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村長さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第2章 奴隷大国ホフタ
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眠れる英雄と仲間達 sideポール

小さな少年から放たれた白い光の魔法は、子供たちを癒して大人たちの恐怖までも拭い去った。

元通りになった子供たちに、大人たちは涙を流しながら抱きしめ、今あることを噛みしめていた。

この感動的な光景に、エルの奴隷たちは目を潤ませていたが、所々切られたように傷ついて俺の腕で眠っている主人を何度も見ては唇を噛みしめた。

一番感動して泣いていそうなサフランは、珍しく険しい表情をして一歩引いて拳を血が滴るほど握りしめていた。

どうしようもないことだったが、自分が促してエルが傷ついたことに責任を感じ、自分自身に怒りを覚えているようだ。

誰も彼女を責めはしない。

そのことが、ますます彼女自身を苦しませることになっているのを俺とサラは知っているが、責めようがない。

サフランが言いださなければ、俺が言っていたことだ。

サラ、ブルーノやアクア、奴隷たちは決して口にはしない。

二匹は、エルが傷つくことを薦めない。

奴隷たちも同様だ。

サラは、いつの間にか俺よりもエルの騎士の様になっている。

だから、主に対して意見など出来ないから兜をガッチリ被って表情を隠していた。


俺は、エルを横抱きに抱きなおし、苦しげな息遣いをしている顔を見つめる。

守ると言いながら肝心な時に守れていない。

エルにしかできないことが多すぎる。

変わってやれたらどんなにいいか。


「ポール…宿に行きましょう…エルの傷を治してベットへ運ばないと…」

「ああ…」


サラが珍しく次の行動を移せと促してきたが、兜越しに声が強張っているのが分かった。

再会の感動うず巻く広場を複雑な気持ちを抱えた俺達は何も言わずに後にした。

町に残っていたストラトスの話では、前に泊まっていた宿に部屋を取っているので受付から鍵を貰うだけでいいらしい。

ダッセルが、歩いている途中でエルを運ぶのを変わろうかと打診してきたが、これは俺の役目だときっぱり断った。

これくらい楽にできるようでなければ、こいつの騎士とは言えない。


「「ご主人様…」」


心配するあまり、とうとうフィアットとリブラは泣き出してしまった。

傷つくエルを見たことがないから余計だろう。

宿に着くとイヴェコが珍しく率先して動き、鍵を手に入れると俺達よりも早く上がって鍵を開け、ドアに留め具を掛けて運び入れやすくしてくれた。

今迄だったらこんなに積極的に動かなかったのだが、耳と声帯が戻って自信も戻ってきたようだ。

ストラトスも負けじと部屋へ滑り込むように入ると、ベットの掛け布団を捲ってすぐに寝かせられるように整え、すぐさまクローゼットから寝巻を取り出して待ち構えていた。

至れり尽くせりだな。

クリーム色のシーツの上にエルを降ろすと同時にサフランが、自分の手の傷をそのままにエルへと回復術を真剣な表情でかけ始めた。

歩いているときに、傷を治すだけでなく内面も回復させる必要がありそうで、自分の今の技術だと落ち着いた環境で集中しないと出来ないと零していた。

確かに内側も傷ついていそうだ。

口の端に少し血が滲んでいたからな。


「サフランは、回復術に集中しなくてはならないから、お前たちは食事の用意と自分たちのことを済ませてきてくれ。」

『了解しました。』

《オイラ達はいいだろ?体洗わなくてもいいし…》

「洗ってこい。臭いペットはエルに嫌われるかもな。」

《入ってくる!!》

《まってよー!おれもはいるー!》


奴隷とペット達を部屋から追い出し、俺とサフランはエルの側に残った。

サフランは回復術。

俺は護衛だ。



正直な話では、それは建前で離れたくなかった。

奴隷たちと違って、エルが傷つくという事は俺にとっては心配よりも先に恐怖が来る。

何万ものモンスターが潰れて死んでいく光景よりも、血だまりの中で真っ白になっているエルの姿の方が、俺にとってトラウマだ。

自分が自分で無くなりそうな出来事など、後にも先にもアレだけだろう。


時間が経つにつれて徐々にエルの顔色が良くなってきて、息遣いも穏やかなものへと変わっていた。

一方サフランは、サラが帰ってきたことを確認すると魔力と集中力の使い過ぎで目を回して倒れた。

サラは、何も言わずに優し気な微笑みをサフランに向け、横抱きに抱き上げてドアへと歩き出した。


「ここの隣の浴場は温泉なんですって。気を失ってる間に体を洗ってすっきりさせてあげます。」

「そうしてやってくれ。そのマヌケな寝顔だと朝まで起きないだろうからな。」

「エルは…明日、目を覚ますでしょうか?」

「こればっかりは分からない…国境の村みたいに、数日間は短い時間しか起きれない可能性もある。」

「でも、あの時の様にゆっくりしていられる状況ではないですから…困りましたね。」

「まずは移動手段だな。エルの様に飛んで行ければ色々と解決するだろうが…」

「あ…ダッセルに聞いてみるのはどうでしょ?」

「そうだな。」


話がひと段落したところでサラは、サフランを抱いたまま部屋を出た。

俺は、エルの寝ているベッドに腰を下ろし、サラサラの短い髪に指を絡めながらお祭り騒ぎの始まった町の騒音を黙って聞いていた。

子供たちが戻ってきたから祝いとして騒ぐようだ。


「エル…早く目を開けろ…皆楽しそうに騒いでるぞ。お前はいっつも皆が楽しそうに騒いでいる時に寝ているな。」


自分の村が救われた時も国境の村が救われた時もこの町に子供達が戻ってきた時も。

一番の盛り上がりを見ていない。

見ていたらくよくよと悩むことも少なくなるものだというのに…傷つくものも救われるものもいる。

オマエは、傷つくものばかり見ている気がする。


「奴隷たちは、まだ戻ってこないようだから体でも拭くか…」


部屋に備え付けられているポットからお湯を出して桶に入れ、鎧や下に着ていた服を脱いで全裸になり、荷物から花石鹸を出して体を洗いだした。

そんなときだ。


「あのな…だからなんで毎回お前は、俺が目を覚ますと全裸なんだよ…しかも、泡付きとか気持ち悪い。」

「今回は、目を覚ますのが早かったな。」

「サフランが回復術頑張ったみたいだから…体が前回より軽い…まぁ、眠気凄いけど。」

「明日もバッチリ働いてもらうから今は寝とけ。」

「……お前は…早くブラブラしたもん洗って服着て寝ろ…変態…」


コイツは…やはり俺の全裸姿が好きなようだ。

俺の全裸を見てからスヤスヤと寝れるんだからな。



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