第十話 出会い
しばらく森を歩いていると、前方にひらけた場所が見えてきた。
それを見た彼女は少しはずんだ声を出した。
「やっと森から出られるわ」
ひらけた場所にでると少し先に道のようなものがあった。
彼は町がどっちかわからないので彼女に尋ねた。
「ねぇ、まちはどっち?」
周りをキョロキョロとしていた彼女だったが、しばらくして右側を指した。
「あっちよ、エドンの町は。多分歩いて3時間くらいかしら」
「わかった。いこうか」
途中休憩を挟みながらも町の近くまでやってきた。
道中彼女は彼の気を引きたくて最初は色々と話しかけていたが、あまり彼の話しは要領を得ず、途中からは歩き疲れて会話も途絶えていた。
そんな無言で歩いていた中でやっと町が見えたので彼女は幾ばくか元気を取り戻し、そういえば彼の名前を聞いていないなと気づいた。
「やっとついたわね。そういえば……あなた名前は?」
「なまえ……。なまえはないよ」
「ない……?名乗れないって事かしら……」
彼の言葉の意味には気づかず、彼女は名乗りたくないのだろうと自分なりに解釈してそれ以上聞くのをやめた。
もうすぐ町の入り口という所で彼は足を止める。
「じゃあ、ここまででいいかな?ぼくはもどらないと」
彼の言葉に彼女は焦った。まだ離れたくなかったのだ。
「えっ……あの……そう!お礼!お礼がしたいからぜひ伯父の家まで来てくれないかしら……?」
「おれい?いらないよ。じゃあね」
「あっ……」
彼はくるりと背を向けるとあっさりと元来た道を歩いていく。
彼女は彼を引きとめようと手を伸ばしたが、届かなかった。
スタスタと歩き去っていく彼を見つめ、ズキンと胸が痛む。
彼女は彼の姿が見えなくなるまでずっと見つめていた。
彼女と別れて元来た道を歩いていると先ほどはいなかったモノが岩陰にいた。ソレは岩陰でプルプルと震えているようだった。
記憶を探ってみると、それは闇の住人と人間に呼ばれているモノのひとつのようだった。
彼は初めて自分と同じモノに出会ったので会話をしてみようと思った。
「やぁ。きみはここでなにをしているの?」
「ひゃっ!やめて!おねがい!殺さないで!」
声をかけたソレはひどく怯えていた。
針金のような細い手足を黒くて丸い体にくっつけて震えている。
「?ぼくはきみをころしたりしないよ?なにをそんなにおびえているの?」
彼の言葉を聞いたソレはビクビクとしながら伏せていた体を持ち上げた。
黒い丸い体の真ん中に、大きなひとつ目と、大きな口があった。針金のような手足以外は黒い毛で覆われている。
全長で30cmくらいだろうか?
「本当かい……?ボクを殺したりしない?また見世物にしない?」
「うん、ころさないよ。みせものってなに?」
「君は人間だろう?見世物を知らないのかい?」
「ぼくはにんげんじゃないよ。たぶん……やみのじゅうにんってやつかな?」
彼の言葉を聞いて、ソレはひどく驚いた。大きな目をさらに大きくして彼を見つめている。
「本当に闇の住人なのかい?どこからどう見ても人間にしか見えないのに」
「さいしょにからだをつくったときに、にんげんをまねたからね」
「へぇ、すごいんだなぁ。ボクには出来ない事だー」
ソレは彼を見つめてウンウンと関心しきりだった。
「ねぇ、それできみはここでなにをしていたの?」
「ああ……。ボク人間に捕まって、見世物にされていたんだ……。もう5年くらいになるかな……。人間が慣れて気が抜けていたんだと思う、檻の鍵が開いてて、逃げ出してきたんだ」
「そうなのか。でもなんでふるえていたの?」
「ボクこの大きさだろ?それなりに足は速いんだけど、人間と大きさが違うから、逃げたのを見つかって追いかけられたんだ。でも、あちこち必死に走ってなんとかここに隠れていたんだ」
「それでふるえていたのか」
「うん……」
体ごと下を向いて俯いてしまったソレに彼は提案をしてみた。
「ねぇ、ぼくといっしょにこない?いくところもないんだろう?」
彼の言葉を聞いて、ソレはばっと顔をあげて大きく目を見開いて彼を見た。
「いいのかい!?ボク……こんなだから戦いとか出来ないよ?それでも……ボクを連れて行ってくれるの?」
「かまわないよ。そのかわりというわけでもないんだけど、ぼくはまだうまれたてにちかいんだ。にんげんや、やみのじゅうにんとか、おしえてほしい」
ソレは大きな口を嬉しそうにゆがめ、彼の言葉に頷いた。
「もちろんさ!こう見えてもボクはこれで50年生きてるからね!戦闘以外ならなんだって教えられると思うよ!」
そうして、彼はソレを抱え上げ自らの肩に乗せた。
「ボクの名前はアソート!君は?」
ソレ、アソートから名前を尋ねられ、そういえば彼女にも聞かれたな、と思い、名前を考えてみた。
その時まず最初に頭に浮かんだのはファニーの事だった。
そして母親の言っていた、ベイトリール地方のサイドス家の事。
「リール……、うん。ぼくのなまえはサイリール。よろしくねアソート」
そうして二人は道を歩き始めた。
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