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『テストプレイヤー募集の結果は後日メールにてお知らせいたします。』
明の手元のAR表示されたブラウザ画面と晶の旧世代型の情報端末スマートフォンにはそう表示されていた。
「うーん、さすがにその場ですぐわかる訳じゃないのかな。」
「そうかも、私も他に応募した人が何か呟いてないかSNSとか調べてみる。」
2人とも既に切り替えて情報収集に移っていた。そこに水を差す声が1つ。
「あの、お客様。ご注文のパンケーキとお飲み物のセットをお持ちしてからずっとここで待っているのですが?」
「「あ……本当にごめんなさーい⁉︎」」
注文の品を届けに来たのにテーブルの上も空けずに人の話も聞かない2人に怒り心頭の店員によって2人は現実に引き戻されたのだった。
翌日学校ではVRの話題で持ちきりだった。
それもその筈でARとVRはほんの数年前まで開発競争を繰り広げていたのだ。そんなVRの技術を用いたゲームの開発が突然発表されたのだから誰だって気になってしまうだろう。
特にこの学園ではVRが淘汰されるまでの歴史もカリキュラムに組み込まれており全ての生徒が入学してすぐに学んでいる。そして、VRには淘汰される原因となった致命的な欠陥があった。
それはVRが人間の認識している空間そのものを塗り替える技術であった故に生まれた欠陥であるといえる。
ARは人が起きている状態で五感に対してそこに物体が存在しているという情報を与えてそこに物体が存在していると錯覚を起こさせる技術である。
そしてVRは人を睡眠状態にさせてから五感にVR空間の情報を与えてその空間に入り込んだかのような錯覚を起こさせる。この状態では生身の身体の五感はVR空間でのアバターの五感の再現のために脳と切り離されているため、生身の身体に何をされても気づくことができない。それだけでなく実験中にVR空間に閉じ込められて外部からの操作なしには現実に戻ってこれなくなる事故が起こった。もちろんAR技術に関する事故が全くなかったわけではないが、VR事故と比べて危険性は低いとされた。
そのため悪用された場合の危険性が高かったため、VRはARとの競争に敗れ禁忌のような扱いを受けていたのだ。
そんなVR技術を使ったゲーム、しかも今まで競争相手同士だった大手ゲーム会社同士が手を組んで開発しているとなれば誰もが興味を持って当然ともいえる。
それから数日後、
「ねえ、先着でテストプレイヤーに当選したって言ってる人で本当っぽいの見つかった?」
「全然ダメ、どいつもこいつもガセネタか釣りばっかで嫌になる。」
「情報規制とかされてるのかなー、当選者には既に通知が行ってて誰にも言わないように、みたいな。」
「でも、2千人いたら1人くらい誰かに話してそうだしやっぱり当選者が発表されるまでわからないって可能性のほうが高いんじゃないかな。」
「そうだよね、そうだといいなぁ。」
晶も明も連日テストプレイヤーの情報を調べていたが当選したという情報は全く見つからず、焦りをつのらせていた。
そんなある日⋯⋯
「ただいま」
「おかえり、お父さん!久しぶりだね」
ARエンジニアで残業が多い父が久しぶりに家族が起きている時間に帰宅した。