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サイハレ〜祭神高校、その歴史と現実〜  作者: 奈良ひさぎ
第1条:『サイハレ』は、祭神高校文化部に属する一部活である。ただし学内において持ちうる権力は、その限りではない。
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第4話 同胞再会

「ななっち~!」

「あっ、夏穂ちゃ~ん!」

「ひっさしぶりーっ!…...何年ぶり?」

「えっと……0.08年かな」

「そんな、夏穂の冗談オープニングにまじめに答えなくても......」

「いいんだってば、夏穂ちゃんも私が返してくれることを期待して言ってくれたんでしょ?」

「うん。ナズならたぶん『は?』で終了だったし」

「それはひどくない?さすがに『うーん』とは......」

「お前ら、駅で騒ぐとまずいから、さっさと喫茶店行くぞ」

「こういう時、男子がいてくれてよかった......って思ったり思わなかったりするよね」

「何だ夏穂、それどういうことだよ」

「たぶん女子は女子でも、このメンツだったら、収拾ついてないと思う」

「ああ......どう頑張っても無理だな。100年早い」

「そんなに?あたしがいるから40年くらいにならない?」

「夏穂があれだから......」

「女子だらけの中に男子が一人混ざることがどれだけキツイか、分かってるか?......分かってない気しかしないけどな」

「大丈夫、なるべくタツには負担、掛けないようにするから」

「ホントかよ......」



* * *



 会う約束が決まったとき、私たちも含めて8人のうち、来る人が何人なのか確認した。

 まずは石川七絵いしかわ・ななえ。さっき夏穂に無茶ぶりされた子で、みんなはななっち、と呼ぶ(一部例外あり)。


 そして小野崎奈津菜おのざき・なづな。夏穂にはたまにいじわるして、冷たくそっけない態度をとる、大人っぽい時もあるけど、結構人のことを考えてるタイプ。みんなはナズ、と呼ぶ。思い切って退学して、公立で頑張ってみた方がいいのかもしれない、ということを思いついたのは私だけど、ナズも気づいてたみたいで、私と一緒に説得に回ってくれた。


 最後に今回会うことになったメンバーの中で唯一の男子、雲合辰くもあい・たつ。タツ、とみんなは呼ぶ。中学生といえば、たぶん異性を意識し始める時期なんだろうなあ、と私は思うのだけれど、時にそんな壁を越えて私たちを気にかけてくれていた。お姉ちゃんが2人いるみたいで、「あんな生意気で命令ばっかしてくる奴らより、よっぽど同級生の方が素直だな」と言っていたこともあった。



 そんな5人が今日、0.08年――つまり、一か月ぶりに集まった。

「残り三人はどうしたの」

「ああ、あいつらは結構遠くに引っ越したらしくて、来れない、だと」

「ほほう。その3人のうち男子が2人だったから、こんなハーレム状態になっちゃったわけですね」

「ほんと、俺たちの中でこんなに女子いたんだ、って思うと、今更だけどゾッとする」

「誰を選ぶか迷うでしょ」

「......選ぶ?この中から?無理だろ」

「......それはどういう意味ですか、雲合辰リポーター」

「みんなかわいいから、とか言うとでも思うたか、西野紫陽花アナウンサー」

「じゃあどういうこと?あじさいも夏穂ちゃんもななも、いい女だと思うけどねえ」

 ちなみにナズはこの中で一番大人っぽくて、......一番胸も大きい。

......あんたが言うな!

