新社長です、世露死苦!
必死に頭を働かせて考えた。考えたがどうしろと言うのだ。
たった十メートル分のダンジョン。呼び出した魔物は現状外へ移動できない。
おさらいしよう。森の中に落とし穴が開いているだけの空間十メートル分は俺の立派な? ダンジョンだ。
この領域内で生物を倒すとワールドポイントと言うものが溜められる。これは世界を構築する魔素や魔力と言うものが世界に帰属した場合の名称だ。
これを得るためには魔力や魔素を消費させればいい。つまりダンジョン内でスキルや魔法を使うだけで倒さなくてもWPを得る事が出来る。
正直俺は人間を殺したいとは思っていないがそれによって俺の大事な社員が倒されてしまうならヤるしかない。
ビジネスってのは仕事の奪い合い。
そ知らぬ顔をしてきたが俺が仕事を貰った事で貰えなかった会社は倒産し、首を吊った人だっているかも知れない。流石にそこまで面倒見切れないし、責任も取れないが、これが俺の経営するダンジョン運営ならば已む無しだ。
「やってやらぁ…コアさん。俺は外に移動できるんだよね?」
『近場であれば可能です』
「距離にしてどれくらい?」
『現状の領域に対しての算出になりますので十メートル一キロだとお考えください」
微妙だ……切りはいいがもっとサービスしてくれと言いたくなる。
「じゃあスケルトンを一体ともう十メートル追加でお願いできるかな?」
『承認致しました。同時進行で展開します』
ゾゾゾと土が独りでに動き、穴を広げた。やっぱり浅い。落ちても怪我すらしないような深さしかない。
そしてその穴の中に光の粒子が集まり形を作っていく。
名称:未設定
種族:スケルトン
ランク:E
進化:0/5
それは真っ白に漂白されたシャレコウベ。
何故か手には木製の鍋蓋を持ち、半ばからぽっきりと折れたボロボロの剣……のような物を握っていた。
どこかに大切なものを置き忘れてきたような哀愁漂う中年サラリーマンのようなその姿に俺は涙を禁じえない。
「いつか、いつか君を最高に格好良いシャレコウベにしてやるからな……!」
スケルトンさんはカコンと顎の骨を外し、慌てた様子で元に戻している。
どこか昭和臭漂うコメディチックなその動きは殺伐としていた心を和ませるには十分であった。
「よーし、今日からスケルトンのスケさんだ。やっておしまいなさい! ってな? どうだ。、いいんじゃないか?」
『マスター。名付けにはポイントが消費されますが現存ポイントは0です』
「世知辛い世の中だな。自由に名前も付けれないとは……名前をつけるのはいくら?」
『ランクEの魔物で200Pです。進化した場合は進化した魔物の種族を作り出せるようになりますが、進化後のランク設定のポイントが必要になります』
「たけーよ! しかもそこもサービスなしか!こ れは改善提案物だな! メモしておこう」
『……? 現状名付けは不可ですのでご了承下さい』
「ありがとう。そしてすまんスケさん。名前はもうちょっと待って欲しい。給料は払うからね」
追い込まれたとき、大切な従業員の糧から削る会社にするわけには行かない。
俺の身を削ってでも何とかせねば…
「念の為に聞いておきたいんだけど、領域ってポイントでしか広げられない?」
『ダンジョン帰属している生物が私かマスターの認可を得て行った場合は可能です。ポイント消費もありません』
おいおいおい! そういう大事な事は最初に言ってもらわないとオジさん困っちゃうよ~
「スケさん、すまない。俺と一緒に穴掘りしようぜ!」
戦う為に呼び出されたと思ったら穴掘りをさせられる。本当に苦労をかけて申し訳ない!
だが、貴方だけに働かせはしない。共に汗を流し喜びを分かち合おう!
「スケさんはその剣で、俺は盾を貸してもらえないかな?」
スケさんはおずおずと盾を腕から外すと差し出してきた。
いけない。これでは社員からカツアゲを行う悪い上司になってしまう。
「すまん! やっぱり盾はいい。それはスケさんの体を護る大事な武具だ。俺が間違っていた! 森の地面は柔らかいからな。手でいけちゃうよ、ほーれほーれ!」
一度口に言葉の後になんと言って取り繕っても借りると言う結果が同じであれば言い訳は見苦しいだけだ。
ならばきっぱりと断り、謝罪をして無くても問題が無いと言うアピールをする事で心のケアを入れろ!
実際森の土は柔らかく、掘る事に支障は無い。爪の間に土が入って多少出血しようがやらねばならんのだ。
それからしばらく無心で土を掘り続ける事数時間は経っただろうか。
明るかった森は既に暗くなり、今は垂直に掘った落とし穴を斜めに掘り進んで出口を作っている。
「これ……が! はぁはぁ……終われば! 魔物をこの中に落として! はぁはぁ……! WP稼ぐぞ! ひぃー」
こうして土と汗に塗れた異世界一日目は終わりを迎えた。
次は十九日中に二話投稿致します。
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それではまた次回。