チート?ねぇよ、んなもん
「まず、口で説明するのは手間なので頭に直接知識詰め込んじゃいますね。えい! ……あれ? 上手く入らない……このっ! ふんっ! ……はぁはぁ……それえええええい!」
「あんぎゃああああああああ!」
突然の激痛に頭を抱えて地面をのたうち回る。
頭の中に様々な情報が一気に流れ込み、背中を指された時以上の痛みに何度も意識を失い掛けては無理矢理叩き起こされた。
何も悪い事してないのにこれは天罰なのではなかろうか。酷い、もっと優しくしてくれてもいいじゃないか!
「そーれ! そーれ! 頑張れ頑張れ!」
チアリーディングのように手をバタつかせ、足を上げて応援している女神が視界の端に映るのだがそれどころではない。むしろその姿に殺意すら覚える。俺をここまで怒らせるとはこの女神、プロだな。
「なんのプロですか、なんの」
「俺は怒らないことで有名なんです」
「ほぅ、それで?」
「なんでもないです……」
この女神からは英子さんのような気配を感じる。世界を窮地に落としいれたポンコツのようだが、人を操る事に関しては百戦錬磨の猛者。流石は神。いいように踊らされてしまったようだ。
「それで、大体の事は理解しましたが何のスキルを貰えるのですか?」
「ジャーン! 鑑定! 相手のバスト、ウエスト、ヒップから初恋の相手までを……」
おいおい、まさかまさか? とんでもないチート能力ですよ、そりゃ!
ごくり……
「までを……?」
「鑑定する事は出来ませんが、簡単な情報を得る事が出来るスキルです!」
「見れねーのかよっ! チクショウ! 何でだ! なんで見れないんだ!」
「見たかったんですか?」
「あ、はい」
「最低です」
「冗談だって気づいてください」
「それはそうとして宗次さんには既にいくつかのスキルがありました。現代で成功したのはそれのおかげかも知れませんね。まずはこの鑑定を使ってご自分を確認されては?いい練習になりますし」
先程スキルや魔法、ダンジョン、生物に関しての基礎知識を叩き込まれた時にひょっとしてとは思ったがやっぱりそうか、という気分だ。
「そうですね。ではお言葉に甘えて、鑑定」
名称:細源 宗次
種族:ダンジョンマスター(仮)
ランク:E(雑魚)
スキル
鑑定Lv1
飢餓耐性Lv2
睡眠耐性Lv3
ユニーク
鼓舞
才能開花
……
「ほぼ一般人じゃねーかっ! ランクE! 雑魚! やっかましいわ!」
「ぷっ! くくっ! あーっはっはっは!」
「何笑ってんだ!」
「ひぃーひぃー! いやぁ~笑わせてくれますねぇ。想像以上に面白いお方でよかったです」
「いや、世界困ってんでしょ? 面白さとかいらなくない?」
「いいえ、大事な要素です。他の世界からダンジョンマスターを選んだのは今回が初の試みですが、今までのように世界内で力を手に入れてマスターになった人達の様に力で何でも解決しようとされては失敗されますからね」
「ふぅーん。その心は?」
「私が楽しい!」
「滅んでしまえ」
チクショウな女神に何故鑑定がLv1なのかと聞くと、もう強化できる力が無くて1しか渡せなかったらしい。そんな状況で楽しむなよ! 経営立て直せやコラァ!
俺は女神様が次ぎの特典を早く教えてくれないかと待っていたが、一向にその気配がない。
おいおい…まさか、まさか?
「え? マジ?」
「マジです」
「鑑定、だけ?」
「困っているから呼んでいるのにそんなにホイホイ能力を上げられるわけないじゃないですか。貴方を選んだのだってユニークスキルを持っていたからですよ?物は使いよう。大丈夫、宗次さんなら出来る!」
なんて事だ……
根拠の無い励まし。理由の無い応援。
なんて勘に障る!
「契約取り消しは?白紙撤回を要求します」
「種族を見られましたよね? もう既にダンジョンマスターになってますので無理です」
「いや、仮って…」
「馴染むまでの時間稼ぎです」
「う、嘘だろ?」
「本当です」
「嫌だああああ! やめろおおおおお!」
「期待してます! 宗次さんは女神である私が見込んだ人なのですから、大丈夫! 頑張ってくれたらいい事ありますよ! それでは!」
いってらっしゃ~いと言われると空間の底が抜け、俺は重力に引っ張られて外界へと無理矢理叩き込まれた。
女神のあの清清しい笑顔を、俺は忘れたい。