第百三話 セイとイーナ(前編)
本日は二話更新です。後編もありますのでご注意下さい。
暗闇の中おぼつかない足取りではあるが進んで行くと、ぽっかりとそこだけ明かりが灯っている場所があった。
そこには小さな女の子が両膝を抱えて俯いていた。
それを見たセイが思わず大きな声を出してしまった。
「イーナ!!」
その大きな声にビクリと肩を震わせた少女、イーナがハッと顔をあげる。
その目にセイを捉えたイーナは目にみるみるうちに涙を溜め始めた。
「セイにいちゃん!!」
イーナは立ち上がろうとしたが、自らの手足が言う事をきかない事にイーナ自身が困惑してしまった。
「あ、あれ……また動かない……」
自らの体が己の意思で動かない事にイーナは泣き出してしまった。
「セイにいちゃん……うごけないー。なんでぇー」
セイは予め聞いてはいたが、その泣きじゃくるイーナの姿に鎮痛な面持ちになってしまう。
それでも自分が家族を、イーナを助けてあげるんだと気合をいれてイーナのそばに近寄っていった。
サイリールは邪魔にならぬように少し離れてそれを眺めていた。
彼自身はセイと繋がりを作っているので、後はセイがイーナと触れ合えさえすればイーナの封印された記憶を奪えるのだ。
「イーナ、なくなよ。いまはうごけねぇかもしんねーけどさ、おれがそばにいてやるからさ。な?ちょっとずつ、うごけるようになればいいよ。おれはずっとおまえのそばにいるから」
そんなセイの慰めの言葉にイーナはボロボロと零れる涙をぬぐう事も出来ずに、それでもセイを見つめた。
「うん……そばにいてね……セイにいちゃん……」
そうして二人の対話が始まった。
サイリールは離れた場所から二人の会話をじっと見守っていた。
最初は二人とも当たり障り内会話をしていたが、いつのまにか二人が出会った時の会話になっていた。
出会った当時はイーナはまだ5歳で、餓死寸前であった。
それをまだ4歳と少しのテトが見つけセイに知らせて家に連れ帰った。
その時、テト達の面倒を見ていたセイが、ガリガリのイーナを見て驚き、慌てて家に連れ帰り、柔らかく煮込んだほぼスープの麦飯を出してくれたのだ。
イーナはその時のセイが作ってくれた柔らかく煮込まれた麦飯スープの味を今でも覚えているらしい。
本当に生きてきた中で一番おいしかったようだ。
セイ自身はその言葉にあんなもん塩ちょっとだけいれた水粥だと言って照れていたが、それでもイーナはあの時はあの水粥が天上の味に思えたと言っていた。
それ程に彼女は食にも愛にも飢えていたのだろう。
イーナは貧民街に生まれ落ちた。
3歳までは母親がまだきちんと1日に1回は食べ残しや残飯ではあったが、食事として与えていたようだ。
しかし、その後はほとんど放置状態でいつのまにか母親は家に帰って来なくなっていたそうだ。
母親が完全に家に帰らなくなった時、イーナはまだたったの4歳だった。
イーナは物心ついた時から常に飢えていた。
母親が3歳までは食事を与えてくれたが、当然それは十分な量ではない。
だから、イーナはゴミを漁り飢えを凌いでいた。
この大きい街だったから可能な部分もあったのだろう。
そんな状態であったにも関わらず、イーナはそれでもたった一人でその後1年間を生き延びた。
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