第百話 守るべき存在
イーナとの対話を終えたサイリールは少し溜息を溢しながら意識を戻した。
彼の目の前には今も虚ろな目をしてどこを見るともなくベッドに横たわっている少女がいる。
イーナとの対話を精神世界で1ヶ月試みたが、イーナは最後まで自ら手を差し出す事は出来なかった。
どうして手を差し出せないのか、動かないのか、と己の体なのに言う事を聞かない事にイーナ自身が泣いてしまった事もあった。
こればっかりは彼女の心が無自覚に拒否してしまっているのでどうにも出来ない事ではある。
そして最後の最後まで、彼女が自ら封印した記憶に少しでも関連した会話は一切受け付けないままであった。
これはもうセイの力を借りる以外にないだろう。
イーナの封印した記憶以外の部分を探った結果、彼女はセイに幼いながらも淡い恋心を抱いている。
そこを利用する事になってしまう。
だが正直危険でもある。
恋心を抱いているという事は、封印された記憶をセイに知られたくないがゆえに攻撃に転じる可能性も十分あるのだ。
対話を重ねた結果、その可能性は低いとは思う。
思うが、確実ではない。
そうしてサイリールはイーナのいる部屋の扉を開けた。
「セイ、少しいいかな」
サイリールの声にセイが緊張を含んだ顔で頷いた。
セイをイーナのいる部屋へと招き入れサイリールはセイに協力をして欲しいと告げた。
もちろんイーナの恋心については伏せている。
こればっかりは彼女の許可もなく話せはしないし、セイが知らないままの方がきっとうまくいく。
「そんなわけでセイの協力を得たいんだ。多少の危険は伴う。だけど必ず僕がセイを守りきる」
セイはサイリールの言葉にしっかりと頷いた。
「うん、いいぜ。イーナのためだ、おれだってがんばる」
「ありがとう、セイ。……セイ、何か辛い事でもあったの?」
セイはサイリールの言葉にびっくりして目を丸くした。
「な、なんで?」
「辛そうな顔をしているし、泣いた跡があったから。どうしたの?」
セイはその言葉に目に涙が浮かぶのを抑え切れなかった。
もうセイは抑え切れなかったのだ。
ずっと隠していたのに。頼ってはいけないのに。
だけど助けて欲しかった。
セイも救って欲しかった、頼りたかった。
セイはサイリールにしがみついて涙をボロボロと零した。
そんなセイを優しく抱きとめて頭を撫でた。
「にーちゃん……たすけて……たすけて……」
セイはその言葉しか出てこなかった。
弟達を守るため、自分の心を押し殺し、ただただがむしゃらに頑張った。
それでも自分の手ではもう限界だった。
緩やかな死はもう見えている、だから助けて欲しかった。
ずっと押し殺し続けていた感情が、サイリールに優しくされた事で爆発してしまったのだ。
その気持ちはサイリールが闇で読み取らなくても押し寄せるように伝わってきていた。
そんなセイの押し寄せる感情にサイリールは決意をした。
ここまで関わったのだ、最後まで関わろう。
この子達を守ろう。
お読み頂きありがとうございます。
もし宜しければ励みになりますので、評価・ブクマを宜しくお願いします。




