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新事実発覚

魔物の名前をレヴェに変更致しました。

 おやぁ? スキル『鼓舞』の効果だろうか? コアさんがノリノリだ。


『地面の接触までカウントスタート……3……2……1……早く避けて下さい!』


「無茶言わないで!」


 体操選手じゃないんだから華麗に回転着地を決めてハイッ! なんて出来ないって!


ガンッと硬質な感触を足に受け、その衝撃で脱出用の横穴に飛び込む。

確かに怪我はしてないけど衝撃に内臓がシェイクされ、とても気分が悪い…


うげぇ! と嘔吐し穴の中を汚してしまい、それを見つめるスケさん。


「……すみません」


 やれやれと言った様子のスケさんは俺の横を通り過ぎ、そのボロボロの剣を構える。

 その先には次々に落ちて来た事で積み重なり、衝撃で更に弱った狼達。


 今スケさんは戦おうとしている!


 ならば俺は全力でそれを応援するだけだ。


「滑らかな流線型を描きながらもその美しい純白の穢れを知らぬボディは天使の輝き! 今の君ならドラゴンだって敵じゃない! 逝け逝けスケさん、振れ振れスケさん、ファイトー!」


 自分で何を言っているかわからない。当然スケさんすらも理解できないだろう。

 だがそれでいい。

 明確にどこがどうだと言うよりも、やる気がある時にそれをそっと後押しする声。そしてプレッシャーになり過ぎない適度な精神的負荷。

 ドラゴンは言いすぎだってーと思いながらもやれちゃうかも? と言う状態に持って行き、モチベーションを上げる事。それがベストコンディション!


 ギシッと骨を鳴らすその背には、炎が揺らめいていると錯覚するほどの気力が満ち満ちている。


 良い状態だ。


 ボロボロの剣は切れ味に期待する事は出来ないが袈裟に折れた刀身の一方は尖っており、刺突には十分効力を発揮する。


「ギャイン!」


 苦痛に歪む声が穴の中に木霊する。


 その声と、血を流し息絶える狼達から目を離す事は出来ない。これは俺達ダンジョン側と狼達との戦いの結末。

 これから俺達が歩む道。今、目を逸らしてしまえば次も次もと引きずる事になる。


 落下によって弱っていた狼達は瞬時にスケさんに止めを差され、魔素へと変換するために土の中へと飲み込まれた。


「死体とか残らないんだ」


『必要でしたか?』


「いや、今は必要無かったけど自動的に吸収されるんじゃないの?」


『生命活動を終了した魔物は魔素が失われていきますので早急にダンジョンに取りこんだ方がWP回収効率は高くなります。ですが、残すことは可能です』


なるほど。と言う事は今回はコアさんが自分の判断で回収した事になるのか。


「……」


『……申し訳ありません、勝手を致しました。次回からは相談の上、行動に移すことに致します』


「いや、気にしなくても大丈夫だよ。俺の思いつかない考えがあったんだろうと思っているからね。でもごめん。俺には考え付かない事もあるかも知れないからよかったら今回得たWPの量とそれを使ってコアさんが何をしようとしていたか、そのプランを聞かせてもらえないかな?」


『畏まりました。今回得たWPはフォレストウルフ七体の回収でWPは630Pの回収になります。ダンジョン領域をマスター達が手ずから広げた分が二十メートル。400P使用し、それを含め全体で八十メートル分になるまで拡張し、100Pでもう一つ落とし穴を作成します』


「ふんふん…落とし穴で大丈夫かな?」


 何故そうした? と聞く事はしない。

 起点から終着点まで全ての説明を求める意味では有効だが、聞いてどうする?

 知っておくのが上に立つものの責務だと言うのならそいつは全知全能でも目指しているのだろう。

 必要なのは関連事項に於いてそれが回答として述べる必要がある場合だ。

 営業が自社の製品を熟知する為にメリットデメリットを知り尽くす技術者に情報を求めるような話だ。


 俺とコアさんは一心同体なのだから全てを求め、全てを知る必要はない。

 それに何で? と聞くのは少なくとも俺は威圧的に感じるし、冷静に考えても見て欲しい。

 そんな風に問われたらお前は考えないのか? ちょっとは自分で頭使えよ。と言いたくもなるだろう。


 だから相手の案を肯定しながらもそのギリギリの妥協点を探した結果、俺は確認を取ると言う手法を取り入れた。これが結構受けがいいんだ。


『罠作成後は深さ等の変更にWPを使用しますが、初期設定時なら100P固定となりますので大型の魔物が入れる物を作ろうと考えております。今回のフォレストウルフの討伐によりスケルトンは進化可能となっており、進化後の戦力を加味しても落とし穴は十分実用に足る物であると考えられます』


