第一章 再会
ある日、バイトを終えて家に帰る途中、駅の方から歩いてきている人に目がいった。よく見ると、なんと朋ちゃんではないか。でもどうしてこんな時間に駅の方から…。この時間はバスが少ないから歩いて帰っているんだろうけど…。それに、彼女の家には行ったことはなかったが、住所は知っていたし、まだまだ何キロか歩かなければならないことは確かだろう。
「朋ちゃ〜ん!久しぶり!」
僕はバイクを寄せながら言葉を投げかけた。
「あ〜っ!一君、久しぶり〜!バイクの免許取ったんだ。」
懐かしい声だ。よく考えてみたら、高校の時は話しかける機会なんてなかったから、まるっきり3年ぶりだ。
「家まで送ろうか。」
「えっ!いいの?」
「いいよ、俺、今日は大学休みだから。」
「お願い。もう駅から歩いてきたからもう疲れちゃって。」
僕は彼女を乗せて走り出した。彼女の腕の圧迫が気持ちよかった。変な意味ではなく・・・。
彼女の指示を受けながら、バイクを進めた。
「つ〜いた。」
彼女はピョコっとバイクから降りた。
「ありがとうね。S君。何かお礼したいけど…う〜ん、何がいい?」
お礼。僕に?そんなつもりじゃなかったし、お礼なんていらないのに。
「そうだ!今日、休みって言ったよね!?じゃあ、ご飯でも食べに行かない?」
僕は頷いた。ただ予想外の進展に驚き、声がでなかった。
「じゃあ11時に迎えに来て。」
「あ、ああ・・。OK。」
僕はいまだに事態の進展についていけていなかった。これって、デートだよね…。そう考えたら急に胸が高鳴り始めた。
午前11時。僕はバイクに乗って彼女を待っていた。カチャッとドアが開く音がした。彼女は先ほどとは違うラフな格好で出てきた。
「お待たせ〜。さっ、いこ!」
バイクに乗って僕にしがみつく。僕は内心、少し狼狽しながらバイクを進めた。
「何が食べたい?あたしおごるよ〜」
信号で止まっていたとき、彼女が言ってきた。
「まさか。俺がおごるよ。」
「えぇ?それじゃあお礼にならないじゃん。」
「いいんだ。」
「…………。」
『まずい。会話が途切れる。なんとか話さないと………。』
「場所は、俺のおすすめのところでいい?良い店知ってんだけど。」
「うん……。任せる。」
『なんかさっきから元気無くないかな…。どうしたんだろ。なんかまずいことでも言ったかな。』
バックミラーで信号待ちの時にチラッと見てみた。ハーフヘルメットを被る、愛らしい顔が見える。でも、その顔を見たとき僕は言葉をなくした。
彼女は泣いていた……。静かに、声も立てずに。目を瞑っているので、僕に見られていることに気づいていない。
僕は見てはいけないものを見てしまった気がした。彼女の泣く顔を始めてみた。
いつも笑顔が絶えない彼女。屈託のない笑顔が僕は好きだったんだ。どんな事があっても笑顔を振りまいて乗り切ってきた彼女……。なんで、なんで………。なんで泣いてんだよ………。
僕たちは店に到着した。バイクを止めて、店に向かうときには彼女は泣きやんでいた……。
カランカラン
店に入って席につく。
「さぁ、何食べようかな〜。ねぇ、オススメはどれ?」
「そうだな……これなんかどうかな。見た目以上にいけるよ。僕はいつもこれ頼んでんだよ。」
「じゃあ、それと……あと、パフェ食べよっかな〜。」
「よーし。おばさーん。いつもの二つに、あとパフェ一つ〜!」
「いつもありがとうね。ありゃ?今日はコレ連れてんのかい?めずらしいこともあるもんだね〜ふふふ……。」
おばちゃんは小指をチラチラさせながらにやっと笑った。
「何言ってんだよおばちゃん!ちが……。」
僕が最後まで言い切る前に、彼女は言葉を遮った。
「結婚を前提におつきあいさせてもらってます!」
「えぇ!?なに言ってんの?!朋!」
「いいじゃん、別に。それとも、あたしじゃ不足?」
「別にそんなんじゃないけど………なんか今日の朋、変だよ。」
「そんなことないよぉ。」
「……………。」
やっぱりなんかあったんだな………。笑顔がどことなくぎこちない。
気まずい雰囲気が二人の間を支配する。まるで、写真の中にいるみたいに時間が止まったかのようだった。互いに目をあわさない。
『まずいよ・・・・。これ絶対やばいって・・・。』
僕は心中穏やかではなかった。第一、女の子と一緒に飯にくるなんて生まれてこのかた一度もなかったことだし。部活仲間の女子と一緒に来ることはあっても、二人きりでくることはまずなかった。
『どうすればいいの〜〜〜 (泣)』
そこで助け舟が来航。
「は〜い。おばちゃん特製の手作りハンバーグセットお待ち!」
「うわぁ〜。ほんとにおいしそう!!」
「だろ!?人はどうあれ、ここのハンバーグは天下一品なんだよ。」
「なんだい・・・その言い草は。まったく、今度からサービスしないからね。」
「ああああぁぁ!!ごめんおばちゃん!ほんとごめんって!!マジで今月経済的に厳しいから!!許して(泣)!!」
「えぇ〜〜?どうしようかなぁ〜〜?」
「何でもするから〜〜(泣)」
「じゃあ、最近忙しくて肩こってるからマッサージでもしてもらおうかしら・・・・」
「ほんと!!それで許して!!!」
僕の本気で必死な顔を見て、朋ちゃんの顔が緩み始めた。
「・・・・プッ・・・・。あははははっ。一君、おかしぃ〜。」
「え・・・・?」
「だって・・・・だって・・・本気で必死なんだもん。あははははっ。」
僕がおばちゃんのほうを振り返ると、おばちゃんはにこりと笑って、
『ケーキ。買ってきなさいよ。』
どうやら、僕達の様子に見かねたおばちゃんが一芝居うってくれたらしい・・・。ある意味助かったけれど・・・。
『ありがとうおばちゃん!!』
僕達は楽しいひと時を過ごした。彼女は前と変わらない笑顔で楽しそうで。本当に僕もうれしかった。
でも、僕にはさっきの朋ちゃんの涙が何を表しているのか、僕にはそのとき、まだわからなかったんだ。そう、そのときまでは・・・・・。