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サイハレ〜祭神高校、その歴史と現実〜  作者: 奈良ひさぎ
第6条:『サイハレ』は毎年八月中旬の祭神巡礼祭が無事に執り行われるよう、その補助を行う。ただし所属員が高校生であることを鑑み、その体力に合わせた補佐の仕方をとるものとする。

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第18話 部長決定

「……で、決めたの?」

「いいえ。全く」


 気づけば八月の十三日になっていた。


 夏休みに入ってすぐ、部長を誰にするかという話し合いはしていた。もちろん藤坂さんも入れて、スマホのグループ通話でである。私はログを見ながら、その時のことを思い出していた。


「とりあえず部長だけでも決めないと。藤坂さんはまずいってことは、分かってるんだけど」

「そうだね。まだ入ったばかりだし、大人しいふじふじがあの独特な環境に慣れる頃には、引退の方が近いかも」


 私の中で、藤坂さんを候補から外すことは決めていた。計算やお金の管理は得意だと言っていたので、会計を任せるのならまだしも、部のメンバーをまとめる部長にしてしまうのはマズいだろう。やはり入学の頃から『サイハレ』に身を置いている私たち三人の方が適切だ、ということを私は思っていたし、夏穂も草津さんも同じ意見だった。

 しかしそこから話は全く動かなかった。その間にも夏休みは一日、また一日と過ぎていくし、そうなると夏休みの宿題も進めていかないといけないしで、結局ほとんど何も決まらないままこの日を迎えていた。


「さすがにマズいんじゃない?」

「それは思ってる」


 私自身、決めなければいけないこと、考えないといけないことをここまで先延ばしにしたことはなかった。それだけに焦っていた。早く決めなきゃという気持ちと、どうしようどうしようとただただ慌てる気持ちが私の中で錯綜していた。


「思ったんだけどさ」

「え?」


 ふと、夏穂が私に向かってそう言った。あの最初の部長会議の時、一番やる気のなかった夏穂が。


「正直部長はあじさいでいいと思うんだけど」

「いやいやいや」

「嫌なの?」

「そりゃ、嫌じゃないけど」


 思えば私は何かの組織のトップに立ったという経験がない。小学校の時の委員会も、中学校の部活も別に部長になりたいとは思わなかったし、実際ならなかった。自分が人をまとめられるほどのカリスマ性を持っていないことは言われなくても大体分かっていたので、もしかして自分が部長になる流れなんじゃないかと思いつつ、考えないようにもしていた。


「嫌ではないんだ」

「そりゃ、夏穂に任せられるかって言うとそんなことないし」

「うん、今さらっと傷つくこと言ったね」


 別に私が一番真面目に活動している、などという自信もない。ただ、夏穂に任せるには不安が多すぎた。


「私的には、草津さんが適任なんじゃないかと思ったり」

「あぁ、草津さんね。ゆのかちゃんか」


 草津さんはお兄さんが元『サイハレ』部員で、しかも比較的近くに住んでいる。いざ分からないことがあっても気軽に聞けるだろうし、実際に会っていろいろ当時の部誌やら何やらを見せてもらえるかもしれない。誰を推すかと聞かれたら、私は草津さんと答えるつもりだった。


「まぁ、その説はある。私も正直ゆのかちゃんかねえ」

「あ、自薦はしないんだ」

「そりゃしないよ。めんどくさいし」

「そう言うとは思ってたけど」


 何より夏穂はめんどくさがりなのだ。歴史ある部活の長なんてお堅い地位など要らない、と言うのはだいたい想像がついていた。


「……うーん」


 指名された草津さんが悩むような声を出した。もしかして引き受けてくれるんじゃないかと私は心のどこかで期待しながら、言葉の続きを待った。


「その話、何度かお兄ちゃんとしたんだけど。副部長ならまだしも、部長はやめとけって、止められた」

「え? どうして?」


 私はほとんど反射的にその答えを返していた。


「それはもう単純に、向いてないからって。確かにあじさいが言ったようにお兄ちゃんのアドバイスは受けられるし、お兄ちゃんも協力してくれるらしいんだけど、わたしには人をまとめるような素質はないって。素質って言っても、数人だからそこまで問題にならない気はするんだけど」


 それは確かに、と私は思った。というより、私も含めて人をまとめる素質のない奴多すぎなのでは。


「わたしも小学校の頃とか、放送委員会の委員長とかやったことあるんだけど。放送室に来るだけでただうるさくしてるだけの男の子とか、あまり注意できなくて。あんまり人に厳しくできなくて、他人を叱ることができないのは何となく自分でも分かってるし」


 私と違って、リーダーをやって痛い目を見ているタイプだった。しかも小学校の放送委員会といえば、割と憧れる人も多いのではないだろうか。


「だからわたしは、あじさいを推すかな。あじさいは真面目だし、リーダーをもしやったことがないなら、ぜひやってほしい。わたしも大変だったけど、楽しかったのは間違いないから」

「そうそう。それそれ~」


 夏穂の言葉は適当だから適当に流すとして、草津さんの言葉は少し、私の心の中で引っかかった。私にはリーダーは無理だ、と思い込んでいたんじゃないか、という思いがこの一瞬で芽生えるほどには、影響力があった。


「……うん。考えては、みるけど」


 結局、そう返事をしてしまった。なんだかなんとなく、こうなることを若干分かっていた気もしていた。



* * *



”それで、決まった?”


 それは本当に祭神さんの前日だった。ちょうど晩ご飯を食べ終わって、部屋に戻ってゆっくりしようとした時に、メッセージが届いた。普段めったに話すことのなかったひろと先輩からだった。


「だいたいは。今のところ、私が部長になる方向です」


 返事が来るのを待っていたのか、ひろと先輩の既読はすぐについた。


”ああ、そう。実はこっちでも西野さんがいいんじゃないかという話はしていた”

「そうなんですか?」

”本当は当事者同士で決めるべきことなんだけども、決まらなかった場合は最悪僕たちの推薦で多少無理にでも決めることにしていた”

「推薦……」

”そっちがどんな話の流れで決めたのかは分からないけど、僕らは草津さんか西野さんだというところまでは、すんなり行ったんだ”

「そうなんですね。こっちも同じです」

”僕は西野さん派で、(かかる)は草津さん派だった。ユッキーはどっちにするか、決めかねていた”

「それで意見が割れたんですね」

”別に喧嘩したとか、そういうわけじゃない。けれど、割と最後の方まで一本に決まらなかった。草津さんのお兄さんが『サイハレ』のOBってことは知ってるだろ? お兄さんにも話を聞いた”

「本当ですか? 草津さんも相談したって言ってました」

”結局頼る人が同じだったんだな。それで、最終的にはお兄さんのアドバイスを受けられる草津さんを副部長にして、西野さんを部長に据える方がいいんじゃないか、とユッキーが言って、それが結論になった”

「そこまで結論が出たんですね……」


 誰が部長になるんだ、という話で手一杯なあまり、副部長やら会計やらの話はとりあえず後回し、くらいにしか考えていなかった。それと同時に、草津さんが副部長になってくれるなら、私が部長でも案外大丈夫なのかもしれない、と思った。


”どうする? 一応生徒会の報告する奴には、今から二時間くらいは予定を空けておくようには言っているけども。まだ悩むことはできる”

「いえ。いいです。」


 勢い余ってメッセージの最後に「。」までつけてしまった。しかしその勢いに動じる様子もなく、あっさりと既読がついた。私はひろと先輩からの返事が来る前に、メッセージを打ち終わった。



「私が部長ということで、よろしくお願いします」

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