第15話 近衛園巡
「……って、感じかな」
私は近衛園駅を出て最初の目的地に向かうまでの間、一緒に行くことになったクラスメイトの子にざっくり、『サイハレ』の話をしていた。別に秘密にするようなことではなく、むしろ『サイハレ』という部活のすごさを広めてほしい、と先輩たちは言っていた。
「へえ……なんだか話を聞いてる感じだと、あんまり変じゃなさそう」
「そりゃ、お祭りの実行委員会がそんなに変でも困るし」
実際は活動内容が変なのではない。むしろ仕事自体は生徒会に似ているんじゃないかと、私は思う。ただ、所属している部員が変人ぞろいなのだ。しかも、頭のいい方の変人。
「……ちょっと、興味わいてきたかも」
「本当?」
「私、昔からこの辺りに住んでるから。祭神さんも結構身近にあるお祭りで、小さい頃からずっと見てきたし。お祭りを運営する側なんて、めったにできないことだろうし」
「そっか。そう言われてみれば、すごいかも」
確か私たち三人は変わった部活、というワードに釣られて、草津さん主導で活動内容もよく知らないまま入った。活動内容を知ったのはそれこそこの間先輩に聞いた時なので、私たちも部員ながら『サイハレ』の知識についてはほとんど部外者、素人レベルなのだ。
「分かった。今度、ちょっと聞いてみる」
あの部活のゆるっとしたような雰囲気に慣れるまで時間がかかるだろうから、役職は任せられないかもしれないけど、と私は心の中でつぶやいた。
* * *
「着いた~」
それから数分歩いたのち。駅から一番近い、藤原寺の前まで来た。近衛園、と呼ばれる地域の入口に位置する、かの藤原氏の氏寺の一つ……という説明を事前に読んでいたので、その受け売りである。
「さすが小京都。藤原氏の氏寺が一番手前にあるんだ」
「藤原氏の氏寺って言えば、奈良の中尊寺だっけ」
「奈良は合ってるけど、興福寺だね」
やっぱり。なんか違うと思った。私は中学の時、社会が全般的に得意ではなかったことを思い出した。中尊寺は今言いたい藤原氏とは、また別の藤原氏のお寺だった気がする。
「とりあえず一通り回ってみよっか」
いつのまにかクラスメイトの彼女の方が主導権を握っているような気がしたが、私はそれについては特に何も言うことなく、中に入っていった。
近衛園はかつて平安時代、とある貴族が左遷されてきた場所だと言われている。実際は裏の政治的な駆け引きがどうのこうのとかで、とにかくその貴族が黒幕などではなく、だまされてしまったらしいのだが、彼は元来温厚な性格で、復讐をしようとか何とかして都に戻ろうとか、自分の境遇を嫌がるようなことをしなかったらしい。
”自身にその時与えられた境遇は、どんなに理不尽なものであれ、かならず何かしらの意味がある。その不遇さを嘆くよりも、その中でどう楽に生きるか考えることの方が、重要である”
だいたいそんな意味のことを、その貴族の人は言ったらしい。実際にその言葉を刻んだ石碑が近衛園駅の改札前に鎮座していた。
「何かしらの意味も何も、ない気がするけどね。だまされて左遷されたんだし」
「でも特に不満そうな様子を見せることはなかったみたいだよ? 地元住民の信頼は厚かった、って話が残ってる」
のちに彼が左遷されたのは正当な理由によるものではなく、当時の権力者がライバルを蹴落とすためについた嘘であったことが発覚し、彼の名誉は回復された。しかし、それはすでに彼の亡き後であった。
彼の人柄は都でもよく知られており、彼の死後もなおその生前をしのび、忘れないようにしようと考える貴族は多かった。その名残で、過去の権力者の氏寺の多くが、ここ近衛園に存在する。それも、日本の歴史上では別に氏寺とされるお寺があるにも関わらず。
藤原氏がここにも氏寺を建立したのをきっかけに、時代が進んでもなお、時の権力者が氏寺を建立していった。忘れられず、大切に考えられてきた結果か、かの貴族のたたりだ、とおそれられるようなできごとは起こっていないという。
「……その氏寺を巡るのが、昔からあるんだって。そんなに距離もないし、せっかくだからやってみよっか」
「そうだね」
体調などの事情により、今の祭神線沿線を巡れない人のために、近衛園周辺のみを巡るものもあったらしい。私たちはせっかく近衛園に来たからということで、一通り巡ってみることにした。
「藤原氏、平氏、源氏、足利氏、徳川氏……」
「本当に”時の権力者”ぞろいなんだね」
本来なら時の権力者と言えばもっといるだろうし、明治以降もカウントしようとすればいるだろうが、それぞれのお寺の前で取ったパンフレットの説明を順に見ていく限り、その五つの一族の氏寺だった。
「あとは神社がいくつか。それを含めれば、もう少し大きなくくりの近衛園巡りになる、ってことかな」
お寺だけを一通り巡った後で、私と彼女は別れることになった。せっかくここまで来たら神社も一通り巡っておきたい、と言った彼女と、五つお寺を巡っただけで随分歩き疲れてしまった私とで、意見が食い違ったのだ。地域史のレポートをある程度形にして提出する仮提出は夏休みが明けてまだ先なので、そんなに焦る必要もないだろう、と私は結局帰ることにした。
「今日はありがと、じゃあね」
私は満面の笑みでお寺のエリアのさらに奥、神社の方へ歩いていく彼女を見送って、近衛園駅の方面へ歩き出した。




