第22話 司長就任
お神輿の復路は、私たちが来る必要はなかった。二年生の『サイハレ』部員は行かないといけないらしいが、復路となるとお盆も終わって忙しくなくなるので、私たちがやっていた交通整理なんかも参加できる地域の人が増え、人手が足りるようになるそうだ。
ただ最終日は、『サイハレ』部長、もとい司長の交代式に参加するため、夕方から祭神駅に集まることになっていた。ここまで先輩たちから話を聞いて、実は『サイハレ』って結構形式化してしまってるんじゃないか……と思っていたのだが、この司長の交代式はまさにそれを象徴するようだった。『サイハレ』が祭神高校の部活として活動を再開した時からの伝統らしい。
「別にわざわざ交代式なんてしなくても、勝手に交代すりゃいいのに」
こういう時本質を突いているようで言い方は適当、しかしそれでいてそこそこ真面目なことを言うのが夏穂である。私も含めてみんな薄々はそう思っていたらしい。藤坂さんも苦笑いしていた。
さすがに夕方から集合ということで、夏穂も時間通りにやって来て、指定された時間の五分前には一年生全員が揃った。その後すぐに各駅停車が来て、それで先輩たちも揃った。
「お神輿は例年よりちょっと早いペースらしくて、もうあと三十分もすれば祭神神社に着くらしい。急ごうぜ」
お神輿と同時に着くのはまずいらしく、私たちはかっくん先輩のその言葉で、少し早歩きで目的地へ向かった。
境内に入ってみるとすでにお神輿出発の時と同じくらいの人がいた。女の人や子どもが多かったので、おそらくお神輿を担いできた人の家族だろう。まずこの一週間、一年の一番暑い時にお神輿を担ぎきった男たちを、ねぎらわなければならないのだ。
「もしかしたら『サイハレ』なんてのは消えてもおかしくなかったかもしれない。高校の部活って形にして落ち着かせた……そういう見方もあるけど、形ばかりで存在意義もなくなりかけてるのを、部活にして無理やり寿命を延ばしたって、そう主張する人もいるくらいなんだから」
かっくん先輩がそう言うと、自然な流れでひろと先輩が言葉を継いだ。
「それでも『サイハレ』が『サイハレ』でいられるのは、祭神さんというお祭りが地域に根付いてるから。それから、祭神さんそのものが、生まれ変わっていく街、入れ替わっていく人、この街で生まれ育っていく人たちを見守りたい、神様の願いから始まったお祭りだから、だ」
さ、行こ行こ、とユッキー先輩が私たちの背中を押した。さっきまで私たちを引率していたかっくん先輩やひろと先輩は、もう私たちの後ろへ行ってしまった。
「もう今の瞬間から、『サイハレ』の主役は西野さんたちだ。よろしく頼むぜ」
私たちはーーどういうわけか、まだ『サイハレ』に入ったばかりの藤坂さんも含めて、境内の少し広くなったところに設置された、朝礼台のような台に上った。示し合わせたかのようなタイミングで、野太い声が聞こえ始め、大きくなってやがてお神輿が姿を現した。
* * *
「『サイハレ』はその創立以来、祭神さんを無事に行えるように頑張っています。まずはこれから一年、『サイハレ』の伝統を継いでくれる四人を紹介しましょう」
かっくん先輩の紹介で、私たちは近くの人たちに向けてぺこりとお辞儀をした。ちなみに私たちの代は四人だが、年々部員の数は減ってきているらしい。創部の頃は二十人ほどはいた、という話である。
「みなさんから見て左側から、西野、箕島、草津、藤坂となっています。草津は以前我が『サイハレ』の部長を務めていた西原の妹で、非常に頼もしい存在です。そして今年度の司長は、西野に決定しました」
事前にユッキー先輩に言われていた通り、私の名前が呼ばれたタイミングで、一歩前に出た。幼稚園くらいの子からおじいさんおばあさんまで、いろんな人の拍手に私は包まれた。
「……えっと、新しく部長、じゃない、司長に就任することになりました、西野です。よろしくお願いします……」
特に実のあることじゃなくてもいいから何かしらコメントしてくれ、と事前の打ち合わせでかっくん先輩から言われていた。かっくん先輩自身も、よろしくお願いします、くらいしか言わなかったらしい。
それでも再び私は拍手を受けた。私はついこの間祭神高校に入ったばかりで、それどころかこの辺りの地元の人というわけでもないのに、みんな新しい司長になる私を歓迎してくれていた。何よりさっきまでお神輿を担いでいてへとへとのはずの男の人たちが、率先して声で盛り上げてくれた。
「では、改めて。一週間にわたる祭神さん、今年もお疲れ様でございます。ありがとうございました」
かっくん先輩がそう締めくくって、お辞儀をした。ひろと先輩、ユッキー先輩と続いたので、私たちも少し遅れる形でそれにならった。三度大きな拍手に包まれた後、私たちは境内を出た。
「これから先は、お神輿を担いだ人たちが主役だ。誰よりもねぎらわれるべきだからな」
実質的に私が『サイハレ』の部長ーー司長の仕事を始めるのは、二学期になってかららしい。夏休み中はもう集合することはないということで、すぐに解散になった。
「焼肉行こ焼肉。こういう日は焼肉ぐらい食わないとやってられないっすよ」
夏穂が何の脈絡もなく突然そう言い出した。こういう日というほど悪いことがあった覚えはなかったが、今日ばかりは私もそれについて行きたくなってしまった。
「伝統、か」
確かに祭神さんと、『サイハレ』はずっと受け継がれている。それもみんなが楽しめるという、好意的な形で。
ついこの間まで祭神さん、という言葉さえ知らなかった私が『サイハレ』を引っ張るというのは、確かに少し違和感があった。しかしその疎外感に似た何かを持つ私さえも受け入れてくれる、そんな雰囲気があった。
私は少しだけ、心が小躍りしているようだった。