「どこのおばさんだよ......仮に俺がこの中から一人選んだとして、お前ら、殺し合わない保証があるのか?」

「うーん......」

「考えんのかよ!すぐに否定してほしかったな‼︎」

「でも、それはいい判断かもね」

「夏穂ちゃんとか、あじさいこてんぱんにしそうだね」

「『別れろ、別れろ......!』ってね。非リアの呪いってやつだね」

 いつの間にか喫茶店に入っていて、タツが5人ということも伝えて、席についていた。


「俺、さっきびっくりした顔で店員に見られたんだけど、......この状況が状況だから、変な感じで見られたのかな......」

「ないねえ、タツはかっこいいけど、プレイボーイになるような人とはまた別種だから」

「でも女子だらけなのは女子だらけだからね......気にはなるよね」

「そういえばさ、あじさいとタツは幼馴染なんだよね」

「そうだけど」

 夏穂が疑いの目を私に向けてきた。かの天才少年探偵が犯人のアテがついた時の顔だ。やめなさい。目立ってるよ。悪い意味で。

「ああ、夏穂ちゃんはこう言いたいんだね。『男と女の幼馴染とか、超怪しい。”そういう関係”だ』って」

 ああ、めんどくさいやつだ。

「そういえばななっちとタツはご近所さんなんだよねー」

 さりげなくななっちに飛び火させてみた。

「ええっ!ああ、私たちの関係ってけっこうフクザツなんだよね」

 するりとかわされた......

 ななっちはバッグからペンとメモ帳を出し、一枚ちぎった。

 私たち5人の関係は、家のような形の五角形の中に、五芒星を書いた図を書くと分かりやすい。

 私にとってななっちとタツは幼馴染、夏穂とナズは中学からの仲。夏穂とナズは幼馴染、夏穂とななっち、タツは中学から。ななっちとタツはご近所さん、ナズとは幼稚園からの付き合い。ナズとタツは中学から。

「分かりやすいって言うけど、ちょっとだけだよね。結局特別な五角形と星で矢印が入り組んでワケ分かんないし」

「ここまで入り組んで、誰もリア充になったりとかしてないのが奇跡だよね」

「とか言ってななっち、タツのこと......」

「何言ってんの夏穂ちゃん!」

「私は夏穂の方が怪しいと思うけど?」

「あ、あじさいまで......」

 わちゃわちゃわちゃ。

 そう音が聞こえてきそうなほど、私たちはうるさくしていた。



――ガタン。



 それは突然、タツがテーブルを叩いて、立ち上がった音だった。


「あのな」

 タツは明らかに、ムッとした顔だった。

「お前ら、中学のノリでそれだったらまだ良かったかもしれないけど、もう高校生だってことを自覚しろ。だいたいなんで俺が女子に説教してんだよ。女子の方が男子より精神年齢が上な傾向にあるんじゃなかったのか?それともあれは真っ赤なウソなのか?」

 そのまくし立て方は、あまり音に驚かなかった私でも、理解するのが遅れるほどだった。タツがこんなに怒ったことは、覚えてる限りない。

 ナズはタツの方をじっと見ていた。

 夏穂はタツの方をきっ、とにらみつけていた。


「お前ら......俺も含めて、まだ心が追いついてない。自分が高校生になったとはとても信じられない。それがあの時のせいで、そこで自分の中の時が止まってる、って感じはする。引きずってるんだ。俺が言えた義理じゃないけど、あれからもう二年だ。俺に比べて、みんな、引きずりすぎだと思う。特に夏穂、お前が引きずりすぎてるせいで、あじさいも七絵も奈津菜も、みんな引きずらざるを得なくなってる」


「あれを引きずるなっていうの?わたしがどうなったか、......自分で言うことじゃないかもしれないけど、知らないはず無いでしょ?」


 夏穂は利き手じゃない左手に、レースの手袋をしている。保健室登校になる直前に、私たちにとって衝撃的なことが起きた。


――夏穂の自殺未遂。


 お風呂場で自分の手を傷つけている夏穂を、お母さんが発見したらしい。救いだったのはカッターナイフが見つからなくて、普通のはさみを使っていたこと。病院に慌てて運ばれて、私たちが到着した時には、夏穂は起きていた。起きていたけれど、寝転んで、虚ろな目をしてただ、天井ばかり見つめていた。はさみとは言え、夏穂の左手には、見てすぐに分かるような傷がある。よっぽど深く切ろうとしたのだろう。

 私たちはあの空気に、かろうじて負けないでいられた。でもそれはたまたまで、それより少しでも意気地なしだったとしたら、夏穂のようになっていたのかもしれない。

「保健室登校って、なるのは簡単だよ?そんなにひきずり過ぎだって言うならやってみたらいいよ。でもそこから戻るのがどれだけ辛いか知らないでしょ?じゃあタツ、そんな偉そうなこと言えるの?」

