もうちょっと、あるじゃん?
どうやら俺は空の上の神の空間にいたようで、落とされた最中世界を見ることが出来た。
二十五階なんて目じゃない程の絶景。三百六十度パノラマビューにちょっとした感動すら覚えた。
「でも、このまま落ちれば死ぬんじゃないかな」
それも当然。
俺は最弱一般人クラスのダンジョンマスターだ。
地面に激突すれば漏れなく内臓をぶちまけ人間の形をした何かからただの肉塊へと変化を遂げるはずだ。
「いやあああああ! 女神しゃああまあああああ!」
女性のような悲鳴を上げるが思い浮かぶのは泣き叫ぶ俺の顔を見て爆笑する女神の姿だけ。
こうなったら俺に出来る悪足掻きは空中を必死に泳ぎ、着ているワイシャツをパラシュート代わりにし、視界に映る森の中に落ちて草木を緩衝剤にするしかない。下手をしなくても串刺しになる可能性は高いし、そもそも重力加速度を加味すれば無事で済む訳が無い。
「女神は俺を何の為に呼んだのだろうか。一瞬にして目論見は破綻してますが……」
理論を立て、検証を重ね、人は重力を振りきったが、身一つで重力に逆らう事は出来ないようにこれは不可逆の摂理。時には諦めも肝心だ。どんなに抵抗しても抗えないことはある。
来る衝撃に備えて両腕をクロスさせた状態で両肩を掴む。
空気を切り裂く鋭い音を鳴らし……一筋の弾丸と成りて大地を穿つ。
足の骨が砕け、内臓を損傷し、肉塊になるのだと思ったが俺はそのまま大地に突き刺さっていた。
「物理現象振り切ってるんですが…て言うかちょっと、抜けない!ふんっ!…はぁはぁ…」
下半身は森の地にずっぽりと埋まり、抜けることがない。
ひょっとしてこのまま……? 嘘だろ? 笑えないんですけど……
「いや、まだだ! 大地に足を着くどころか埋まっているんだ。今なら色々な事が出来るはずだ。貰った知識を生かせ!」
腕を組んでいたので手はフリーになっている。最悪地面を掘って抜け出すことも可能だ。
だが俺に依頼されたのはダンジョンを作って世界を循環させること。
「そうだ、ダンジョン作成!」
ダンジョンマスターの固有技能にダンジョン作成と言うものがある。これはステータス表記に乗らない種族特性のようなものだ。
例えば狼の獣人なら狂化と言うスキルがあり、これは特定の条件下で発動するように、人の才能と種族によって様々なものが存在している。
ダンジョン作成の開始と共にダンジョンの核と成る物質が生成された。
菱形をしたそれは澄んだ空のように青く、薄っすらと発光しながら俺の周囲を回転し始めた。恐らく地形データを読み込んでいるのだろう。
この核はダンジョンコアと呼ばれ、これが破壊されると俺も死ぬ事になるので死守しなければならない。
コアは事務的だがマスターの補佐もしてくれるそうなので、共同経営者という事だ。
上手くやって生きたいのだが、このように目立つナリをしていて更に剥き出しとか、ホント勘弁してください。
『ダンジョンの作成を開始しますか?』
「します、します! すぐしてちょーだい!」
『WPを消費して領域作成を開始します。現存WPは300Pです。範囲を指定してください』
「どこまで広げられるの?」
『十メートル100Pです』
「わかりにくいなぁ!?」
『……』
「あーはいはい、ごめんなさいよ。それで……俺の脚は抜ける?」
『可能です』
「じゃあそれでお願いします」
『地形改変を開始します』
ベコッと地面がへこみ、生き物のようにうねる。
そして出来たのは落とし穴のような空間。しかも浅い。
「これでどうしろと?」
『……』
「自分で考えろって事ね、はいはい。わかりましたよ」
若干不貞腐れ気味だがやるしかない。
「確か魔物だとかモンスターだとかって言うのを呼び出せるんだよね?」
『可能です。残存WPは200Pです。消費で呼び出せる生物一覧を生成します』
「ありがとうね、コアさん」
『……いえ』
ちょっと照れてる? 人格がないわけじゃないんだな。ちゃんと一人として扱うべきか。
コアさんが出してくれたリストは膨大だった。ありがたいのはまたしても頭に直接叩き込んで来なかった事だ。流石に共同経営者は理解していらっしゃる。ありがとうよ!
「どれどれ?」
出されたリストをスライドさせていく。
スライム:ランクF 30P
ゴブリン:ランクE 50P
ウルフ :ランクE 70P
オーク :ランクD 70P
……
スケルトン:ランクD 100P
オーガ :ランクC 2000P
ワイバーン:ランクB 170000P
……
天の尖兵 :ランクA 500000000P
ドラゴン :ランクS 1000000000P
あームリムリもう途中から訳わかんなくなってるよ。ランクCとDの差が激しすぎだろ! Sとか1兆って。
誰が作れるんだよ。もっと考えてよね女神様よぉ……
でも、天の尖兵ってのには少し興味があります。
いかん、もっと現実を見ろ。
「弱いので数を揃えるか……それとも強いのを呼ぶか……」
その前に確認しておかねばならないだろう。
「コアさん。呼び出した魔物はこの一畳間から出られる……よね?」
『出れません』
「はぁ?!」
無理だ、無理無理! こんなのどうやってWP稼げばいいんだよ!