第6話 執行部員
その大きな会議室のような扉の中に通された私たちは、その部屋の中身にまた驚くことになった。
入るなり熱いお茶か冷たいお茶かを聞かれ、夏穂が「熱いので」と言ったので、部屋中に玄米茶のいい香りが広がった。ご丁寧に急須で1人ずつ入れてもらった。応接室のような間取りで、大きなソファを私たちは勧められた。
「改めまして、わたしはセレス・クラックドール・雪瀬。この部活『サイハレ』の、会計をしてます」
「ハーフ......ですか?」
「うん、そうだよ。お父さんがドイツ人で、お母さんは日本人」
「でも、日本語お上手ですね」
「そ、そう?」
へへん、と雪瀬さんは少し胸を張った。
「小さいころはドイツにいたけど、その後お母さんにたくさん教えてもらったから!」
だから普段は日本語をしゃべるよ、と雪瀬さんは付け加えた。
「そういえば......会計だけなんですか?部長さんと、副部長さんは?」
夏穂が質問。
「ああ、えっと、今は......会議かな。すぐ戻ってくるとは思うから、少し待ってて」
「それってなんの会議か、聞いていいんですか?」
......と何気なく返した途端、しん、と場が静まり返った。
「......聞きたい?」
雪瀬さんの少し深刻そうな声が響いた。
「......え、ええ」
ごくり、......と、唾をのむ。
「......特進クラス、というのを、知ってる?」
「いえ......」
「2年生になったら、文系と理系で1クラスずつ、特進クラスが設けられるの。表記は2-LSが文系、2-SSが理系。部長も副部長も2-SS所属で、毎年放課後を使って、先生抜きで勉強会するのがSSクラスの伝統みたいになってるんだって。それで、誰がどの教科を担当するか、決める会議」
「......変態?」
あ、と声が出るももう遅い。夏穂の言葉の後また沈黙が訪れた。
だが雪瀬さんはにこっとしていた。
「確かにそうかも。そんなのやるんだったら、一部活の部長や副部長なんてやらなきゃいいのにね」
とまで雪瀬さんが言ったところで、ドアのノック音が響き、2人の男子生徒が入ってきた。
「すまねーなユッキー、会議で遅れた。こいつがふざけんなとか知るかボケとかわめいて、会議が長引いたんだ」
「わめくっていうのはおかしいだろ、だいたいお前が僕を無理やり連れて行ったんだ。僕は授業なんてするような性格じゃないのに......」
「「「ユッキー‼︎‼︎」」」
私たち3人の声がきれいにハモった。すごく親近感わくじゃないですか。
「いや俺らガン無視かよ⁉︎」
「あ......すみません」
代表して私が謝る。
「紹介するね、こっちの俺って言った方が部長の竜ヶ崎掛、もう片方が副部長の鯛目陽斗」
「......紹介が適当だぞユッキー」
「え?そう?」
「天然を装うな。どうせ僕らがSS所属のド変態とかなんとか吹聴したんだろうけど、ユッキーも実はLS所属だろ」
「え?......ふふふ、バレた?」
「「「人が変わった⁉︎」」」
「......そんで、ユッキー?この3人は新入生か?」
「え?うん、そう。サイハレのこと、元から知ってるみたいだよ」
「どこ情報だ?」
「あ、私の兄がサイハレ所属だったんです」
草津さんがすかさず言った。
「マジで⁉︎いくつ上?」
「あ、それは、10歳上なので知らないかもしれませんが......西原稜哉です」
「......え?西原先輩?あの伝説の1人か?あの伝説の弟か?」
「あの、実はいろいろあって弟じゃなくて妹なんですけど......そんなに兄が有名なんですか?」
「そりゃもう、なあ!陽斗もびっくりだよな‼︎」
「......まあ、確かに。てんやわんやですまないけど、自己紹介してもらっていいかな」
私たちも少し遅く、自分たちの名前を言った。
「えー......ポニーテールのあなたが西野さん、レースの手袋してるのが箕島さん、んでちょっと小柄なのが草津さんな」
「ごめんねみんな、かっくんはちょっと人の名前覚えるの苦手で、しばらく間違えると思うけど、許してあげて」
「余計なこと言うなよ、しかもそんなに大したもんじゃないだろ。2ヶ月もあったら覚えるし」
「......今、かっくんって言いました?」
「ああ、これも言っとかなきゃな。ウチではみんなで協力することが特に多いから、まずはあだ名で呼ぶようにしてるんだ」
「例えばわたしだとみんなユッキーって呼ぶね。それからかっくんもみんなそうやって呼ぶし。あの、何だっけ、ほら、ちょっと前のアイドルグループでいたじゃない?『ックン』って呼ばれてる......。その3人についてくるおまけ、みたいな」
「お前今日余計な一言多いぞ。いくら3人も1年が来てくれたからって調子に乗ってないか?それじゃ俺が持ち上げられてんのか突き落とされてんのか分かんねえじゃん」
大丈夫ですよ。ちゃんと突き落とされてます。
「......えーっと、それで、副部長さんはひろと、ってところかな」
「また適当だぞ。確かユッキー、今度の地域史、近衛園の担当じゃなかったか?あそこって確か毎年一番人気のところで......」
「大丈夫、わざわざ近衛園に行きたくて立候補したんだから。わたしも楽しみだから、事前学習はバッチリ!」
「あー、確かユッキー、去年は結局ハズれにハズれて天光台だったな」
「あの、」
「ん?」
「近衛園とか、天光台とかは分かるんですけど、......どういうことですか」
「あー、なるほど。そういや今日、まだ部活見学の初日だから詳細知らされてねえのか。......地域史の話なんだ、『サイハレ』としても、話しとかなきゃな」
俺たちも座るか。
竜ヶ崎先輩......もとい、かっくん先輩がそう言ったのを合図に、かっくん先輩はひときわ大きなデスク備え付けの椅子に、ひろと先輩はパソコンの前の席に座り、話が始まった。