 突然、なんの前触れもなく思い出して苦しむかも知れない。事実保健室登校していた時も、様子を見に行くと、何の前触れもなく夏穂が泣き出した時があった。夏穂が泣かなくてもよくなるには、どうしたらいいか。そう思って、学校を去るという、一番楽だろうと思う選択をしたのだ。


「ナズだって今でこそそんなすまし顔してるけど、結局分かってないんだよ。八方塞がりな状況は本人にしか分からない。簡単に『退学』っていう選択肢が思いつけた人とは違うの」

「簡単に思いついた?そんなわけないでしょ!?私たちだって離れるのはつらかった。いじめがなくなるなら退学したほうがいいかもって、自分の中では思ってたけど、お母さんやお父さんにも迷惑かけるかもしれない。でも夏穂ちゃんのお父さんとお母さんが『それでいい』って言うから、私たちも気分を新たにしようと思って......」


「もういい、帰る。こんなに思い出すなら来なきゃよかった。お金は払うから」

「夏穂ちゃん!」「どいて」

 ななっちの引き止めもむなしく、夏穂は出て行ってしまった。


 急に喫茶店が静まった。

 人が少なかったことが幸いして、私たちは店員さんに何か言われる前に、さっさとお金を払って出て行った。



「......卑怯だ」


タツがふと、そう言った。

「思い出したきっかけはアイツ自身にあるくせに、結局俺のせいなのか?女子って得だな」

「タツも悪いよ。あんなに突然怒るなんて......」

「お前らは気づいてなかったかもしれないけど、結構白い目で見られてた。自分たちで思ってるより何倍もうるさいし、うるさい分だけ幼いようにしか見えない。中学生なら大人でもないし子どもでもない、だから自分探ししてるんだ、で通るかもしれないけど、高校生はそういうわけにはいかないと思う」

「......。」


 夏穂は近くのベンチに座って、みんなが心配して迎えに来てくれるのを待っているようなひとじゃない。きっともうこの喫茶店の最寄駅、父川ととがわ駅に着いて、帰れる電車を待っているだろう。


「でもタツが主な原因であることには変わりないじゃない。この集まりは夏穂ちゃんがメインなのよ?どうするの」

「だからお前らが棚に上げてどうするんだよ!そんなセリフは引きずらないようになってから言え。それに俺はアイツのことなんて知らない。勝手にいじけてるだけだし」

「私が困る。同じ高校なのに、明日からどうすればいいの」

「だから俺の知ったことじゃない。せっかくこんな遠いところまで来たし、その辺ぶらぶらする」

「「「タツ!」」」

 呼び止めようとしても、タツは聞かなかった。どこかへ行ってしまった。

 あとには私とナズ、ななっちの3人が残された。


「夏穂を探す」

私はいつの間にか、そう言っていた。

「どこに行っていそうか、あてはあるの?」

「たぶん、駅」

「あじさいはそっちに向かって。あたしとななはタツの尾行と、夏穂探しの両方をやる」

「分かった」

 私は駅に向かって走る。携帯を取り出し、父川駅の時刻表を調べる。次の電車まであと3分。行き先は......天照あまてる

――天照?

 夏穂の家の最寄り駅は、海遼(かいりょう)女子大学前。天照よりも3駅さらに向こうで、祭神高校の最寄駅、祭神駅から見ればだいぶ離れている。

 恐らく夏穂は、この電車を見過ごす。そう信じることにして、駅までの道を急いだ。



「遅れ?」

「おいおい、なんでこんなローカル線で、しかも学生がほとんどなとこで遅れが出るんだよ」

「すみません、踏切の故障でして。そこまでひどくもありません」

「ああ、ここの踏切って時代物だよね」

「古いものですと手動だったものが、多少改良されたに過ぎないものがありますね......。電化はしたものの若干の改修をしたのみ、というものが4、5箇所。あとは自動でも比較的古くに設置されたものも多数、でしょうか」

 よかった!間に合った!ホームの広さもある程度知れてはいるから、すぐに見つか……

らなかった。

 もしかすると、違う交通手段を使ったのかも。

 そうなるともうどうすることもできない。昼まっただ中のこの時間は速い電車もないし、追いつくことは物理的に不可能だ。

 途方に暮れるとはこのことだ、と思ったその時、スカートのポケットに入れていた携帯が震えはじめた。



“夏穂ちゃんいた!”

