子供は徹夜しちゃいけません
ギルドの協力者も獲得でき、身元もしっかり確認が取れた。
夫婦で冒険者をしていたが、ダンジョンに潜るときやモンスターの討伐等の依頼を受けるときには、ギルド専用の託児所に預けていた。
しかし、事件の起こる前日に、自分のランクに合った高額賞金の出る討伐依頼があったので、ギルドの託児所に預けようしたが、定員がいっぱいで頼むことが出来ず、この町にある民間の託児所へと預けることにした。
これが運命の分かれ目だったようだ。
他にも数人同じ理由で民間託児所へ預けたそうだ。
ギルドの託児所では、預かっている間は町に連れ出すことはせず、部屋で勉強をさせたり、地下闘技場で運動させたりする。
連れ出さない理由として、依頼によっては、逆恨みした奴が冒険者の子供を狙って憂さを晴らそうとするからだ。
民間の託児所は、親の職業は関係なくみんな平等に預かる。
事件当日、民間の託児所では、運動不足を解消するために町の端にある大きな公園へ散歩に来ていた。
その日はとても過ごしやすい天気で、他の託児所からも子供たちが引率されてきていて、結構な人数の子供が公園内にいたのだ。
そこを狙って、闇家業の奴らが攫って行ったり、貴族に繋がっている兵士が難癖をつけて奴隷落ちさせたりしたのだ。
大体、協力者夫婦のランクがDランクなのに、高額の討伐依頼があること自体おかしい。
募集人数も制限がないので、Dランク以上ならだれでも参加できた。
不思議に思っていた俺に、ポールが追加で説明してくれた。
数多の修羅場をくぐってきた冒険者がこの手の可笑しな依頼に引っかかったのにはわけがあった。
依頼主の名前。
依頼主は、皆に好かれている隣町の領主の名前だったのだ。
この国に居たら大体の領主の違いが分かっているのだという。
こいつは、城との繋がりが深いろくでなしとか、逆にこいつは、領民のことを考えてあれこれ動いている領主とか。
そういうことが分からないと、恐ろしくて冒険もままならない。商売も農業もままならない。
だからみんな、この領主が依頼してきていることなんだから大丈夫だろう。力になろう。
そんな気持ちだったそうだ。
事件が起こった後、不思議に思ったギルドは領主の元へと赴いて話を聞いた。
すると予想通り。
領主は、依頼した覚えはないというのだ。
ギルドは依頼書を領主に見せると、領主は本当に身に覚えがないし、サインも自分の筆跡ではないとその場で自分のサインを書いて見せてくれたのだという。
とても特徴的な書き方なので、すぐに依頼書のサインが偽物だと分かった。
領主は、依頼書のサインを見たことがあるといい、書斎から先代の領主の書類を取り出して見せた。
しかし、現在先代領主は亡くなっているのでサインのしようがない。
依頼書を受け取ったギルド職員は、先代の頃からいるオジサン職員だったので疑問に思わずに受理したという。
一体誰が、ギルドに依頼書を持ってきたのかという話に進んだが、オジサン職員は覚えていないのだという。
おそらく操作性の魔法を掛けたのだろう。
ギルド内で魔法を使うと職員に知らされる魔法陣が仕込まれているのだが、それに反応しないほどの極微量の魔力でオジサンに魔法を掛けたのだ。
完全に仕込まれた大規模な誘拐事件。
俺は、探偵でも何でもないから証拠集めして追いつめるとかしないよ!
