第9話 帰宅調査
久しぶりになってしまいました。すみません。
「......ふう」
各駅停車・祭神線経由・海遼女子大学前行き。真っ昼間の時間ではこの列車はレアなのだが、そのレアな列車に彼女は乗っている。彼女の名は、箕島夏穂。
「まあ、今でちょうどお昼休みが終わったかな」
ほとんど誰もいない車内でそう夏穂はつぶやいた。なんかあの女の子独り言言ってる、と注目でもされそうだが、残念ながら注目しそうな人がいない。そんなに気にすることでもないから注目しない、ということではなくて、本当に人自体がいない。あまり昼時の電車に乗ったことがないので慣れなかったが、こんなものなのだろうか。
そもそもなぜ昼休みが終わるか終わらないかという時間に夏穂が電車に乗っているのか。それは別に授業をさぼりたかったわけではない。今日は地域史の、第一回調査の日なのだ。まだあまり大学受験を意識しなくてもいい高校一年生の時に行われる地域史の授業。普段は水曜の5限と6限に設定されていて、昼休みに簡単なホームルームをして、あとは解散。それぞれの決まった駅まで自分たちで行き、先輩の引率のもと調査をする。そして終わったらそのまま帰ってよし、わざわざ学校に戻ってくる必要もない。特に最後の点は夏穂にとって、すごく助かった。『祭神線経由』、とわざわざ言っているところからも分かる通り、天照より先は祭神線ではなくなる。夏穂の最寄り駅であり、今回の地域史の調査先でもある海遼女子大学前駅は天照よりさらに3駅先で、おそらく祭神から向かって、大学まで往復してまた祭神に戻れば平気で6限まで終わってしまっているレベルで遠い。それに調査を終えればそのまま家に帰れる。夏穂にとってこれほどうれしいことはなかった。今年は水曜に地域史があります、ということを言うと、
「え?俺らっていつだったっけ?」
「え?忘れたの?木曜だよ木曜!私たち地域史の授業あったけど、部室に来てたでしょ?」
「え?そうだった?」
「あんたら記憶力悪すぎだろ!?」
と2年生組でコントが始まってしまったので、何も聞かなかったことにした。そもそも年によって地域史の曜日が動くこと自体、ちょっと不思議ではあるのだが。
要は地域史で忙しい水曜日は『サイハレ』には行けないことになる。あらかじめユッキー先輩はそれでも全く問題ない、と言っていたので安心した。
「......先輩、か......」
一応きちんと決められているわけではないとは言え、暗黙の了解で調査先は祭神線沿線、と決まっていたらしい。夏穂のように祭神線の先の駅周辺を調べたいという人や、あるいは父川から伸びる父川線(つまり七絵や奈津菜が利用している路線だ)沿線を調べたいという人はマイナーもマイナーなのだ。ところがどっこい、比較的最近の『サイハレ』卒業生で、夏穂と同じ海遼女子最学前駅周辺の調査をした先輩がいるらしい。その先輩も都合がつくということで、駅前で待ち合わせをすることになっていた。『サイハレ』の先輩だからどんな人なんだろう、もしかして変わってるかな、とわくわく、どきどきが半分ずつでさっきから夏穂は過ごしている。今あじさいという天の声が「お前もな」と言った気がするがそんなの知らない。
この駅周辺のスポットの中でもメインなのが海遼女子大学、そして大学のメインは何と言っても食堂のメニューのおいしさだ。もちろん夏穂は外から見るだけで入ったことはないのだが、いろいろなところから、あそこの大学は飯がうまい、ということを何度も聞いていた。それはぜひ地域史でも調べて、ページ埋め......おっと、情報拡散のために協力しなければ。そうでなくてもやはり利用者のほとんどが大学生であるこの駅周辺を調べるなら、大学の調査は欠かせない。とあれこれ考えているうちに、目的の駅に、
着かない。
そんな想像してるうちに着くほど近くはない。想像してわくわくするのもいいが何だか疲れてきた夏穂は寝ることにした。
さすがに寝れば時間もたくさん過ぎてくれるらしい。駅員さんが入って点検を始めたのをよそに夏穂は電車を降り、改札を出て辺りを見回した。大学の講義が終わったのかこちらに向かってくる人はいたが、駅前でずっと待っている人はいなかった。その人だろうと近づき、声をかける。
「あの、わたし地域史でここの調査をすることになった箕島なんですけど......」
「......ああ」
その男の人が振り向いた。見た目からあまり変わっている様子は見受けられなかった。夏穂を見て、にこやかに微笑んで、
「君が箕島夏穂さんか。よろしく。俺は西原稜宇哉。元『サイハレ』部員だよ」
とさらっと自己紹介をした。
「え......?」




