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カチャカチャ⋯⋯カチャカチャ⋯⋯
「はーい、没収ー。」
「あー、なにするの⁉︎いまいいとこだったのにー。」
「晶はゲームやってたら人の話聞かないでしょ?もう何回も声かけたのに気づかないんだから。」
「昼休みだしいいじゃない、私が何してようが私の勝手でしょ?」
「体育の補習で呼び出されてたでしょ?放課後は嫌だから昼休みに行くって言ったのあんたからだったじゃない。」
「そういえばそうだったかも、ありがとう明。お礼は今度するからー。」
そう言って駆けていく晶と呼ばれた少女、机の上には置きっ放しのイヤリングタイプのARギア。
「もう、ギア忘れてったら補習にならないじゃない。」
その後を明と呼ばれた少女は追いかけていく、この光景は既にクラスの日常の一部となっており他の生徒は気にすることなく昼休みを満喫していた。
ここはAR技術の研究の為に建てられた学園、国立AR学園第1高校。
全ての授業で使用するテキストや校内の案内表示や掲示板等を全てARに置き換えた時代の最先端を行く学園というのが触れ込みで全国に第3高校まで設立されている。
最も、世界は触れることができるARオブジェクトの開発によって広がったAR化の波に乗せられてどこもかしこもARオブジェクトの看板ばかり。
カラフルな都心の街並みもARギアをオフにすれば味気ない街並みがならんでいる。
ベンチに座る子供たちの手元にはARコントローラが握られ、本人以外には見えないよう設定されたARスクリーンに表示されたキャラクターを操作し対戦している。
公園では十数人の人間がARゲームのボス相手にARオブジェクトの武器を構えて奮戦している。
放課後、2人がいるのは人気のパンケーキのお店、明がARオブジェクトのタッチパッドを操作して2人分注文している。
「ほんと、不便な体質よね。いっつも私が介護してあげないといけないんだから」
「介護って言うほどじゃないでしょ⁉︎ARのタッチパッドに触れられないんだからしょうがないじゃない⋯⋯そりゃいつもお世話になってるけど⋯⋯」
「今日はそのお礼にパンケーキは奢ってもらうからね」
「はいはい、いつもありがとうございますー」
晶と明、2人が出会ったのは高校に入ってからだ。
偶然席が隣同士になり、ホームルームが終わって休み時間になるやカバンからレトロな携帯ゲーム機を取り出し遊びだした晶にゲーム好きであった明が声をかけたのが始まりだった。
その後はお互いに意気投合しレトロゲームから最新のARゲームまでいろいろなゲームの情報を交換しあう仲になった。
ゲームの話題で気をひこうと声をかけてきた男子は割と多かったが軽い気持ちでナンパしようと声をかけては話の濃さに入り込めず玉砕し今では男女共に2人に絡もうとする生徒は少なくなっていき、そのせいで余計に2人は急速に仲を深めたのだった。
「そういえば、さっき公園でゲームやってる人たちいたでしょ?」
「いたね、それがどうかしたの?」
「晶さ、その人たちのこと見てたでしょ?」
「うん、ちょっとだけ⋯⋯羨ましいなー、なんて」
世界中に広がった触れることができるARオブジェクト、それに晶は触れることができない。正確には触れることはできるが触覚を感じることができない。そのせいで、体育のテストではARのボールを使ったボール投げだったがARのボールをうまく掴むことができずに補習を受けることになってしまった。それだけでなく、ファミレスやカフェのARパッドを使って注文するお店ではパッドにはさわれるが操作することができないため1人では注文することができない。当然、ARゲームでの戦闘などできるはずもない。
晶がそうなったのは触れることができるARオブジェクトの開発中の事故によるものだ。晶の父はAR技術の研究者でARオブジェクトに実体を持たせる技術の研究をしていた。そして、その研究所におつかいに来ていた晶は試作品のARギアを装着し事故に巻き込まれてしまい、ARオブジェクトを見ることはできても触覚の再現ができなくなってしまった。
重くなった空気を切り替えようと晶は話題を切り替えた。
「そういえば満天堂の新作だけど、どう思う?大手じゃなかったらただの話題づくりって流すとこだけど、サニー、マイクロハードまで満天堂に協力するって発表してたから割と本気っぽいんだよねー。」
「しかも、数年前に開発自体がほとんど止まってしまってたVRでしょ、私思わずカレンダー確認したもん」
「私さARのゲームは全然ダメだったけど、VRならもしかしたらってちょっと期待してるんだよね。ずっと明とゲームしたかったのに私ARだとまともにプレイできないからさ、レトロゲーに付き合って貰ってもやっぱりARのやってる時の方が楽しそうだからさ」
晶の表情が暗くなり明も図星を突かれたような困った顔をした。
「バレちゃってたか、私さARのゲームしかやったことなかったからレトロゲームにも興味はあったけど、プレイしてみたらなんか思ってたのと違ってて、イマイチ感覚がつかめなくてやっぱりARの方が性に合ってるなーって、だからさ私もVRでなら一緒にたのしめるかもって思ってた」
その言葉を聞いた晶の表情が途端に明るくなる
「だよね、明もVRに興味あるよね。私もさ、そう思っていろいろ調べておいたんだー。ほらこれ、テストプレイヤーの募集だって本当は今日の17時からテストプレイの発表と同時に募集開始だったらしいけど、リークがあったみたいでレトロゲーム界隈では割と大っきな話題になってたんだよね、しかも参加人数は1万人らしいけど最初の2千人までは先着順らしいって情報もあってさここの無線LANの回線結構早いし先着狙っちゃおうかなって思ってさ」
さっきのしおらしい雰囲気は何処へいったのか、途端にまくし立てるように話しだした晶に明は若干呆れたような顔をしつつも了承をしめした。
「あ、もう募集サイトはオープンしてたよ、後3分だって。もうサイトではカウントダウンが始まってるよ」
「はいはい、そんなに焦らないの」
「そう言う明もワクワクしてるんでしょ?顔、にやけてるよ?」
「晶だって、今日一日中どこかそわそわしてたじゃない」
そう言ってお互いににやけた顔を見てどちらからとなく笑いだす。
「それじゃ、もうすぐだね。明、遅れないでよ?」
「晶こそ、遅れて私だけテストプレイヤーに選ばれても知らないからね」
「「3…2……1……せーのっ!」」