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サイハレ〜祭神高校、その歴史と現実〜  作者: 奈良ひさぎ
第2条:1年次科目『地域史』との関係上、『サイハレ』の所属部員は担当地域の熟知の義務を有する。

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第8話 行先決定

「......で、決めたの?希望」

「決めた決めた。海遼女子大学前。やっぱ家の近くだし、調べやすいから。それに意外と家の近くのことって知らなかったりするでしょ」

「海遼女子大学前って、対象外じゃなかった?」

「ユッキー先輩が言ってみたら、ってさ。天照より向こうから通ってる子がマイナーだから範囲が天照まで、ってされてただけで、明確に天照までしかダメとは決まってなかったはずって」


 これは私個人の感想かもしれないが、海遼女子大学前駅の周辺は、なんにもない。夏穂の家に遊びに行ったことがあるから知っているのだが、何かありますかと言われたら、強いて言うなら大学?......と答えざるを得ないくらいなんにもない。まず大学ができて、そこから街ができたという経緯があるらしい(夏穂談)。そのせいか住宅地はたくさんあるのだが父川のような大きな娯楽施設はない。さらに祭神高校の通学範囲になっていないのもうなずける遠さである。学校から下宿してはどうかとまで勧められたが、睡眠時間と授業に間に合うかどうかということを考えて、断ったらしい。


「でも1人だとどんな感じでレポート書けばいいか迷わない?そりゃまあ何年も前の先輩のレポートが手に入るなら話は別だけど」

「それがね、手に入るんだって」

「うそ」

「ほんと。しかも『サイハレ』の先輩。こういうこともあろうかと、残してくれてるって、ユッキー先輩が」

「さりげなく夏穂、一番ユッキー先輩と仲良くなってない?」

「なんで?まあ確かに否定はしないけど」

「何でもユッキー先輩がってこの間から言ってる気がして。気が合ったの?」

「まあ、そんなとこかな。ユッキー先輩とその先輩が個人的に仲良いらしいから、困ったらわたしを頼ってね、だってさ」

「頼もしいね~」

「ユッキー先輩、2年文系のトップ層なんだって。なんか憧れる」


 確かに初めて『サイハレ』の部室に行ったあの日だけでも、ユッキー先輩はすごいと分かった。かっくん先輩とひろと先輩は例の自主授業に忙しいから勉強の相談にはじゃんじゃん乗るよ、と言ってくれたし、その他いろんな相談に乗ってくれるとも言っていた。それから地域史の下調べはこんなのがいいよ、と本を教えてもくれた。『サイハレ』自体は実はまだ何する部活なのかあんまり分かっていないが、すごく頼りになる先輩ができて私たち3人みんなうれしく思っていた。


 初めて『サイハレ』を訪れた日から何週間か経っていた。基本的には月、水、金の週3回活動で、地域史の調査で忙しい時は無理して来る必要はないとユッキー先輩が言っていた。ちなみに実際たいていゴールデンウィーク明けという残念なタイミングにある中間テストの話はどの先生からも一切されていない。


ユッキー先輩の言ってたのは本当だったんだ!


......とよくある展開を迎える前にちゃんと行事予定表を見たのでそれはなかったが、一方でテストがないのを利用して地域史の話は大きく進んでいき、今日の地域史の授業で行き先を決めることになっていた。ちなみにそれまでの数回の授業で説明されたことはかっくん先輩たちの言っていたのとほぼ同じだったのでここでは割愛する。


