空飛ぶジュータンは浪漫
辺りに一応警戒を向けながらも門へと辿り付いた俺達は、フィアットとイヴェコの自信に満ち満ちた表情と立ち姿を見て目を見張った。
あれが、おどおどしていつも人の顔色を窺っていた二人だろうか。
驚きのあまり、足を止めているとサフランが、腐った会話とどうでもいい話以外で初めて目を輝かせて走り寄ってきた。
こんな可愛らしい表情もできるんですね。いつもそうだとお母さんは嫁ぎ問題を心配しないんだよ?
「エル!!聞いてください!フィアットとイヴェコが、すっごく震えながらも回復魔法を掛けさせてくれたんですよ!」
「うん。全然オーラが違うから驚いたよ。いやー、無理だと思ってたんだけど、言ったかいがあったな。」
「え?二人が自分で決心したんじゃないんですか!?」
「二人が、リブラとストラトスに影響されて焦っていたから、そんな心配しないよう言ってから楽な任務に就かせようとしたら、俺と一緒に行動したいって懇願されちゃってさ…」
「それで回復魔法耐えられたら連れて行くって言ったんですね!?もう!何事かと思ったら魔法を掛けて欲しいって…怖いながらも決心したんだなって、怯えまくって吐きそうになってるのを見なかったことにして、心を鬼にしてかけたんですよ!?」
「え…本当に鬼だな…」
「もう!!そんなことだったなら無理に掛けなかったのに!」
「いや、結果オーライだからいいだろ。終わり良ければ総て良しだ!」
お疲れさんの言葉の代わりに肩を軽く叩いてすれ違い、ワクワク顔で待っている我が子のような奴隷たちの前へと進んだ。
フィアットとイヴェコは、フードを取ってふわふわの耳を見せてきた。
これは…再生してるじゃないか!傷が目立たなくなるくらいにしか思っていなかったのに…後ろを振り返るとドヤ顔の残念巫女がいた。
「サフラン…おまえ…」
「むふふ!この旅でもちゃんと自分を鍛えていたんですよ!回復魔法もかなり上達したんです!フィアットやイヴェコくらいの傷なら再生しちゃいますよ!
…腕とか足レベルだと無理ですけど…指の先位なら…」
「だんだん頼りないこと言っていくなよ。まぁ、旅をしてたら腕とか足とかもげても回復できるようになるだろ。」
「どうですかねぇ…最近、魔法よりも暗躍スキルの方が上りが早い気がするんですよね。」
「そろそろ巫女廃業か!?」
こいつ巫女に向いてなかったんじゃないか?ってか最近腐った会話ばっかりしてるから聖魔法成長し辛くなってるとか…あり得るな。
生暖かい目でサフランを見た後で、目の前の二人のハーフビーストに慈愛に満ちた笑顔を向けた。
本当に良かった。
フィアットもイヴェコも切り取られた部分が、禿げになっちゃってたし、あちらこちらに付いていた傷跡もケロイドっぽくなってたりしてたから痛々しかった。
イヴェコは、喉にあった酷い傷跡がなくなり、綺麗に喉仏まで再生していた。
これで、声が出ることだろう。
「二人ともよく頑張ったな。」
「ははい!耳が戻って傷もなくなって…どどもりも少しだけになりました!」
「エル様…これからも貴方様の為に力を尽くします。」
「はは…良かった…」
俺は昔からこういうのに弱い。
ついつい、声が震えて心の汗が出てしまった。
《える…なきむしなの…かわいい…》
《お前が言うとなんか怪しいからやめろよ!》
「本当に油断ならない犬だね…垂らしてる涎拭いたら?」
感動している側で、ペット達とアジュの話が聞こえ、涙が一瞬で乾いたよ。
俺と一緒にウルウルしていたハーフビーストコンビも苦笑に変わっちゃったしね!
人数が多いと感動すらままならないようです。
全員揃ったし、絨毯出していくかね。
昨日考えたんだけど、飛んでいったら偉い早く移動ができるから、説得組を隣町に降ろしてから護送馬車を追うことにした。
隣町に行ってから、ブルーノに頼んで匂いと探索スキル二つ使って護送馬車を探す。
恐らく一緒に移動をしていないだろうから、近場から一つずつだな。
周辺を絨毯で探って…大体4日くらいで収束する予定。
「随分大きい絨毯を買ったんだね。」
「全員乗せて移動するから。一人一人に魔法を掛けるよりも制御が簡単だし、荷物も運べるからね。」
「なるほど…考えたね。」
「前から考えてたんだけど、俺達の国だと目立ったら速攻捕まっちゃうでしょ?ここだと、逆に目立った方が、他の方面に被害が出なくて済むから。」
兄ちゃんは、何も言わずに真剣な表情で俺を抱きしめてきた。
俺が責任を感じていることに、心を痛めているようだった。
本当に俺のことを分かっている兄で助かります。
イケメンです。
スパダリです。
おっと、いけない。また、脳内お兄様フェスティバルを開催するところだった。
煩悩を散らす様に兄から離れて、両頬を叩き、絨毯の上に乗った。
「皆様、絨毯にご乗車ください。これより、当機は隣町へと向かいます。振り落とされない様、しっかり絨毯にお掴まりになってください。」
アナウンスを終了し、絨毯全体に魔法を掛けると絨毯が藍色に光り出した。
皆は、初めぽかんっとした顔をしていたが、我に返ったものから続々と絨毯に乗って座った。
一見すると光ってる絨毯の上でピクニックをしそうな感じだが、それも束の間。
全員が乗ったことを確認すると魔力の量を上げてゆっくりと上昇した。
「空の上は寒いので、マントでしっかり暖を取ってください。それでは前進しまーす。」
ある程度の高さまで行ったら、水魔法を使って隣町方面へと出発した。
風魔法も練習したらもっとスムーズに進みそうだな。
俺が使えないのが、聖魔法、火魔法だな。
まぁ、試してない魔法の方が多いからまだまだ増えるだろうけど。
風魔法は使えるようになりたいなー。色々便利だと思うし。
この事件が片付いたら、どっかの町で家でも借りて修行してみようかな。
旅の最中だと落ち着かないしね。
隣町に向かっている最中に、みんな何か騒ぎながら行くかと思ったら、寒さと喉の渇きであまり騒がずあっという間に隣町に着いた。
隣町は、国境の町ほどは派手じゃないが、上空から見ていて豊かな町だと思った。
広さは、こちらの国の村より2倍くらい大きい。
小高い丘の上に立っている広い屋敷が、領主の館だろうか。
まぁ、大体そういう感じだって相場は決まってるよな。
緊急事態だし、門を通らずに直接館へと降りることにした。