“なにっ ななっちそれホント?どこ?”

“ショッピングモールの2階でアイス食べてた”

“呑気な奴め……”

“まあまあ。戻ってきてくれない?あじさいがいないと困るみたいだよ”


 私がいないと?それはどういうことだろうか?

 とりあえず帰ってしまっていなかったことを救いと考えて、戻ってみることにした。



* * *



「おい夏穂」

「……」

「アイス食うのいったんやめろ」

「……なに」

「その……」

 本当にせっかくここまで来たから、適当にぶらぶらしようとショッピングモールを歩いていると、夏穂とばったり会ってしまった。こちらとしては怒鳴ってしまった手前、何も言えなかったが、夏穂は自分の姿を見ても特に逃げるとか、見て見ぬふりをするような様子はなかった。だが流れで一緒になってしまい、気まずい空気が流れていた。

 こういう時、どう声をかけてやればいいのか分からない。勝手に思い出して勝手に感情的になったのは夏穂の方だから、と自分では思うが、冷静になって考えてみると、突然怒鳴りだした自分の方も……いや、やっぱり……


「アイス、食べる?食べかけ」

 ふと夏穂の手元を見ると、ブルーベリーチーズケーキ風味のアイスは、コーンしか残っていなかった。


「いるかああああ!!!」

「......なんだ、シナリオ通りにはいかないね」

「どういうシナリオだよ……」

 たぶん間接キスでもさせたいのだろう。そんなワナに引っかかるか。絶対今後いじられるだろ。というか夏穂なら確実に言いふらす。たぶん自分にもリスクがあることなど顧みない。

 とは言え夏穂がアイスを食べているのを見て、何となく食べたくなったので、自販機でグレープシャーベットを選んで夏穂と同じベンチに座った。


「......別に、タツが悪いとは思ってないよ」

「は?」

「タツの言うことももっともだな、って思う。引きずってる限りは本当の意味で気分を新たにできたとは言えないし」

「だけど言いすぎ……」

 たから、の「た」の口で止まってしまった。夏穂が頰を引っ張って、しゃべれないようにしたからだ。


「ありがと。感謝してる。タツが私たちのグループにいてくれてよかった。これからも、誰かのツレにならないように気をつけないとね」

「夏穂……」

「さっ、あじさいは?」

 アイスを食べ終わった夏穂が急に立ち上がった。その姿をぼんやり見ていた。

「成長したな、夏穂も」

「......?」

「昔はもっと幼かったっていうか......今も幼いのは変わらないけど、なんていうか」

「......胸見てた?」

「いやなんでそうなるんだよ⁉︎今は真面目な話を......」

「じゃあみじんも思わなかった?成長したな、胸も、って」

「......そりゃ、全くじゃねえけど」

「じゃあ早くあじさいの場所言って。じゃないと首絞めるよ」

 またこちらに手を伸ばし、首根っこをつかんできた。さっきもそうだったがけっこう本気だ。跡がつくぐらいには痛い。これで死んだら指紋と跡から夏穂が絞め殺したと一発で分かるはずだ。