犯人現行犯逮捕で地面とお友達になって貰うよ!下手したらトラウマだったけど、細胞レベルで地面と友達になって貰うかもしれない。
ギルド関係者で攫われた子供の数は、32名。
ギルドとは関係ない攫われた子供は、37名。
最近治安が良くないという事で、託児所もある程度考えて、誘拐が多いハーフや亜人種は職員数名とお留守番させていたのだという。
人間ならよっぽどのことがないと攫われたり、奴隷落ちにされたりしないと安心していたところを容易く付かれた結果となった。
「ポール、その隣町の領主は協力者になりそうか?」
「声を掛けたらもろ手を挙げて協力するだろう。」
「ギルドの話じゃ、自分も関係者だと落ち込んでいるそうだから…むしろ声をかけてあげて欲しいです。」
「明日、隣町方面へ行こうかと思っていたが…奴らは隣町を利用せずにその先の町を利用しそうだな…」
「領主が目をかなり光らせているから、隣町に行っていたらとっくに掴まっているだろ。」
「移動速度から考えると、隣町を避けて…こっちの町に行く途中にいるかも。」
「サラ…ギルドで地図貰ってきたのか!賢くなったな!」
「うへへへへ。」
「笑うならもっと品よく笑いなさい。俺は、お前の行き遅れを肌で感じるよ。」
地図から見て、サラが言っていた場所付近で奴隷を解放した場合、やっぱり隣町の領主の協力が必要だ。
協力要請組と解放組で別れるか。
俺は、奴隷契約された子供がいた場合、解放術をしなくてはならないから解放組。
奴隷たちは…どれくらいの期間は慣れて大丈夫なのか、明日奴隷商人に聞くか。
数日くらい離れて平気なら協力要請組だな。
兄ちゃんとアジュ、カンバーは、協力要請組。
騎士コンビとサフランは、解放組。
ブルーノとアクアは、俺と来たがるから解放組。
こんなもんかな?
「二人ともお疲れ様。先に休んででくれ…あ、ポール!脱ぐなよ!」
「脱ぐなよって言うのは、脱いでおけって言うフリだろ?」
「違う!サラは、鼻息荒くて怖いから早く自分の部屋に行きなさい!」
変態騎士コンビをベッドと部屋へ追い出すと、恐らく呼ばれ待ちしている奴隷を呼んだ。
「ストラトス。」
「はい。」
「待たせて悪かったな。」
「いえ、エルグラン様の為ならいくらでも待っています。待っている時も幸せですから。」
「なに、その初デートカップルみたいな返答。まぁ、いいや。で、どうだった?」
「はい。攫われた奴隷ですが、エルグラン様でないと分かると、身体能力や魔力の強いもの以外は焼き印を押されて売られて行っているようです。」
「選別されたもう一方は?」
「どうやら儀式というモノに…生贄として…」
「分かった。」
儀式の生贄…一体何の儀式だ?
生贄を対価とするのだから闇の召喚魔法か?
ストラトスもはっきりとは分からなかったみたいだから掘り下げることはやめておくか。
はっきりしたことが分からない以上、憶測の域を出ない。
「貴族のことですが、隣町の領主は代々、城からは疎まれているほど正義感溢れ、平等な統治をなさっているようです。」
「ギルドで聞いてきたことと同じだな。やはり、協力を願うなら隣の町の領主だな。」
「あと、気になることが…この町の領主なんですが、大量誘拐事件の翌日から姿を眩ませているそうです。」
「誘拐事件に一枚噛んでいるか…それとも何か知っていて消されたか…調べてみる必要がありか。」
「私と妹で調査続行しましょうか?」
「明日、奴隷契約を正式に結ぶ予定だが…結んだら何日くらい離れても平気だ?」
「正式になら5日でしょうか…」
「4日で分からない、もしくは危険な目に合ったら調査は打ち切りにして合流してくれ。」
「分かりました。」
「連絡方法として、ダッセルから面白い魔道具を提供してもらったからこれを使ってくれ。」
イヤリング型通信機の片方をストラトスに渡し、使い方をしっかり説明して装備させた。
奴隷商人には連絡を取って有り、明日契約をする話も通っている。
契約を完了させ次第、領主捜索隊として半魔族兄妹は別行動になることを朝、皆に話さないとな…
屋根裏で待機してるリブラやフィアットにも寝るように促して、両手を上にあげて伸びをした。
自然に大きな欠伸が出る。
明日買うものとか、行動、その他をまとめて紙に書いておこう。
こりゃ、明日の朝日は黄色く目に映るだろう……サラリーマンみたいだな。