「で?あじさいと結乃香ちゃんはどこ?」

「私はとりあえず近衛園。第二希望が言瀬で、第三希望が伊代」

「おお、用意周到」

「近衛園は大人気らしいからね。これでも足りないって思ったくらいだし」

「でも確か、全部祭神の近くだよね。それでいいの?もっと向こう、天照に近い方は......」

「祭神の方に来るのは初めてだし、せっかくならこっち方面、それも父川より向こうがいいかなと思って」

「なるほど。近衛園は大人気って言っても、どれくらいなのかはよく分かんないしね~。結乃香ちゃんは?」

「私は稲原。理由はちょうどあじさいの逆ね」

「稲原......?なんかあったっけあじさい?」

「特に行かないからよく分からないけど、それを調べに行くのが目的でしょ」

「......そっか。見事にみんな地元じゃないとこ選ぶね」

「むしろ地元をわざわざ選ぶ夏穂タイプの方が珍しいんじゃない?土地勘もあるし、退屈にもなるだろうし」

「それが退屈しないのがうちの近所なんですね、あじさいさん」

「大学の中入ってインタビューして、それでページ埋めれたら最高!とか考えてそう」

「なぜ分かった!?」

「いやだいたい分かるでしょ。そもそも大学ある時点でそこが主目的です、って言ってるのとほぼ同じじゃない」

「別に大学のことだけでページ埋めようとかは、お、思ってないよ!?それはさすがに、アウトになりそう、だし?」

「半分くらいはそれで済むと思ってるでしょ」

「半分も埋めちゃダメなんですか」

「開き直った!」

「正直に言っていいですか?今んとこわたし目線から見ても目立つの大学しかないんですけど!?調べていったら見方が変わるかもしれないけど、それでもメインは大学になるよ!?」

「まあまあ、......そういえば、その先輩のレポートは見たの?」

「ううん、今度見せてもらう。とりあえず決まらないと何とも言えないし」

「そうね」


 その日の5時間目が、地域史。その時間をまるまる使って、行き先が決められることになっている。理由は簡単。


「「頑張ってね、あじさい」」


 第一希望近衛園の話し合い、通称戦場に、私は乗り出していかなければならない。激戦区どころかマイナーどころも避けて一人勝ち組みたいになってる夏穂と、無事女子用の制服が届いてスカートも目が慣れてきた草津さんにエールを送られ、私たちは5時間目に向かった。



* * *



「最初はグー、じゃんけんっ......」

「あぁぁぁあああ」

「うおおおおそこパー出すか!?嘘だろおおっっ!?!?」


 まさにそこは阿鼻叫喚、近衛園に決まった者も漏れた者も叫ぶという熱狂の方向を間違えたライブ会場のようだった。

 ルールは簡単。どうやら近衛園グループだけは明確に定員が決められているらしく、倍率は実に5倍。その人数を2人ずつに分け、勝ち負けを決める残酷な1回戦。この時点で負けた人はあらかじめ決めておいた第二希望の教室へ即移動。一気に半分になるので勝てば爽快なのだが。

 この時点では勝って叫ぶ人はまだいなかった。勝ってもまだ倍率は2.5倍なわけで、はっきり言ってこの高校の入試の倍率より高い。負けた人も初っ端で負けたからある程度そんなもんだよね、と諦めがつくし、それにまだ第二希望が残ってるし、ということだ。ちなみに私は相手となったいかにも流れで近衛園組に来ましたよ感漂う、ちょいワル系男子をあいこ3回の末蹴落とした。


 2回戦。まだまだ人数が多い中、今度は適当に5人グループを作り、2人勝ち抜け制のじゃんけん。さすがにさっきのはまぐれで、無理かと何回も思った(あいこになることが多くそのたびにヒヤヒヤした)が、何とか2人目に勝ち抜け。


 本来ならここで3回戦に持ち込んで、地獄を味わう人が出るはずだったのだが、今年はどうやら寛容らしく2回戦で終了。つまり、


「通った......第一希望!」


 人生で1度は行ってみたかった場所、小京都近衛園に、弱冠15歳にして行けることになったのだった。

 ちなみに夏穂はユッキー先輩を呼んで騒がしくして半分無理やり海遼女子大学前に決めさせ(ちなみに1人だ)、草津さんは若干定員割れしていたおかげで特に問題なく稲原に決まったと、授業が終わってから聞いた。

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