貴様は、神!
「あれ……ここどこ?」
てっきり死んだものかと思っていたが真っ黒な空間に横たわっていた。
刺された痛みはなくなっており、背中を確認するが傷痕は見受けられない。
身を起こして辺りを見回すが周囲は写真でみた宇宙空間のように薄暗い。
ぼんやりと自分の身に起きている事を整理していると琴を鳴らしたような澄んだ声が響き、暗かった世界が色付いた。
「目が覚めましたか」
美の体現者と言われても、なるほど。と納得しそうになるほどの美しい女性が立っている場所から黒の空間は晴れ、地面に花が咲いていく。
「ここは天国ですね、そして貴女は女神様だ。やっぱり神は居たんですね。」
「え?えっと、はぁ。まぁそうですね。私は女神ですが、一つだけ訂正をしますとここは天国ではありませんよ」
「なんだって?!俺何か悪い事してました?ひょっとしてこれから裁きに掛けられて天罰を落とされるとか?!」
「落ち着いてください、貴方は特に何もしていません。むしろ多くの人を支えてきた人だと言えるでしょう」
よかった。てっきり、あなた、競争相手を蹴落として多くの人を破滅に導いたので地獄行きすら生ぬるいです。とか言われたらどうしようかと……
「随分と失礼な事をお考えなようですが、そのような事はしません。そもそも、そんな事をしていたら大概の人間は地獄行きです」
「はは……そうですよね……すみませんでした!」
俺はプロ顔負けの土下座を披露し、女神様への侮辱に対し許しを乞う。
「えっと、細源宗次さん。貴方をここに連れてきたのはお願いをしたいからです」
「お願いですか? 命令ではなく?」
「はい、お願いです」
お願いかぁ……そういうの、好きだよ?上目使いで頼まれたらどんな相手の願いだって聞きたくなっちゃうものでしょ?命令されるよか何倍も良い。
「聞かせてください。私に出来る事なんてあまりないと思いますが」
「実は……貴方には私の管理するもう一つの世界でダンジョンを経営をして欲しいのです」
「はい?」
思わぬ商売話にずっこけそうになってしまった。
「すみません。順をおって説明するとですね……」
女神様曰く、地球とは違い世界『ラシード』と呼んでいるらしいが文化の発達が全く違い、科学ではなく魔法やスキルと呼ばれるものが発達している世界だと言う。
ステータスと言うものも存在しており、魔物が闊歩する世界。
その世界を構築する物質を魔素と言うらしく、魔物は魔素の塊であり、人間が魔物を狩ると魔素を魔力に変換して魂を強化する。
そして魔物も人間を狩り、魔力を魔素へと変換して進化する事で多くの魔素を溜め込み、人間と魔物は魔素と魔力を取り合い、そして溜め込んだ魔素や魔力をダンジョンと言う場所で吸収させることで世界を循環させているらしい。
しかしここしばらく大したダンジョンが作られておらず、人間にカモられてしまい魔素を大量に消費して作った高性能武具や魔道具と呼ばれる神の一品を奪われたままで、魔素が足りなくなってきているとかなんとか。
「それって自業自得なのでは?」
「天罰くだしますよ」
「横暴だ!」
「お願いしますよ! ねっねっ? 一つだけ神業ってのを見せてあげますからぁ!」
美味しい話には毒も棘もある。神の御業はとても見てみたいが…
この話を受けたとして俺に出来るとは到底思えない。
申し訳ないが断ろう。
「すみませんが……」
「英子さん」
「っ!」
「社員さんも含めて幸せポイント分けれちゃうんだけどなぁ~」
「ぐぬぬ……!」
「今ならスキルだって付けちゃうのになぁ~」
「うぅぅ……」
「次は無いかもなぁ~」
「どちくしょう! わかりましたよ。受けます受けます、受けりゃあいいんでしょ? あーせっこいわー女神様ともあろうお方が、人質なんて、せっこいわー」
「天罰」
「あぎゃああああ!」
本当の事を言われて雷を落とす、そんな暴力を許していいのだろうか。いいや、良くない。
「今のも、サービスですか?」
「サービスですっ」
ナマ言ってんじゃねぇぞ! 絶対嘘だ!
そんなサービス求めてない! クライアントが求めていないサービスはサービスではない! 押し売り反対!
「で、皆に幸せポイントとやらを振ってくれるそうですが、そうするとどうなるんで?」
「よくぞ聞いてくれました。順風満帆、家内安全、火の用心。子宝にも恵まれ、幸せな一生が送れます」
「英子さんも?」
「もちろん。ここにお呼びする際に起きた事を見させてもらいましたが、いやぁ……ロマンチック溢れてましたねっ!」
「やめてぇっ」
一世一代の男気を見せて死ぬなんて恥ずかしい。
もう二度と英子さんの笑顔が見れないと思うと…いや、殆ど見た事ないんだけどだからこそ価値があるわけで……
「そういう事ですので、他の方の心配はしなくても大丈夫です」
「あの、英子さんはあの後?」
「貴方の死亡報告からしばらくは放心してましたが、無事犯人を務所にぶち込み、今は貴方の意志を次ぐべく仕事一筋みたいですよ?」
「望んでないんだけどなぁ。いい男見つけて、彼女の幸せを見つけて欲しいよ…」
「大丈夫です。貴方の幸せポイントは既に分けられましたから」
「はい?」
「無から有は作れません。貴方の今後のポイントを使わせてもらいました」
「詐欺だ!」
「いいえ、内容を確認しなかった貴方の責任です」
「ぐぅぅ……!」
なんて卑怯な女神なのだろうか。明言もされていなければ書類すらない。にも関わらず手遅れだと? ビジネスってのはな、ちゃんとした契約書類に判子を押して初めて契約完了なんだよ! 口頭確認だけで契約履行なんてのは詐欺師の手法だ!
だが相手は神、歯向かうだけ無駄だ。決して天罰を恐れての事じゃない。いいね?
「賢い選択です」
「……」
「怒っちゃいました? スキルはちゃんとプレゼントするので……ねっ? 許して?」
「ヤだ……」
「子供ですか」
「どっちがですか!」
いい大人と神が互いを口汚く罵り合う姿を見たら信者はどう思うのだろうか。
「それでも私を信奉するでしょう。信仰はその程度では揺るぎません」
「あーはいはい」
「じゃあ話を進めますよ」
「切り替えはっや!」