッコリと微笑んでいた。
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