 なるほど。進化と言う不確定要素を盛り込むには説得力に欠ける部分はある。


 だが初期設定で大きさや深さを設定出来るのは大きい。


 作業道具も無い現在では穴を掘る行為と言うのは非常に労力を要するからだ。

 その時間をWPを使用する事で短縮し、俺を餌に新たなWPを稼ぐ方がいいのは明確。


 魔物作成でスケルトンを選んだのも人手と言う部分を狙ってだったので確かに今回は成功だったと言える。


 しかし、成功したからと言って何度も同じ手が通用すると思いこむのは危険な考えだ。

 こうすれば絶対成功する! 君たちはここがダメ! なんて偉そうに仰られる成功者の啓蒙書は何百何千何万の屍に築き上げられた山の上にたまたま立っただけ。当たるまで宝くじを買えばそりゃ誰だって成功者だ。


 状況、環境を含む資金力、外的要因、内的要因、物の流れなどその全てが同一条件下で無ければ比較する事などナンセンス。だが人は上を見てしまう。羨望が生む願望は洗脳に近い。


 それに追随しようとする心理は大変危険だ。


 コアさんがそんな浅い考えをしているとは思えないが俺も一緒に考え、その上で決めたほうがいいだろう。

 信頼しているからと言ってコアさんの案を手放しで採用するのはこの先自分自身にも良くない。


「罠ってのは良い案だね。良かったら他にどんな案があるか知りたいんだけど、リスト化できる?」


『表示します』


鼠取り      50P

落とし穴    100P

熊挟み     200P

槍衾(竹)   1500P

槍衾(銅)   3500P

槍衾(鉄)   7000P

回転刃(銅) 10000P

回転刃(鉄) 15000P

岩落とし  30000P

吊り天井  30000P

毒噴出(弱) 33000P

毒噴出(中) 40000P

毒噴出(強) 55000P

……


うん! 無理だ。ムリムリ!


「落とし穴だね!」


『はい!』


 ごめん、コアさん。きっといっぱい考えて、悩んでくれた結果だったんだよね。

 その苦悩に思いを馳せ、申し訳ない気持ちになってしまった。


 いけない。このままでは落ち込んでしまうだけだ。

 スケさんが進化できると言う喜ばしい報告もあるが、本人の意思確認も必要だ。


 アウトプット出来ないからと言って確認しないのは驕りだ。

 俺はちゃんと社員の要望を叶えていきたい。

 喋れるようになればグッドだけどね?


「スケさん、進化する?」


「……」


『私が通訳します。……進化はまだいい? え?』


「ん? まだいいの? 何で? と言うかコアさんはスケさんの言ってる事わかるの?」


「……」


『名付けが終わってからがいい、と……なるほど。ちなみに私はわかります。たまにマスターにもやってますが思念をリーディングしてますので』


「あ、やっぱりやってたのね。で、名付けが終わってからがいい理由って?」


『名付けをすると魔物はネームドと呼ばれ、強化されるのです。ですからWPが発生しています。そしてネームドは特殊な進化をする可能性が増えますので、より強くなれるからでしょう。ちなみに、彼女は女性のようです』


「早く言ってよ! じゃあ何? 最初にポリポリ頭を掻いてたのは女なのに男っぽい名前で呼ばれてたせいで呆れてただけ?!」


「……」


『そのようです。スケルトンでスケ? もっとちゃんとしたのを考えろ。だそうです』


「それ絶対スケさんの言葉奪ってコアさんが脚色してるよね?!」


『……』


「おいおーい! それよりスケさん。いや、えっと……えっと……」


思わず正座し、姿勢を正す。


 困った事になった……!

 男かと思って逞しいな! と声を掛けたら実はちょっとゴリラ顔の女性で、よく見たら愛嬌あるよね! なんて誤魔化したときのような気まずさだ。


 ほら、スケさん……いいえ、スケルトンちゃんが腕を組んでこっちをじっと見てるよ。


 早く候補あげろや、と候補のカツアゲを受けている。


 男であれば燻し銀のような渋味溢れる名前が良い。だが相手は女性だ。

 押し潰す様な無言の圧力を全身に受け、嫌な汗が滴り落ちる。


 必死に頭を働かせ、ふと口を突いて出た。


「レヴェ……レヴェってのはどうかな……?」


「……」


 俺は恐る恐るスケさん改めレヴェちゃんを見上げた。

 彼女は組んでいた腕を崩し、片手を顎に当てて考え込んでいるような姿勢をしている。


 漂う緊張感にゴクリと喉が鳴ったとき、彼女は大きく頷いた。


「いいって事?」


「……」


『……そのようです』


 いいと思ったんだけどな、スケさん。

 かなり残念だが押し付けるのは良くない。彼女がレヴェでオーケーと言ったのだ。危機は去った!

 WPが溜まったらすぐにでも彼女をレヴェと命名しよう!

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