「分かった分かった‼︎......って、俺は知らない」

「はあ?」

「だって俺、単独行動だし」



「「夏穂ちゃん!」」


 その時、聞き慣れた高い声がした。

「ああ、どうしよ、ナズとななっちにはいじけてるフリしようかな……」

「やめてやれよ」

「夏穂ちゃん無事?タツに襲われてない?」

「お、俺が襲う?」

「追い打ちかけてるんじゃないかと思って……」

「......仲直りしたよ」

「「ホントに!?」」

「まあ奈津菜と七絵が驚くのも無理ないか。俺にむしろ、感謝してくれた」

「「へえ~」」

「感心してくれるのはいいんだけど、あじさいがどこへ行ったか知らない?」

「駅。『夏穂が行くところって駅ぐらいじゃない?ストレートで帰るでしょ』って言ってた」

「そっか……まあ妥当ではあるけど」

「大丈夫、いまメッセージ送ったから」

「……よし!おごるよ!あじさいと、ななっち、ナズ、タツの分」

「何を?」

「んー、たこ焼き?」

「たこ焼き屋なんかあったか?」

「あったよ。結局まともに昼ごはん食べてないし、それぐらいの方がいいかなって思って」

 というより、高校生が5人分の食事代を払うとなれば、それぐらいが限界だろう。

 あじさいはそのたこ焼き屋さんがどこにあるか知っているらしく、そこで落ち合うことになった。



* * *



 どうやら話を聞く限り、たこ焼き屋でお昼にするのを提案したのは夏穂らしいのだが、当の本人はジャンボサイズ・ソースと青のりとかつお節たっぷり・紅しょうが山盛りとかいう注文をしておいて、席に着いた途端たこ焼きを切り開きたこを器用に取り出して、私に押し付けて来た。夏穂の食べているものはたこ焼きではない。それを人は「焼き」と呼ぶ。

「たこよけるなら、なんでたこ焼きにしたの?」

「ほのほーふ......はふはふ、ほーふははっふひふいたはふは、ふっほふおいひいんははは!」

(紫陽花訳:このソース......はふはふ、ソースがたっぷりついたやつが、すっごくおいしいんだから!)

「たこばっかり食べさせられるこっちの身にもなってよ......」

「はふっ......でもあじさいの分に押し込めば、たこ2つでお得だよ?」

「なんか、そういう問題じゃない気がするのは私だけ?」

「いーじゃんあじさい、そういうのもおんなじ高校に通うなら必要不可欠......じゃなくて必然、でもなくてあれだよ、そうそう、必要経費!」

「私は夏穂のボケ回収で精一杯だからね?ななっちのボケはスルーの可能性が高いけどそれでもボケるんだね?」

「そんな......」

 ちなみにななっちと私、夏穂の3人は普通のソース、ナズとタツは塩だれ。どうやら全国的にも有名なチェーン店らしいのだが、どういうわけかここ父川駅すぐ近くのショッピングモール内にしかない。高校の近くにできたりしないだろうか。

 夏穂がもう一つジャンボサイズを買って食べたせいでもう一回私にたこが回ってきて、それをなんとか食べ終わってお昼の時間は終わった。なんとなくたこ2つのたこ焼きを味わえたことに満足している私は、やっぱり夏穂の策にはまっているのだろうか。

 その後せっかくだから、といろんな店を回り(叩くとぐえっ、と言ったり突然ノリノリなヒップホップの曲が流れ出すピコピコハンマーに夏穂が異様に執着したりしたが)、夕方ごろになって解散することになった。

 父川駅は私たちが使う路線の中心駅だが、同時にななっちたちの使う路線のターミナル駅でもある。だから駅のホームでななっち、ナズ、タツの3人とはお別れだ。


「じゃあねあじさい、夏穂!まったねぇ〜っ‼︎」

 とブンブン手を振ってアピールするななっちと、その横で若干遠慮がちに手を振るナズと、さらにその隣でひらひら手を振ってみせるタツ。

 3人が乗った快速列車が発車した後には、私と夏穂が残された。

 ホームを変えて、別の快速列車に乗り込んだ。

「ねえ」

 夏穂が呼びかけた。

「なに?」

「今日、楽しかったね」

「一番泣いた子がそれ言う?」

「相変わらずえぐるようなツッコミ......でも、楽しかったよ。何より、ななっちとかナズとか、タツも楽しそうにしてたのが見れてよかった」

「......。」

 確かに今回集まったのは、それが目的でもあった。平日に学校があると、なかなか会えないような距離がある。夏穂が元気なのを、3人にも見てほしいというのもそうだったが、夏穂からその言葉が聞けたなら、今回集まった意味は十分すぎるほどあった。


「......で、明日からまた学校だね」

「でも最初からがっつり授業なんてことはないでしょ」

「そっか」

「だからって遅刻は許されないよ?」

「別に遅刻したくてしてるわけじゃないから!......ちょっとだけ一理あるけど」

「最後ので台無し」

「えーっ!」

「遅刻したらまず私が待ってると思いなさい。私も学校までどれくらいかかるのかまだよく分かってないし、夏穂には合わせられないから」

「マジですかー......」


 そして結局夏穂は遅刻した(が、川際先生のホームルーム中で、話が通っていたのか事なきを得た)。

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