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村長さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第2章 奴隷大国ホフタ
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王子様と三人の従者 sideライル


エル達と別れた俺達は、現在幽閉されている。

まさか、館に招き入れられた瞬間に魔法で眠らされるとは思わなかったからね。

前評判を過信しすぎた結果招いたことなので仕方がない。

俺の側には、アジュールとカンバーで少人数だ。

脱走しやすいメンツともいえる。

俺は、暗躍スキルが低いけど、アジュとカンバーはそれなりだから隙があればなんとかなる。

問題は…隣の檻から聞こえてくる呻き声達だな。

幽閉されてから少しずつ呻き声が減っているのだ。


「兄さん、さっきから人が全然出入りしてないけど…どうする?」

「カンバーとアジュは、隙を見て出られるときに出ていい。」

「ライルはどうするの?」

「俺は、何が行われているのか確かめる。」


こんな物騒なことに巻き込まれているんだから、真相を知っておきたい。

そうすれば、エルが来た時に役に立つ。

アジュもカンバーも何か言いたげだが、俺の考えが分かっているのだろう。


地下牢だから日が差し込まずジメジメしているが、地下牢独特の黴臭さがない。

ということは、檻の塗装具合から見ても最近作られた地下牢だ。

建物の下に後から作るという事は考えられないから、館とは別の場所だろう。

気が付いたことは、他にもある。

この地下牢の空気だ。

吸えば吸うほど気持ちが悪くなってくる。

まるで、ブルーノの洞窟から漂ってきたような重い空気…瘴気だ。


「ライル…真相を突き止めるのも大事だけど、限界が来たら一緒に来てもらうよ。」

「カンバーに俺も賛成だ。兄さんに何かあったらエルが壊れちゃうからね。」

「ははは…確かに。エルは、俺のこと大好きだからな。」

「「ムカつく。」」


緊迫した重苦しい空気が、エルの話で一気に払拭できたようだ。

離れていても凄い存在感である。

色々な話をして時間を潰していたが、どれくらい時間が経ったのか、呻き声がとうとう一つだけとなった。

ずっと呻き声を聞いていたら気が狂っても良さそうだが、俺達は健康な状態で三人揃っている上、なかなか神経が図太いようだ。

呻き声が減ったので何を呟いているのか聞き取れるようになった。


―グウゥ…勇者ナド…無理二決マッテイル…-


驚いたことが二つ。

俺の隣でアジュもカンバーも目を見開いて無言になった。

驚いたことの一つが、この町で世界禁忌とされている勇者召喚を行おうとしていることだ。

もう一つは、隣で呻いていたのは魔族だということ。言葉がたどたどしいので特殊モンスターかとも思ったが、よく見ると隣の檻から少しずつ瘴気が出ている。

瘴気は魔素が濃いから、大抵の特殊モンスターは気が高まって我を忘れて暴れまわる。

スタンピードに近い状態になるのだが、瀕死でも暴れる気配はなかった。

これだけの瘴気を出すという事は、先にくたばった魔族から噴出しているもので、残っている片言を話す奴は、魔族の低級魔人か知能の少ない中級魔人だ。

俺とアジュ、カンバーは、エルのことを考えて日々、ブルーノから瘴気の初歩的な訓練をこっそり受けていたので、この程度は耐えられるが…これ以上瘴気が噴出してきたら無理だ。

俺は、緊迫していることを悟ると生唾を飲み込み、同じ表情をしている二人を見た。


「ヤバいな…魔法を使って檻を破るか…」


―人間…カ?-


魔族の問いかけに、俺達の肌は一気に泡立つように鳥肌が立った。

地を這うように低く、耳にねっとりと纏わり付くような声に動きも息も一瞬止まった。


「そうだ…」

―オ前達ハ…抉ラレテナイノカ…-

「ああ、どこも怪我をしていない。」

―ソウカ………ナラバ…アノ人間達ガ言ッテイタ……餌カ―

「餌!?」


どういうことだ!?召喚した勇者に食べさせるとかか!?

それとも隣の魔族に俺たちを生贄として差し出すのか!?

いかん。俺が混乱していては、カンバーやアジュまで混乱してしまう。

慌てて取り繕うように息を一つ吐いてから二人を見ると、カンバーは青白い顔で膝を抱え、アジュは顎に手を当ててブツブツ何かを呟きながら考えているようだった。


―怯エテイルナ……一人呼吸ノ回数ガ…増エタ…-

「餌なんて言われたら動揺もするよ。」

―……人間達カラ聞イタ…-

「……なんて?」

―……ブルーノ…ダッセル…-

「なっ!なんだと!?」


なんで仲間の名前が?それに、その二人は特に特殊で、ただの犬扱いしてたし、ダッセルは仲間になったばかりだ。

アジュが、カンバーより真っ青な顔色で、見たことのない位目を吊り上げて唇を開いた。


「もう一人言っていただろ…」

―…アア…コイツガ一番重要ダト……他ハ諦メテモ…捕マエルト……-

「エルグラン…」

―…分カッテイタカ…-


眩暈を覚えた。

どうしてそんなに狙われるんだ。俺の可愛い弟は何かしたのか?

両目を抑えてため息を吐くと、凄まじい殺気を放っているカンバーとアジュの肩を軽く叩いた。


「これは、滅茶苦茶にしていかないとダメだね。」

―……ハハハ…コノ檻ハ…頑丈デ魔法ガ効カナイ…-

「なら、僕の出番だ…」

「俺の考えを確信したいから聞くけど…魔力の高い沢山の生贄が必要だってこと?」

―…魔力ダケデハナイ…色ンナ種族ノ血…勇者召喚ノ…成功率ヲ…上ゲル方法ノ一ツダト…言ワレテイル…-

「やっぱり…エルを狙っているのはここの領主だけじゃない。この国自体が、秘密裏に勇者召喚に手を染めようとしてるんだ。」

―……バカナ人間共ダ…勇者召喚ハ…御伽噺ダト…言ウニ…-


カンバーが、両掌をブロックの敷かれた床に置き、唇を手の間に近づける。


「大地に眠る植物たち…お願いです。僕たちを助けて…エルを助けたいんだ。」

―驚イタ…緑人族ガ一緒ニイルノカ…-


遠くの方から何かが近付いてくるような地響きを感じ、カンバーの願いに答えて植物がここまで迫ってきているんだと分かった。

…それにしても…これだけ地響きがしたらすぐにばれてしまうな。

予感は的中して、数人の足音がしてきたが、植物の方が到着が早く、床のブロックを太い根っこが押し上げて檻の基礎を壊していった。

日頃の行いがいいのだろう。上手い具合に壊されたブロックや壁が通路を塞ぎ、上から降りてきた人間が近寄ってこれない。

俺達は、成長を続ける木に掴まっていけば、建物から出られる。


―グォオオオオオオオオオオオッ!!!-


派手に壊しすぎてしまったようだ。

隣の檻も壊れて、先ほど話していた魔族が崩れ続けている瓦礫から姿を現した。

その姿に俺達は、命の最後を覚悟した。

片目と胸にぽっかりと穴の開いた10m以上もある真っ赤な飛竜が咆哮を上げて暴れ出していたのだった。


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