宅急便は空から
洋風っぽい立派な館です。
うん。豪邸だとは思うよ。ただ若干古くて端々汚れてたり、枯れた蔦が巻き付いていたりしてるけどね。
情報によると、ここの領主は、自分の利益よりも町民の利益を最優先に考えるそうで、不作になったり、自然災害とかが起こるたびに、自身の財産を切り崩して補てんしているそうだ。
大概、不作とか自然災害で町が苦しくなると、国から援助金が出る。
俺の国もそうだったから。
ただ、がめついこの国は、援助金を出したら、そこから3年は重い税金+αのマイナス要素まで付いてくる。
コネや裏で通じている場合は、何らかの計らいを受けて免除になるので、不作でなくてもバンバン請求する。
コネがない領主や内部を知っている領主は、援助金を請求しないのだという。
一人の人間と同じで、いいところもあれば悪いところもある国のようです。
領主の館の入口とも言える大きい観音開きの扉の前で兄ちゃん達を降ろして奪還組の俺達は、昨日サラから聞いた方向へと絨毯を飛ばした。
警備の人が、化け物を見るような眼で見て固まってたけど、そりゃ空から人が沢山降りてきて、やいやい言った後に何事もなく置き土産的に数人置いて行くんだから、怯えるし何を口に出したらいいかわからないよね。
俺も村でそんなことあったら恐怖に立ちすくむ。
《える、あっちのほうから、たくさんのにおいがする。》
「了解。」
ブルーノに言われるがまま魔法を調整して方向転換し、先ほどよりも少しゆっくり目で飛ばした。
あんまりスピード出てると通り過ぎちゃうからな。
だんだん緑が深くなり、木々に覆われた森の上空へと着いた。
「ブルーノ、匂いを追えてる?」
《うん。にんげんのにおいは、もりとまざらないから。》
《人間には分からないかもしれないけど、独特なんだよ。特に、怯えている人間からする匂いはよくわかる。》
木に引っかからないギリギリの高さを念の為飛び、その内人為的な音が聞こえてきた。
護送馬車の車輪の音だ。
木の隙間から時々見える金属の檻に、小さな手がいくつか見えた。
間違いなく、奴隷を運ぶ護送馬車。
相手に気が付かれないようにいこうかと思案していると、我慢できない二人が剣を既に引き抜いて飛び降りていった。
脳みそ筋肉だと敵を発見したら考えなく襲っていくの?本能なの?
「このバカコンビ!!!この高さから飛び降りるバカがいるか!!ってお前らもか!!!」
「「申し訳ありませーん!!」」
「その申し訳ないって、微塵も思ってないだろ!!!」
騎士コンビの後を追うように、半獣人コンビも今まで見たことのない笑顔で飛び降りていった。
えー…脳みそ筋肉が増えたの?これ以上はお腹いっぱいだよ…
下では、既に戦闘が始まっていて、護送馬車には専属の騎士や用心棒など戦力の高いものもいたようで騒がしくなっている。
強い奴が居なかったら、龍騎士二人なんだから速攻倒しちゃうので静かなまま終了する。
騒がしいという事は、それだけ強い奴がいるという事だ。
呆れて下を見下ろしていると、俺の隣でソワソワしている連中がいる。
優しい俺は、笑顔で下へ行けと無言で指を指した。
《ひゃっほー!》
《初めての戦闘だぜ!魔法使いまくってやる!!》
「血が騒ぎますわね!ほほほほほ!!」
「拙者もこの新しい武器で暴れますぞ!!」
サフランにいたっては、暗躍スキルから獲得した身体強化の精度を確かめたいようだ。
ダッセルは、新型の武器を開発したので試したいそう。
すっかり、戦闘民族です。
みんな身体強化できるとか軍隊みたいだね。
俺は…とりあえず戦況を見てから突入しようかな。
べ、別に、乗り遅れたわけじゃないんだからね!!
ってか、あの半獣人コンビは、俺を守るために参加したんじゃなかったのか!?
戦いは、アイツらに任せて、平和主義の美少年様は、勘違いで捕まってしまった子供たちを解放しようかね。
手っ取り早くさ。
こういうとき、カンバーが居てくれたらよかったんだけど仕方ないよな…
「えっと…カンバーが居ないからなんなんだけど…そこの檻を魔法で持ち上げたいから、ここら辺の木をちょっとばっかり切らせてもらってもいいかな?それか、避けてくれるとありがたいんだけど…って言っても通じないかー…うん、そんな気はしてた…」
草木と話ができる緑人族と一緒にいると、むやみやたらに木を切ったり、折ったりしたら悪いかと思ってしまうんだよね。
だから、カンバーが居ないときは、一応声をかけるようにしてるんだけど…今回の森の木達はなんだか突き抜けてるな。
もっさもっさ生え放題だった木の枝を木自ら葉っぱと蔦を使って伐採していき、枝が少なくなったところで左右へと撓った。
うっはー…話が出来なくても何とかなるもんなんだな。
ブルーノが居たら、また変態発言されたのかもしれない。
「えっと…避けてくれてありがとう…」
うん、引くよね。普通は引いてもいいんだよね!?
声に出したら自分が引いてることが改めて分かったよ。
木々が、少なくなった枝をわっさわっさ揺らしている。
風が吹いていないのに揺れるとか、ここまでの木々が起こしたこの世の終末みたいな光景に、下の戦闘が静まり返る。
DE・SU・YO・NE
俺が逆の立場だったら泡くらい噴いちゃうかもしれないよ!
「エル…アイツ何やってんだ?…変態も大概にしろよー!!」
「うるせーよ!変態に言われたくない!!自分の役目に集中しろよ!脳みそ筋肉!」
ポールめ!こんだけの距離なら聞こえんだよ!!
変に注目を集めたついでに、一息ついてから檻を重力魔法で持ち上げた。
藍色に光る檻の中にいる子供たちはより一層怯えているように見える。
自分と同じ高さまで檻を上げて、子供たち一人一人を見ていくと、やっぱりご丁寧に焼き印が付いていた。
しかし、誰かと契約したというものではないので印だけのようだった。
奴隷の仮契約。
焼き印の真ん中に主の名前を追加しなくては、本契約にはならない。
持ち主が付く前で助かったと言える。
「おーい、こいつらは俺が貰っていくぞ!命が惜しければ、俺のことを報告しに主の元へ戻るがいい!そうでなければ、この場で消えてもらう。」
「あ…あれは…噂の奴じゃないのか…」
「アレを捕まえたら…」
商人達だけでなく、用心棒や護衛の騎士までが目の色を変えて俺を見てくる。
しかし、その欲に塗れた者たちの手が、俺に届くことはなかった。
飛び上がって来ようとした者たちから順番に地を這う事となった。
騎士コンビに足を切り落とされ、半獣人コンビに腕をつぶされ、それ以外の者は、ペットコンビとダッセルによって切り裂かれた。
サフランはというと…切っては傷口を微妙に回復させるという鬼畜を発揮していた。
いっそ殺してやった方が優しいかもしれない。
下の騒ぎが静まったところで、返り血塗れの仲間にぬるま湯を掛けて綺麗にし、絨毯へと重力魔法で乗せてやった。
一件目終了したから町まで一旦戻るか。




