無茶はこっそりと
俺が部屋から出てくるのを心待ちにしていた仲間達が扉が開くと共に雪崩れ込んできた。
部屋一歩しか出てないんだけど…仲間でこの出待ち状態ってことは、ポールが言ってた親達とか本当に考えるだけで頭痛いね。
支度をしとけって言っていたはずの奴隷たちにもみくちゃにされながら無言でぐったりしている俺をブルーノとアクアがやれやれ顔で見ている。
この状況を受け止めろという事か。
更にめんどくさいのが帰ってきたようだ。
「エル…」
俺さ、話では聞いたことあったけど、マジでやる奴初めて見た。
号泣しながらのスライディング土下座。
女の子がするもんじゃないだろ!?傍から見たら俺とんでもない奴なんじゃないの!?
「サフラン、とりあえず泣いたままでもいいから立て。」
「でも…でもぉおおお!!」
「うっさい!お前に土下座されるようなことされた覚えがない!分かったか!
お前たちもいつまでも泣いてるんじゃない!とっとと次の組を助けに行くぞ!」
『了解!!!』
ったく、俺が目を覚まさなかったら行動に出れなかったんじゃないか?
手のかかる子供たちを持ったものです。
早くお父さん役の兄ちゃんに会いたいよ…そうだ、連絡係としてストラトスを隣町の領主邸に降ろしていくか。
俺は、宿の階段を下りながらストラトスを呼び寄せた。
「お前を隣町へ降ろす。連絡役になってくれ。」
「でしたら、町の端に降ろしてください。」
「どういうことだ?」
「少々気になることがありますので、そちらを調べながら参りたいと思います。」
「わかった。何かあったら随時連絡するように。リブラ。」
「はい、ご主人様。」
「お前もストラトスと共に行動してくれ。」
「畏まりました。」
二人に指示をしていると、自分たちには何もないのかとソワソワしている半獣人コンビが目の端に入ります。
うん。
何か指示しないとダメかな…
「イヴェコ、フィアット。」
「「はい、ご主人様!!」」
「お前たちは、また俺と行動だ。今度は、強敵になりそうだから心していくように。」
「「了解しました!」」
これ以上人員裂けないからね。やる気満々なところ悪いけど一緒に行動してもらうしかない。
今度の敵は、魔力を持っている特殊な子供ばかりを集めた奴らだ。
当然、昨日の奴らとは強さが違うだろう。
って言っても、こっちは龍騎士二人いるし、身軽な戦闘民族みたいなのが4人とモンスター2匹だから大丈夫だろ。
仲間で手に負えないとか…魔族くらいしか思い浮かばないよ。
おっといけない!フラグ立てるところだった!
宿の玄関に着き、ドアの向こうが騒がしいのを感じると肩掛け鞄から絨毯を取り出して、ロビーに広げた。
俺が、率先して絨毯に乗るとポールやサラ、他の仲間たちが何も言わずに絨毯に乗った。
ダッセルが、一晩で絨毯を乗りやすくするために、人数分絨毯に持ち手を付けといてくれたので、皆マントに身を包んで持ち手を握った。
ドアを魔法で開け、町の人間に囲まれない様、一気に飛び出して上空へと上がり、隣町の方へとスピードを上げて移動した。
後ろを振り返ると宿屋の周りに人がウヨウヨいて気持ち悪い。
普通に出なくてよかった…アレに掴まったら今日は移動できないよ。
《える、ぞわぞわするーーーー!!!》
「寒いのか?」
《オイラもゾワゾワする!》
「私もです。」
ストラトスも?リブラを見るとマントをぐるぐる巻いている。
他の仲間たちは、キョトンっとその様子を見て首を傾げる。
そういえば、ちょっとぞわっと来るけど…どうしたんだろ?俺は、上空の寒さに慣れてきたけど皆まだ慣れないし…ってそんな悠長な話じゃなさそうだな。
隣町の上空に薄っすら紫がかった雲が渦巻いているのが見える。
「ポール…」
「どうかしたか?」
「あれ。」
「隣町がどうかしたか?」
「マジか。」
ポールにもサラにもサフラン、フィアットやイヴェコにも見えていない。
ダッセルはというと、一つだけ大きく光る目が細められて奥歯をギリギリ鳴らしている。
「ダッセル?」
「召喚術です…拙者は、特殊な目を持っていますから見えますが、通常魔族や魔力が高いものにしか見えません。」
「隣町で召喚の儀式が今、行われているという事か!!!」
「はい。」
「兄ちゃん達が危ない…作戦を変える!子供達も心配だから二手に分かれるぞ。」
「ポール、サラ、サフラン、フィアット、イヴェコ、アクア。お前たちは子供達を奪還しろ。
残りは、俺と一緒に隣町に乗り込む!」
《なんでオイラはそっちじゃないんだ!》
「そっちの組は、魔族に対しての判断が効かない。万が一魔族がいた場合、お前が頼りだ。」
《そういうことか…オイラは、いぬっころよりも頼りにされてるんだな!》
否定したいけどしたら愚図りそうだから黙っていた。
ブルーノは、話し方が幼いだけで、芯は大人だから黙ってうなずいている。本当に大人です。
それにしても、想定外だな。
隣町の領主は良い奴って話は、出任せだったのか!?
「この辺りで別れよう。ポール達は、町で馬を借りてくれ。馬よりも早く移動できるものがあるんだったら料金が高くても構わないからそっちにしてくれ。」
「了解。無茶するなよ。」
「ばーか…兄ちゃんの前で無茶するほど勇者じゃない。」
「だな。」
町が丁度見えるところで絨毯から降りて鞄にしまい、サフランにストラトスの通信イヤリングを渡して簡単に使い方を説明した。
一通り打ち合わせが終わり、ポール達は正面から俺達は裏から入ることにした。
さっき、ストラトスが言っていた気にかかることに召喚術は繋がるのだろうか。
「ストラトス、さっき言っていた気になることとはなんだ?」
「領主の抉られた箇所です。」
「抉られた箇所?」
「片方の目玉と心臓です。それも綺麗にその部分だけは取られ、他は誤魔化す様に汚らしく傷がありました。」
「片目と心臓か…」
「魔族が召喚の儀式に使うときに必要となるものです。」
「何を召喚するんだ?」
「通常は、モンスターを作るときに使う魂を呼び寄せるため。それに使うのは、死んだ家畜や不要となったモンスターです。今回の様に、恐らく生きているうちに抉り取っているということは…魔族でも禁忌とされている術です。」
「魔族でも禁忌ってあるんだな。」
「はい…この術だけは例外です。失敗率がとても高く、失敗と言っても様々です。」
「そこまでしてなんで禁忌の術を…」
「考えられる術は…異世界勇者召喚です。」
「あー…それは…魔族には禁忌だな。」
うへー…考えられるのは、隣町の領主が正義感強すぎて勇者召喚に手を出しちゃったってことだよな。
あー…マジ勘弁してもらいたい。
異世界勇者召喚って全世界で禁忌になってる奴だろ。死人を生き返らせるよりやっちゃいけないものだぞ。
ストラトスが暗躍スキルで見つけた地下道へと続く穴を見つけ、その中を走りながら話を聞いていたけど…気が重くなってしょうがない…ってか…眠気が足にき出したな。
もってください、俺の体ちゃん!




