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サイハレ〜祭神高校、その歴史と現実〜  作者: 奈良ひさぎ
第2条:1年次科目『地域史』との関係上、『サイハレ』の所属部員は担当地域の熟知の義務を有する。

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第7話 地域史論

「......地域史っていうのは、毎年うちの高校の1年生がやる科目の1つで、まあ要はこの周辺地域のことをもっと知りましょう、って企画だな。3人とも電車通学?」

「そうです」

 代表して私が答えた。特に私と夏穂は電車を使わなければ通えない。


「じゃあ知ってるな。うちの高校もそうだけど、この辺りを走ってる祭神線も、もっと歴史があるんだ。実は天照より向こうは比較的最近祭神線とつながったところなんだけど、祭神から天照の間は日本の歴史とともにある......って言っても過言じゃない。そこで各駅ごとに分かれて、調査をしましょうってわけだ」

「調査して、レポート......ですか?」

「んー、まあレポートと呼べるものの提出で済むところもあれば、ガチで論文みたいなの書かされるところもあるみたいだけどな。それは引率の先生にもよるみたいだし。で、その引率のサポートを務めるのが、我らが『サイハレ』の年度始まって最初の仕事なんだ。まあ先生も暇じゃねーから、後の方になるにつれて『サイハレ』勢が引率の主要メンバーになるんだけど」

「......別に先輩たちも暇じゃないのでは?」

「もちろんもちろん。むしろ半分くらいは忙しいから勘弁してくれってぐらいだ。うちの高校の特別ルールで1学期は中間テストがないからなんとかなるかな、ってぐらいだな」


「「「中間テストないんですか⁉︎⁉︎」」」


「......お前ら配られた予定表ちゃんと見てるか?......あ、そうか、まだ初日か。じゃあ仕方ないか。予定表って配られたと思うけど、あれにさらっと重要なこと書いてたりするから、どっか目立つところに貼っとくといいぞ。一応ほら、あそこにも1つ、あるんだけど」


 部室の壁には本当に応接室のごとくお高い感じの絵がかけてあった。その絵は人がひなたで絵を描いている絵なのだが、そのキャンバスにドヤァと年間予定表が居座っていた。いいのかそんな配置で。


「あれ、ウケ狙いですか?」

 夏穂がそう尋ねた。よく言えば疑問に思ったことはすぐ訊く、だが悪く言えば頭と口が直結している、になってしまうことに気をつけよう。


「ああ、まあほぼウケ狙いかな。壁にただ貼るだけだと味気ないし見落とすかもしれないからって、数年前のOBさんがここに貼り出したのが始まりだから。あ、ちなみに引率の話に戻るけど、5月いっぱいで引退の3年の先輩と俺らを集めても引率の人数には足りないから、OBさんに何人か協力してもらうのが、毎年恒例」

「ホントに全ての駅に割り振られるんですね......」

「しかも一部例外を除いては基本的に自分の希望が通るのがいいところだな。普通だったらこういうの、たいていの人は第4希望ぐらいでやる気もクソもあるかってなるもんだけど」

「そう言われるわたしの身にもなってー」

「あっそうか、ユッキーは第何希望だったっけ?」

「6」

「......とまあ人気のとこばっかり指定すると、こんなことになる」

「うげー......」

「あくまで人気のところばっか指定すればこうなる、って話だ。大概は第2希望までで決まるから」


「で、どうして近衛園は嬉しくて、天光台はダメなんですか」


「それだ、言っとかなきゃな。近衛園ってどんなところか知ってるか?」

「いえ......」

 実は快速の停車駅の一つだということぐらいしか分かっていなかったりする。電車を使わなければいけないところに行くことはあまりない。中学も(公立に来てからの話である)、電車は使わず自転車で事足りた。

「近衛園は、名前から大体どんなところか想像できる。かつて平安時代に、その時に宮中で仕えたとある貴族が不祥事の責任をとってそこに左遷された。実際はその人のせいじゃなかったらしいんだけどな。それで、せめて自分が暮らしていた思い入れの強い京都に住む町を似せて欲しいってことで、今の近衛園ができたんだと。歴史のある景観が並ぶところで、見所もいっぱいあるし、レポートも書きやすい」


「へえ〜」


「ただ、どの部活でも1年は近衛園はいいぞ、って話を聞くんだろうな。だから毎年近衛園はすごい倍率だ」


「でも近衛園だけがいいってわけじゃないよ。近衛園だけにこだわらないで、ちゃんと他のところも調べてね」


「「「分かりました」」」


「資料はこの部屋にたくさんあるから、ゆっくり見ていってね」



 ユッキー先輩に示された、大きな本棚。


「......あの、ちょっといいですか」


 それは私が言わざるを得ないぐらい、違和感たっぷりだった。


「なあに?」

「何ですか、この本棚?」

「何って、本を......」

「趣味全開じゃないとは、言わせませんよ」

「えっと、......何となくは思ってたけど、西野さん、鋭いね」

「上から三段全部、あれ明らかにマンガですよね。しかも最新号」


「えっ!?なになに読ませて!!」

 反応したのは草津さんだった。


「いいよ、どうぞ~」

 ユッキー先輩が最新号を引っ張り出し、草津さんに手渡した。

「おーっ、これ読みたかったやつだ!ありがとうございます!!」

「ちょっとゆのかちゃん!」

「別にいいじゃない、怒ることでもないし」

 と草津さんが言ってソファーに座り、本に顔をうずめた。


 確かにそうだ。私が怒っても何も変わらない。変わらないけど、何か怒らなければいけない気がした。


「まあ怒りたがりだからね、あじさい」

 こらそこ!夏穂!適当に片づけない!


「......ちなみに言っておくが西野さん、この書棚は、中身も含めて、先生方の許可を得ている」

 静かに、副部長のひろと先輩が言った。



 少々、闇が深すぎるのではないだろうか?


 そしてそれは、気づくには少々遅すぎる気がした。

 夏穂が勝手に、3人分の入部届にサインしてしまっていたのだ。

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