子供は子供
気がついたらペンを握りながらベッドで寝ていた。
カーテンの隙間から差し込む朝日に、顔を顰めながら目元を手の甲で擦った。
見ない。
ポールの気配がする方は見ないよ!俺は学んだからね!
完全に起き上がって目を開けるが、気配のする方から一向に声が掛からない。
俺が目を覚ましたらすぐに話しかけてきそうなものだが…不思議に思った俺は、何も考えずにポールの方を見る。
こいつ!
無言で全裸ポージングしてやがった!しかも、なにそのドヤ顔!朝からイラッとするわ!
俺の表情ですべてを察したのか、満足げな笑みを浮かべて服を身に着けだした。
「エル…スケベだなぁー」
「今日という今日は勘弁ならん!!!」
「起きてるなら食堂に来なさい!」
「「はい!」」
兄ちゃんがすかさず俺とポールのやり取りに入ってきましたよ。
どうやら探知の性能が上がって、俺が起きたのが分かるようです。
俺は、昨日用意しておいた服に着替え、肩掛け鞄を持った。
はー…あの女装とはおさらばです!
やっぱりズボンは落ち着くわー。ヒラヒラしないし、動きやすいったらない。
スキップしながらポール、ペット達と賑やかな食堂に向かう。
しっかり食べてハードな一日を乗り切らないとな!
仲間たちは俺よりも早く目が覚めたらしく、早々に朝食を食べ終えて各々の用事を済ませるために動き出していた。
奴隷組は、ダッセルを除いて俺の側で契約の為に待機。
他は、旅に必要なものの買い出し。
用事が済み次第、町の門へ集合することになった。
皆をあまり待たせるのは忍びないので、急いで食事を取り、奴隷たちと共に奴隷商人の元へと向かった。
朝でも関係なく人通りが多いこの町は、俺達がぞろぞろ歩いていてもフードさえ被ってしまえば目立たない。
今日は、白い目立つフードマントじゃないからな!
昨日の道を探るために辺りを見回すと、袖を数回引かれた。
「昨日ぶりだな。こっちへ…」
やはり、昨日同様奴隷商人が近づくとみんな気が付かない。
ふと気が付いたので奴隷商人の後を歩きながら訪ねてみた。
「気配を感じないのは…ダッセル特製の魔道具か?」
「ご名答。あと3個素晴らしい魔道具を貰った。それが、今回の代償だ。」
「なるほどね。」
昨日来た裏路地へと入り、店へと続く階段を下りていく。
扉も昨日と同じように開いたが、長い廊下を少し歩いてから隠し通路へと案内された。
この店は、防犯の為に、難しいからくり屋敷状態にしているのだという。
迷ったら困るのでしっかりと商人の後ろをついていくと大広間へと着いた。
床には5つほどの種類の違う魔法陣が展開されている。
そのうちの一つへと促された。
魔法陣が青く発光して、床から浮かび上がっているように見える。
商人に言われるがまま、一人一人と奴隷契約を正式に結び、皆の体に印が浮かぶ。
これで、体に付いた焼き印の後はただの傷跡となった。
この契約は、凄腕の奴隷商人でないと出来ないらしく、この商人は一流と言える。
「なぁ、これからもアンタに世話になる機会がある気がするから、名前を聞いていいか?」
「お互いに世話になるだろうな。ワシの名前は、ツァルだ。」
「これからよろしくな、ツァル。」
「ああ。これから子供たちを助けに行くんだろ?がんばれよ。」
「任せとけ。」
どちらからともなく握手を硬く交わして、帰りもツァルの先導の元店を後にした。
子供たちをここに連れてくるよう、領主に言わなくてはならないか。
地上に出ると、半魔族兄妹は俺に一礼して蜃気楼のように目の前から消えた。
「ごごごごご主人様…りりりリブラ達は?」
「俺の命令で別の任務に就いてもらった。お前たちは、兄ちゃんと共に隣町の領主説得組に入ってくれ。」
「………」
珍しくイヴェコが首を横に激しく降った。
それに続いてフィアットも首を横に振った。
「二人ががが…居ないなら…わわわわ私達が…ごごごご主人様を守る!!」
「………!!」
二人はいつになく必死で俺に縋り付きながら懇願してきた。
恐らく、ここのところ兄妹に仕事をきっちり与えていたのに、二人にはそんなに与えていなかったから捨てられるとでも思ったのだろう。
サラもサフランも同じような時があったからな。
「二人とも、そんなに必死にならなくても…あ、そこまで俺に付いてきたいならサフランからの回復魔法を受けることだね。それが出来たら俺のいる奪還組に入れてあげる。」
「「!!」」
今回ばかりは、強さが必要な奪還組に入れるのは考え物だからなーって、考えて無理難題だと思ったことを言ったら、あっという間に二人が半魔族兄妹みたいに蜃気楼的消え方をした。
えー…マジっすか…
今頃、サフランとサラとカンバーは驚いてるだろうな…買い物楽しんでるとこ悪いけど任せる!!
少々お疲れ気味の俺は、ボディーガード代わりのペット二匹とカーペットを買いに大きな商店へと向かった。
皆乗れる位の大きなカーペットがあればいいけど…板とかに乗ってもいいけど、鞄にしまうの大変そうなんだもんなー。
この肩掛け鞄もダッセルに頼んで無限とまではいかなくても拡張して貰おうかな。
表通りに出て、昨日目星をつけていた商店へと足早に向かった。
しっかりした佇まいで4階建てで珍しい。
レトロなビルだよ、これは。
また、入口に立ちっぱなしになってると、邪魔だと急かされそうだから立ち止まらずに目的の階へと移動した。ペット禁止じゃない辺り、異世界だな。
沢山の布や糸、紐やリボンやカーペットが並んでいる。
うん!某有名生地屋みたいだね!
あれもこれもって目移りをして、一日中居れそうだけど早く決めて門に向かわないと。
高いのじゃなくて安くても厚手のしっかりしてそうな…あっ!これいいじゃん!
模様がそんなになくてバカでっかい!値段もお手頃!ってか見切り品だしね!この札いいな―…みんな好きだよねー、値引き札。
カーペットを持つのにペット二匹が手伝ってくれて何とか会計を終え、配達を頻りに進めてくる店員さんに曖昧な笑みを浮かべて一人と二匹でカーペットを店から持ち出した。
鞄に入れたら変な騒ぎになりそうだからね!
早々に裏路地に入って、カーペットを鞄に押し込み…ってか、鞄がカーペット吸い込んでいったように見えたけどね…まぁ、無事に入れて門へと向かった。




